#12 偶然?実力?それとも...
「本業の研師から見たらまだまだなんだろうが、中々…ん?鋼太、どうかしたか?ボーッとして」
「あ、あぁ、いやなんでもないって。じっちゃん、今なんか言った?」
「研師から見たらまだまだ…」
「その前。若いとかなんとか」
「?いんや、何も言わずにお前の作業を見とったぞ?俺が教えた頃よりも随分こなれた感じで、動きに迷いがなかったな!ちゃんとサボってなかったみたいで関心関心、ガハハハ」
「んー、気のせいか。まぁじっちゃんに満足してもらえる作業ができて良かったよ。ふぅ〜疲れた」
そう言って鋼太は片付けを始める。
桶をひっくり返し水を抜き、砥石は流水で洗った後に日が当たらない場所で陰干し。
研磨の終わった包丁はお湯をさっとかけ、水気をとった後に油のついた紙でひと撫で、鞘に戻して終了だ。
「研磨の腕前は確かに間違いないし、わしにも見劣りせん。しかし、気になるのは…途中で2種類の砥石を足したが、どうしてだ?天然砥石は使ったことない様子だったが」
「ん…説明すんのが難しいんだけど、なんか目についたというか手が勝手に、みたいな。なんか問題あった?」
鍛鉄は先ほど鋼太が使用した2種類の天然砥石を両手に持つ。
「全く問題はないが、よく知ってたと驚いた。あの作業自体は内曇砥という作業で、下地研ぎの最終工程なんだ。正直、ウチは研磨が本業じゃねぇから修繕依頼でもそこまではやんねぇのよ。俺も天然砥石をそんなに使いこなせる自信がねぇくらいだ」
刃の部分を研ぐのがこの刃砥、こっちのは鎬地を研ぐ地砥。どちらも日本刀の美しさを際立たせるための…と説明をする鍛鉄。
それを聞く鋼太はあくびをする。
「悪いけど全然なんのことか分かってないんだわ…。下地研ぎ?もう切れ味は十分な気がするけど、この作業意外にもなんかやることあんの?」
「まぁこの後に仕上研ぎっていう作業もあるんだが…なんだ知らんでやってたのか。感心して損したわい」
「悪かったな。同じ作業もっかいしろって言われてもできる自信ありませーん」
「…内曇砥については今後やっても良いが、依頼をこなす時はその前段階でやめても問題ない。そういう小綺麗にする依頼自体ウチではあんまり受けねぇことにしてるからな」
ガッカリした様子を隠そうともしない鍛鉄だが、その次の作業に移るべくテキパキと動いている。
その様子を見ながら、鋼太は疑問に思ったことを口にすることにした。
「研ぎの前に言ってた水減しとやらについて、そろそろ教えてもらっても?」
「そうだったな、準備しながらになるが...まず聞いておくが、刀鍛冶の鍛える日本刀が目指す姿っちゅうのはどんなものか分かるか?」
「?目指すったって…」
そう聞かれて鋼太は天井を見上げて改めて考える。鍛冶師の家系なんだからすぐに答えろって?
バカ言え、銃刀法がある平和な日本で、日本刀のことを普段から考えてるやつのほうが稀だろ。俺が普通なんだよ。
「よく切れて、かっこいい!これしかなくない?」
「...はぁ、小学生の感想かいな。点数で言えば30点も貰えたら大サービスだな。
いいか、日本刀は戦で自分の身を守り、敵の命を奪うための武具として技術が磨かれてきた。
その中で大事にされてきた言葉は『折れず、曲がらず、よく切れる』だ」
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戦場において、武器を失うことは死を意味する。
そのため、日本刀では切れ味の良さに加えて耐久性を追求する技術が磨かれた。
むしろ耐久性の方が優先度が高かったという記録もある。
では耐久性とはなんなのか。
頑丈であることに加え、しなやかさがないと武具の寿命は短くなる。
しかし、曲がるほどしなやかでは使い物にならない。
そのような意味を込め、この言葉は鍛冶師には今でも口伝で残っているという。
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「というわけでだな、この耐久性をあげるために必要になる最初の作業が素材の選別作業、そしてその第一歩が水減しになる」
「ふーん、選別作業ね。素材ってことは鉄とか銅とかの金属を分けるってこと?」
「ちゃうわい。主に素材選別と言ってもだな...まぁやりながら説明しようかの」
そう言いながら鍛鉄は黒と灰色が混ざったような塊を火のついた炉の中へいれた。




