#15 もしかして、ついてきちゃった...?
喋る白い毛玉(物理的に触れない)との遭遇、そして逃走。
奇しくも後ろから襲われる元もなく無事に外には出られたが、戻るに戻れない。
家に帰ろうにも荷物がすべて道場においてある。ケータイも含めて全てだ。
そして格好は道着であり、靴も履く余裕がなかった。
勿論道場の鍵もかけていないため、なにか問題が起こった際には道場の主に迷惑をかけてしまう。
「待て待て待て...現実か?起きた思い込んでただけで今日の朝から既に夢なのか?夢なら...
『バチンッ』いっっっでぇぇぇええ!バカがよぉ!」
起こった出来事の現実感がなさすぎて、自分を疑ってしまう。
ベタではあるが自分の頬を思いっきり引っぱたくと、当然のように痛みを感じる。
夢じゃない可能性も考えて手加減しとけよ、俺。
ということはだ、先程起きた出来事は幻覚&幻聴、俺の妄想、又は現実ということである。
「祟るぞとか言ってたし、ここは事故道場だったわけか。くっそ、鍵なんて預かったのが運の尽きだったなぁ...戻りたくねぇ」
まぁ兎にも角にも道場は閉めなくちゃいけないので、戻らないことには何も始まらないし、終われない。
「えぇい!男は度胸、こういう場面では女も度胸だ。大丈夫、こういう時はビビるほどに状況は悪くなるもんだ。一度は見逃してくれたんだし大胆にいこう」
そうは意気込んだ鋼太ではあったが、言葉とは裏腹に行動は慎重そのもの。
腰が引けた前傾姿勢でそーっと歩いて道場に入っていく。
入口付近からひとまず状況確認。...あれ?毛玉様いなくね?
先程は鋼太の荷物付近を陣取っていた姿がどこにもなくなっている。
「チャンス到来。毛玉様という存在は自体は否定できていないが、背中を見せなければいけるッ...はず」
先程の出来事が幻だったんじゃないかと思うくらい何も起こらない。
当初、荷物を回収し道着のまま帰ろうと思っていた程だったが、荷物が多くなるので可能な限り視野を確保しつつ着替えまで済ませた。
だが、その後も信じられないくらい何事もなく、無事家まで帰ることが出来た。
なんか自分に話しかけてはいたが、気まぐれだったみたいだ。脅かせやがって!ビビって損したぜ。
こんなことなら素振りぐらいしてから帰れば良かったな、と思う鋼太であった。
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両親が共働きなので、家に帰ったときには既に両親は出勤済み。つまり家には鋼太しかいない。
しかし、母親は忙しい中でもきちんと料理を作ってくれているので、夜まで食べ物に困らないぐらい冷蔵庫はパンパンである。
「金だけ置いてってくれたほうが好きなもん食えるんだが...それは贅沢な悩みか。まぁ母さんの味付け好きだし、ありがたくいただくか」
鋼太の母親が聞いたら悶絶しそうなセリフではあるが、本人には決して言わない。それが思春期というやつだ。
朝飯は昨日の夜に食べたサンマの残りに加え、厚焼き玉子、白菜ともやしの味噌汁、ブロッコリーのおかか和えが準備してある。運動後の身体に和食は染みるに違いない。
さて、白米をよそう『ワシの分も頼むぞ。白米には味噌汁をかけ、氷を3つほど入れてくれると助かる』...ん?
じっちゃんが朝っぱらから来た...わけない。じっちゃんはこの時間は愛犬の散歩の時間だ。
そんなことよりも声がぜんぜん違うし、この妙に渋い良い声は聞き覚えがありすぎる。
だが、そんなことがあり得るのか?現実を認めるのが怖いが、恐る恐る振り返ると...
「なにをしておる。久方ぶりの食事でワシも心が高揚しておるのだ。さっさとせんか」
「なんで家にいるんだッ...ゴホン。えぇっと、何故ココにいらっしゃるんですか?」
「つまらぬことを聞くな、まずは飯じゃろうて。はよせい、祟るぞ」
「...へい」
想像通り、今朝の道場で俺を恐怖に陥れ、ルーティンを乱した張本人が机の上にいた。想定外だったのはヨダレを垂らし、サンマと味噌汁を凝視していたことだった。
...俺はこんな威厳も何も無い奴を恐れていたのか、と少しガッカリしながらも要求通り飯の準備をしてしまう。
これは俺の血に流れる日本人としての本能なのか、俺個人が持つ適応力の高さ?故なのか。
というか、こいつ触ろうとしたら通り抜けたはずだけど、飯食べれんの?




