#0 連載予告と用語解説
本作はフィクションであり、登場する作品や人物は架空のもので特定のモデルを持ちません。また、登場する科学、文化などの内容は意図的な改変や意図せざる誤りなどが含まれる場合があり、その責任は作者にあります。
リレー連載企画『私のヒーロー』
「テラストリム」より沢田比奈/テラストリム及びその俳優チヒロ #0
著者 大室マヤ
私、大室マヤは怪獣作家である。人類が様々な現象から妖怪や幻獣を生み出してきたように、創作者がモンスターやクリーチャーにメッセージを込めてきたように、依頼者の思いをもとに怪獣を描くという活動をしている。そんな、どちらかと言えばヒーローよりも怪獣に興味が向きやすい私に、このような機会を与えていただき感謝している。
私が紹介したいヒーローは、配信映画「テラストリム」の主人公、沢田比奈/テラストリム及びその俳優であるチヒロその人である。
子どものころからヒーローに憧れていたが、俳優を目指すにしても日本では単独女性主人公ヒーロー作品は難しいと悩んだチヒロは、その後、K-POPガールズグループ「∫eekin'」のメンバーとしてデビューする。デビュー後もヒーローへの憧れを公言し、SNSでの映画やドラマ評などでも注目を集める。そしてついに、ヒーロー作品の主演を担当することになる。
その作品とは、アメリカンコミックのセレスティアル社と、日本で数多くの特撮シリーズを手掛けてきた極光社の共同事業、そしてシーキンの他のメンバーも出演するアイドルムービーとして制作された、セレスティアル初の日本型特撮ヒーロー、テラストリムである。
作品自体が現在の日本特撮の魅力をこれまで以上に広く伝えたことや、プロモーション期間のチヒロの数々の特撮関連の仕事、特に同時期の極光の特撮ドラマ「望険士グラチェイスターズ」のフウコ/ストームチェイスター役、楢崎あかりとの共演が記憶に残っている特撮ファンも多いだろう。
次回以降、チヒロ本人が語ってくれた半生と並行してテラストリムについて触れていく。読者の中にはそれぞれの作品をご覧になっていない方もいると思う。今回は以下に関連する作品を紹介するので、各種配信サイト等でチェックされたい。
用語解説
・∫eekin'
K−POPガールズグループ。ファンダム名はクエスト。メンバーは年齢順に、ナミビア・イギリス・韓国にルーツを持つシャーリー、インドネシア人のアリシア、日本人のチヒロ、ブラジルと韓国にルーツを持つ韓国人のリアン、韓国人のラヒの5人。探求を意味するグループ名のとおり各メンバーの興味関心を深め、発信していくことにも力を入れていて、結果として環境や格差など社会的課題への言及や、様々なカルチャーを紹介する活動が多くなった。そのスタンスはテラストリムにも影響している。
テラストリムでは主題歌を始め、OP、挿入歌、EDを担当。主題歌「Mask of Ignorance」は、テラストリムの企画発表に先駆けてリリースされ、テラストリムのデザインの初出はこの曲のMVである。説明なく登場したテラストリムの姿や、クレジットにセレスティアルと極光の名前があったことがファンの間で話題となっていた。
・チヒロ
シーキンのメンバー。テラストリムにおいて主人公である沢田比奈を演じている。子どものころからヒーローになりたいと願い、勉強やトレーニングに励んでいた。デビュー後もヒーローへの憧れを公言し、日本語、韓国語、英語の3言語でアメコミヒーロー映画や特撮作品、SF作品などのレビューを行っていることも注目される。
その趣味や、「チヒロ」を省略した愛称である「ヒロ」が「ヒーロー」に似ていること、日本の特撮やマンガの主人公を思わせる本人のキャラクター、身体能力の高さなどと併せて、「友達の中に一人はいるヒーローみたいな人」としてファンに受け入れられている。
本人は「でもヒーローって属性で言うとだいたい『光』とか『炎』とかだと思うけど、私は『地』属性だと思う」と語っている。
