#2 お客さん?はて…
鋼太に鍛治をさせてあげられるのは何話後になるか…
目の前で興奮した様子を隠そうともしていない金髪ショートのギャル?。制服を着ていることから修学旅行生かと思ったが、よく見ると地元の私立の制服だ。
ほぇ〜私立はこんな金髪ギャルもいるんだな…。ピアスもいいんだ…?
「…やっぱりダメですか?」
「え、あ、あぁ、これで、試し切りですか…。お客さんからの預かり物なので、流石に難しいです。すみません。」
「そうですか…他の商品とかでやっていたり?」
「ん〜…商品全てがハンドメイドの一品ものなので、そう言ったサービスはやってなくて…」
「とっっっっても気持ちよさそうに切れていたので、とってもとてもとても残念ですが諦めることにします。突然無理言ってすみません」
こんな古臭い店にギャルって…違和感しかねぇな。それに敬語のギャルって、これまた珍しい。
ギャルって敬語使えんの?なんかもっとこう失礼というか、馴れ馴れしい、距離感が難しいって生き物かと思ってた。って、外観で判断している俺が失礼か。
「今日はお爺様が急用で来られなくなったらしいから…私も帰ることにしよーっと。じゃっ!鋼太くん、また!」
「…ありがとうござい、ました?」
なんだか独り言のようなことを言っていたが、勢いよく帰って行ったな。最後の方はちょっと快活そうで元気な感じだったし、あっちが素の態度なのかな?
まぁ、こんな古臭い金物屋にわざわざきて、そのアルバイトに笑顔で話せるだけいい性格だと思うよ。ギャルだけど。ギャルってだけでちょっと怖いって思うのは俺だけ?
…ん?まてまて…最後俺の名前呼んでたような?いや、名札もないのにそんなわけ無いか。
そんなことより〜
「チッキンラーメンちょっびっとだーけー好っきーになってってっとてっと〜っと」
開けっぱなしの店の入り口のドアを締め、"昼休憩"と書いた札をかける。インスタントだろうが俺は本気で作るよ、そのほうが何倍も美味しいからね。
研ぎ終わった包丁は新聞に包み直し、机の引き出しに仕舞い込む。
砥石は乾燥させるための棚に置き、桶は水を捨てひっくり返しておく。まな板ごとさっきのネギを持ちつつ店と繋がっている家へと入り、そのまま台所に向かう。
「ふっふ〜ん、ふんふん♩」
鼻歌を歌いながら必要な準備を進める。チキンラーメン、ネギ、にんにく、ごま油、生卵…それから、器とそれに蓋をするための平皿、小さくて平たい鍋の準備だな。
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①ケトルでお湯を沸かします
②チキンラーメンの袋を開け、麺を入れます
③お湯を沸かしている間に、粒のニンニクの皮を剥き、包丁の面で上から圧を加えて砕いたのち、細かく刻みます
④まだ少し時間があるので、鍋にごま油を少し多めに入れます。
⑤麺にお湯をかけ、平皿で蓋をします。
⑥火をつけて、油を熱します。
⑦熱した油に刻んだネギとニンニクを入れ…アッッッツ!!!熱しすぎた!
⑧ネギとニンニクが焦げすぎないぐらいの色になったら…平皿を取ったラーメンに注ぎます(ジュッッッワァァァ)
⑨最後に見えづらくなった卵ポケットに生卵を落としたら(俺は卵後のせ派なのだ)…あっ、ちょっとずれた…ああぁぁぁ…完成ぃ!
【ちょっとした一手間と材料で格段に美味しくなったと思われるインスタントラーメン】
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普段は生麺系でしかやらないアレンジだが、お味は如何にッ!実食ッッッ!
………まぁ不味くはないが、優ではない。俺は何もしないほうが好きだな。
カレーとかもちょっとスパイス足したり、チョコ入れたり、自分の色を出したくなっちゃうけど、やっぱりメーカー推奨が1番うまいよな。
あと、卵は先の方が綺麗に仕上がるよなぁ…後派とか適当なこと言わないで、今度から先派になろう。なんて適当なことを考えていたら――――――
「……た…い…か………鋼太いるかぁ?」
ん?店の方から声が聞こえるような…?昼休憩の札を貼っていたのになぁ。ラーメン食ってる途中なのに、誰だよコンチクショウ。
「はいはいは〜い、今お昼休憩中ですよ〜ちょっと後に……って!じっちゃん!!!なんでお店の方に?今日は工房だったんじゃないの?」
「お!鋼太、よかったよかった。店番サボって遊びに行ったんかと心配したが…見張りもいないんだし、若いならサボりぐらいする度胸も見せて欲しいもんだけどなぁ。」
このめちゃくちゃな爺ちゃんが今年58才になる俺の祖父、玉城鍛鉄。40台に見えるぐらい若く見え、見た目もどこぞのヤクザぐらい恐ろしい見た目をしている。剣道の有段者であり、身体もいまだにバキバキ爺ちゃんだ。
「いや、サボって欲しいのか欲しくないのか、感情が滅茶苦茶じゃん。
それで、俺にバイト任せてる時に店に来るなんて珍しいけど…どしたん?」
「いやな…今日作業しようと思ったんだけども、そういえば今日はお店にお客さんが来るのをすっかり忘れてしまっていてな、、、午前中の予定だったんだが、誰か来なかったか?」
「え〜と、近所の節おばちゃんが来てたけど、世間話と研ぎの依頼だけだったけどね。他はいつも通り冷やかしの旅行客が鹿せんべい買って行ったぐらいだな…。」
「お?そうか…仕事関連の人が午前中に来るはずだったんだけどな」
「じっちゃんよ…ボケに膝まで浸かり始めてるんじゃねぇ?…いッッッてぇ!!!」
年齢いじりをしすぎると暴力が飛んできた。鍛えてるだけあってまじで痛ぇ…
「この生意気坊主め。そう言うことはワシに剣道で勝ってから言えってもんよ。」
「ひぃ〜全然痛みが飛んでいかない…暴力反対っ!頭悪くなったらじっちゃんのせいだからな」
「それは遺伝を恨むんだな。ワシだけのせいじゃない」
そんなやりとりをしながら、おもむろに机の引き出しから研ぎ終わった包丁を取り出す。
包丁の刃先を静かにじっくりと見回し…何も言わずに新聞紙で包丁を包み直し、また引き出しに戻した。
え?何も言わないの?
「…あぁそうそう、これも伝えようかと思ってたが、あまりにも生意気だからまた今度にしようかね」
「ん?なんだよ〜気になるじゃん」
いつも怖い顔なのに、さらに険しい表情で何をいうのか溜めている様子の祖父。
悩んだ顔のまま俺に背を向け、店の入り口の上の神棚…正確にはそこに祀られている一本の日本刀を見ながらしばらく考え込んでいる。
「………鋼太よ、そろそろ工房の方も入ってみるか?」