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第2話



とにかく、原因がわからないことにはどうしようもない。

畑が見える位置に車を止めて、私とマリコは徹夜で張り込みをすることにした。

外ではぽつぽつと雨が降り始めてしまい、視界は良いとはいえなかったが、畑に近づく影ぐらいは判別できる。暗視カメラもセットはしたが、何かあれば目視で確認、即対処というのが基本方針だった。


運転席と助手席に並んで座り、2人でひまわり畑を凝視する。

1時間が経ち、2時間が経ち―――

日付も変わってしばらく経った頃、眠気を紛らわすためか、不意にマリコが口を開いた。


「…あの、依頼人の男の人」

「ん?」

「すごいですよねぇ。あんな風に、亡くなってからも奥さんひとすじだなんて。よっぽど素敵な人だったのかなあ。きっと、幸せな結婚生活だったんでしょうねえ」

「そうだったのかもしれないな」

「そういうの、憧れません? 自分もそういう人、見つけられたらなーって思いますよ」

「若いやつは夢があっていいね」

「もう、そんな意地悪な言い方しなくたって… あれ、でもすみません、フジノさんて、もしかしてご結婚されてます?」

「昔ね」


そう言って、私は我ながら面倒くさい言い方をしたなと苦笑する。


「してたけど、別れた。もう、8年くらい前になる」

「…えっ! あっ、あの、す、すみません……」

「謝られるようなことじゃない。憎みあって別れたわけじゃないし、結婚している間は楽しいこともあったしね」

「……じゃあ、どうして?」

「病気に罹ったんだ。私がね」


病名を告げると、マリコは「ヒッ」と息を呑んだ。

正直な子だと、私は思った。


「でも… でも、じゃあ、その…」

「安心していい。今はもう完治したから、伝染(うつ)る心配もないよ」

「そっ… そりゃそうですよね。今、こんなにお元気なんですもんね。でもすみません、確かその病気って、完治がすごく難しいって…」

「そうだな…」


沈黙が訪れる。雨音は激しくなる一方だ。そのせいだろうか。私は饒舌になっていた。


「…そう、結局は、そのせいさ。入院して、高額の薬を投与して、効果がなければまた投与して… 金は減り続けるのに、完治するかどうかもわからない。その上、感染対策で直に会うこともほとんどできない。そんな先が見えない状態が、長く、長く続いた。私がそれに耐えられなくなった。離婚を切り出したのは私だ」


煙草のひとつもくゆらせたい気分だと思ったが、生憎と手元にはない。

マリコは黙って聞き入っている。


「向こうは、大丈夫だと。自分は大丈夫だから、一緒に頑張ろうと言ってくれたが… 私がもう無理だった。些細な冗談でもよく笑う人だったのに、最後に会った頃には、もうそんなこともできなくなっていた。このままでは、この人の人生まで目茶苦茶にしてしまう。そう思ったら、耐えられなかった。もっといい相手を見つけて、笑顔で人生を送ってほしい。そう言って、ほとんど無理矢理別れてもらったんだ」


言葉を切り、助手席のマリコを見やる。涙目だ。本当に、素直な子だと思った。


「…それからしばらくして、新薬の治験の話が来た。先月、新しい治療薬が認可されたのを知ってるか? アレだよ。離婚して、自棄になって、もうダメモトでもいいから実験体にでもなんでもなってやると思って、話を受けて… そうしたらこの通りさ。少し時間はかかったが、なんと完治だ。…けれど退院した頃には、その人は行方知れずになっていた。唯一の肉親だった母親も亡くなっていて、どうやっても見つからなかった」


「じゃあ…」


ずっと黙っていたマリコが、おずおずと口を開く。


「…ひょっとして、その人を探すために、探偵の仕事に?」

「そんなところだ」



私はそこで舌を動かすのを止めた。

マリコも黙り、再び沈黙が訪れた。


雨はまだ、止む気配を見せない。





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