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#14 早朝のエンカウント

翌日の早朝、鋼太はランニングをした後、剣道の道場に来ていた。


ランニングと剣道、どちらも『鍛冶には体力も精神力も重要だ』と鍛鉄に言われ始めたことではあるが、意外と自分の性に合っていると自負している。


ランニングの最中はどこまで追い込めるか、という自身との戦い、そして何も考えずに体を動かせる時間。

剣道の際に実施する瞑想では、呼吸の意識のみに神経を使い、最終的には時間の経過すらも意識からなくなるほど周囲の環境と一体になれる感覚を得られる。


共通しているのは思考を乖離できる瞬間があるところであり、"無我の境地"ともいえるその時間を鋼太は重要だと感じている。


...とまぁ色々書いたが、鋼太曰く

『ひとことでまとめるとマジおすすめ。承認欲求とかどうでも良くなるよ、特にSNSハマってるような奴は世界変わるから試してみな。人生の質(QOL)爆上がりよ』

という感じ。

決して感じていることを正確に言葉にするということはしない。否、この男はそんな理論的に考えることはできないし、理解もしてないので説明できるわけがない。


ただ、そこにやらされてる感はないため、日課という枠組みで今でも続けられており、ランニングに至っては既に生活の一部といっても過言ではない。

今日は10kmのランニングで適度に自分を追い込み、休憩も兼ねて道場に足を運んだというわけである。



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ここの道場を管理している人は鍛鉄と昔からの友人であり、鋼太の心情(色々と口うるさい鍛鉄と時間をズラして使用したい)もよく知っている。

そのため、鍛鉄には内緒で合鍵を渡してくれているので、条件付きではあるが好きな時間に道場を使用できる。


珍しくここの道場には水場がある。何でも"門下生防具クサすぎ問題"があったとかなかったとかで、地元の商工会や役所に掛け合って少しの負担でシャワー併設の洗濯場を設置したんだとか。どう説得したのかは不明だが...。

一方で、水場というのは非常に管理が面倒なため、管理人としても定期的に掃除をやってくれる人がいるのは都合が良い。

鋼太的には、好きな時間に道場を使用できるというだけで破格の条件であった。それに加え、今日のように日課のランニング後に真っすぐ道場に来たいときもあるので、シャワー自体結構活用している。

双方に理のある条件であったため、水場の掃除を引き受けることで合鍵をゲットできた。

そのお陰で鋼太はランニング後の汗だく状態でも道場に直行できるというわけだ。

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「使わしてもらってんだから、掃除ぐらいやらせて貰うよっと」


用具入れからマップやスポンジ、洗剤などを取り出す。

天井以外の全ての場所を念入りに掃除をし、やや汗臭い嫌なニオイがこもっているので窓を開けて換気をする。

換気をしている最中に排水溝などに薬剤でカビを駆逐していく。

最後に更衣室に掃除機をかけて任務完了。我ながら完璧な手際とスピード感である。


ピカピカになった水場で軽くシャワーを浴び道着に着替えた後、道場へ移動する。


荷物を適当な場所に置いた後、贅沢に部屋の中央で鋼太は瞑想をするべくあぐらをかいた姿勢で目をつむる。

深呼吸を意識しつつ考えるのは、今日のランニングで見た景色。

犬を散歩するおっさん、マラソンの格好をして息も絶え絶えなおっさん、スーツを着たおっさん、公園で体操するおっさn...この町はおっさんしかいないのか?

後は既に電気のついている家から漂ってきた朝ご飯の香り。なんか腹減ってきたな、朝ご飯はシャケ食いたいなぁ。


なんてどうでもいいことを考えているうちにスーッと思考が狭まっていく。そこでふと思い出したのは昨日工房で見た小槌を振る鍛鉄(じっちゃん)の姿。

あの作業は難しいのか?小槌を振る力加減や回数に決まりはあるのか?そもそも素材はどんな状態だった?

色々確認したい事項は出てきた中、あのときの光景(鍛鉄の姿)に自分を重ねる。自分の手元で鉄を叩く音が聞こえるたびに、意識が深くに沈んでいき…


「良い集中じゃな」


そんな声が近くで聞こえた...?と思ったときには集中が途切れ、急速な意識の浮上に合わせて目を開ける。

もちろん早朝のこんな時間にこの道場に人の姿などあるはずもなく、気のせいかと頭を振った時にまたしても近くで声がする。


「ありゃ集中が乱れたの。未熟者め」


驚いた鋼太は勢いよく立ち上がり、瞬時に3歩下がり周囲を見渡した。

すると目に入ったのは鋼太の荷物付近に見慣れぬ白い毛玉を発見。

なんだあれ?っと思ったら、急にその毛玉がすっと動き、首?を持ち上げた。


「お?なんだワシの声が聞こえっとったのか?それにどうやら姿も見える様子。見所はあるのかもしれんな。引き続き励めよ、(わっぱ)


そういった後、白い毛玉にまた戻る。

・・・・・・・?


「え?この動物がしゃべったの?いま?...いや、まさかな。

っさ、白い獣よ。どこから入ってきたが知らないが、ここはお前のお家じゃないぞ〜。出てった出てった」


そういって毛玉を追い払うべく触ろうとしたが...手が通り抜ける。

・・・・・・・?何度試してもすり抜ける。


「感触はないがその行動や、童の言動には不快感を感じるな。その動きをすぐに辞めよ、祟るぞ」


今起こってる現象、そしてやはり手元から聞こえる気だるげな声。

背筋に嫌な汗が流れると同時に、背を見せないようゆっくりと入口に向かって後ずさる。

十分な距離を稼いだと感じ、一目散に外に向かって駆け出す。


人は本当に驚くと声が出ないらしい。

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