#4 体力と根性には自信あります
高校生たるもの学校へ行き、勉学に努めるべし。
義務ではない教育になったことの影響なのか、内容も段違いに難しくなったように感じる。
あと、指導方針についても理解の遅い子供に合わせるような丁寧さは、綺麗さっぱり消えてしまったように感じる。自慢ではないが、俺は理解の早い方ではない。
つまり…
「今月末のテストやばばのば…」
現在7月の第1週であり、夏休み前の定期テストが3週間後に控えているのである。
コツコツと積み重ねてきた者にとっては、これまでの知識の確認と、忌々しくも新しくやってくる知識を詰め込む時期だが…鋼太は積み重ねない者である。
「鋼太くぅ〜ん、またまたテストの時期が来てしまったね。前回は何とか赤点回避してたけど、今回も楽しみだね!」
今絡んできてるのが今永将吾。中学時代から何かと一緒にいる悪友の類だ。
こいつも決して勉学の神に微笑まれてはいないが、俺の方がテストの出来は悪い。
「まじでうるせぇ…。学力で競争させようとする社会が悪いんだ。」
「鋼太が得意の体育でも競争はしてるし、そこではピカイチじゃん。体育科があるとこ行けばヒエラルキーのトップになれるよ。」
「そんなんほとんど私立だし、この近くにそんな学校はありませーん。」
「いいじゃん遠くの学校で、一人暮らしでもしてさ。鋼太の家歴史あるらしいし、金が潤沢にあるんでしょ。」
「ウチに金があるなんて聞いたことねぇよ。そんなんあったらまずはあのボロい店改築してるだろ」
「あそこは国立公園近いし、ああ言う外観の方が観光客来るからワザと残してんだって。蔵とかあるなら探索してぇわ」
そんなふざけた会話をしつつ、次の授業である体育の準備をする。
男子はこの教室、女子は隣の教室を使って体操着に着替えをしてから、グランド集合する。今日は確か陸上関連だったはずだ。
「最近暑いよな…こんな暑い中グランドで走り回らなきゃと思うと寒気がしてくる」
「暑いのに寒気ってどっちだよ。それを言うなら嫌気がさすだろ。」
「鋼太は球技もだけど、屋外スポーツ全般マジですごいから羨ましいよ。何で部活はいらねぇの?陸上とか凄そうじゃん」
学生の本分は勉強だが、部活動に青春を捧げる者が多くいると思う。しかし、俺は部活動の類には関わらない学生生活を謳歌している。
「俺も運動を全くしてないわけじゃないのよ。ただ、この学校剣道部ないから…他のことに時間割くのももったいないし」
「そうだったそうだった!剣道な!今でも続けてるんだっけ?」
「まぁ趣味程度よ。週に1回は近所の剣道場顔出すようにしてるんだわ。じっちゃんはうるさいから、いない日を狙って行く感じだけどな」
まぁ部活をしない本当の理由は、店番が土日なのと、もう一つあるんだが…わざわざここで言うことでもないな。
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「位置について…よーい…『ピピッー』」
体育教師の笛の音と共に男子達が1500mを走る。トップは陸上部のエースこと、速水俊と玉城鋼太が先頭を走る。
「玉城くん、去年もそうだったけど、陸上部のエースと張り合ってるねぇ〜。」
「ね!玉城くん帰宅部なんだっけ?めちゃめちゃ勿体無いじゃん。足も早いけどサッカーとかバスケも凄いんでしょ?体育祭の時引っ張りだこだもんね。」
「しかも、ルックスも良いし…頭が良ければ超人だわ、オシィ〜!」
「あ、速水くん置いてかれた…玉城くん本当すごい!」
「速水くんは短距離が得意って話だけど、にしても陸上部を離しちゃうんだからやばいね」
「…あー、そのままゴール!息もそんなに上がってなさそうだし、爽やかだわぁ。癒しぃ〜」
女子達が男子の1500mを見ながらキャピキャピしているとは知らず、鋼太と俊は息を整えた後拍手を交わす。
「ハァ…ハァ…こぅたぁ〜………ふぅぅぅ、ナイスファイトぉ〜」
「ふぅ…俊くんもおつかれさん〜。短距離専門なのに速いのな。びっくりびっくり」
「そりゃ…こっちのセリフだってのぉ…。陸上部なのに負けてハズいわ」
「走んのは昔から得意なんだよ、じっちゃんに体力つけろって毎朝ジョギングしてるし…嫌いじゃないってのもでかいな」
「ふぅ…やっと落ち着いてきた。…マジで陸上部入らん?2年からでも輝けるよ。うちの部の長谷川知ってる?長距離の代表なんだけどそいつよりはえぇよ、マジで」
「誘ってもらえるのは光栄だけど、実家の手伝いでバイトしてるから遠慮しとくよ。自由な時間も手放し難いんだわ、わりぃな」
「まぁ気が変わったらいつでも言ってくれや〜。おつおつ」
そんなこんなで体育の授業が終わり教室に戻る途中、将吾に「陸上部に勝った気持ちはー?」「女子がお前の話でモチキリデスヨ!」「ヒューヒュー!よっ!帰宅部のエース!」と絡まれたが華麗に無視した。
帰宅部のエースって悪口じゃね?帰宅部って家まで帰る速度競ってたりします?…しねぇよ!競争が嫌いだから帰宅部なんだよ、帰宅部に優劣などないわ、ばかちんが。