・テラストリム(シリーズ名)
他のセレスティアル作品と世界観を共有し、怪獣や地球外生命、異世界などの存在が当たり前になった世界。地球人はそうした超常の存在と共存し、その進んだ技術に助けられつつも、現実と地続きの科学により地球環境を回復した上で宇宙や異世界に進出することで責任を果たし、他の文明と対等な立場で仲間入りすることを目指していた。韓国の大学で地球環境や怪獣を研究する沢田比奈は、この星の循環の守護者テラストリムとして闘うことになる。
シーキンの他のメンバーも比奈と同様、自身のキャラクターが反映された研究者を演じている。他のメンバーはサブヒーローではなく科学者としての仲間であり、他の作品には比奈が単独で客演できる。比奈が仲間との交流を通してテラストリムの初期5形態を獲得するまでの物語が架空のドラマ版として存在し、そのストーリーは実際にはセレスティアルの縦スクロールマンガで描かれている。映像作品は現在は後述する劇場版第1作が配信され、続編の制作が発表された。
シリーズを通して、宇宙への憧れや環境問題といったストレートなテーマ、太古の力を用いて戦うヒーロー像、主人公たちがいわゆる「エリート」、「明るい今どきの若者」でありそれを肯定的に描いていることなど、どこか90年代特撮の雰囲気を感じさせる。
・テラストリム(ヒーロー名)
「麒麟の骨」と呼ばれる、この星の力を宿した太古の鎧を比奈がまとった姿。地球を巡るエネルギーを司る巫女にして戦士。比奈の体内の微生物と鎧の微生物のリンクにより力を引き出す。
作中世界では他のセレスティアル作品で描かれてきたような事件の影響で、宇宙や異世界などのエネルギーが地球に集まり、怪獣や超人の出現や暴走の頻度が高まっている。テラストリムはその過剰なエネルギーを循環できる形に分解する力を持つ。
能力は木火土金水の五行がモチーフ。各形態はそれに対応して、青龍・白虎・朱雀・玄武の四神と黄龍をモデルとし、それぞれに初期形態と強化形態がある。
基本形態は大地の力を宿した黄龍タイプで、初期形態がグランドサウルス、強化形態はディメトロドン・トパーズ。
他の形態は以下の通り。
植物の力を宿した青龍タイプは初期形態がフォレストドラゴン、強化形態はディノスクス・サファイア。
金属の力を宿した白虎タイプは初期形態がメタルタイガー、強化形態はメガンテレオン・ダイヤモンド。
炎の力を宿した朱雀タイプは初期形態がファイアバード、強化形態がアーケオプテリクス・ガーネット。
水の力を宿した玄武タイプは初期形態がハイドロトータス、強化形態はアーケロン・オブシディアン。
デザインモチーフは土に埋まる化石、神獣の麒麟、景石や庭園など。アーマー部分は化石や岩、鉱石を思わせる質感で、短い角など麒麟の骨格をイメージした形。それ以外のスーツ部分は土を思わせるベースに、水やマグマの流れ、コケなどをイメージしたディティールが入っている。土で作った人形のようでもあり、地球自体を模しているようでもある。目と麒麟のたてがみや足の炎に当たる部分が各形態の属性に対応したデザインに変わる(朱雀であれば炎や羽など)。
変身時の掛け声「地流纏」や名のり、口上、必殺技などは日本語で発される。
・テラストリム エピソード・ガーネット(作品名)
セレスティアル制作の配信映画。架空のドラマシリーズの劇場版という設定で作られている。比奈の仲間ユニとその俳優であるアリシアの出身国インドネシアを舞台とする。
ユニの父が所長を努めかつてユニも在席したエネルギー管理機関「EHIK」、その管理AIおよび人型インターフェイス「シーン」、架空の島キラナ島に眠る鳥型巨大怪獣「ファーニド」、ファー二ドを復活させようとする地球外知性「ジン=ズ・フィ人」、テラストリムシリーズを通してのヴィラン(敵役)「ウィロー」などとの出会いが描かれる。
テラストリムの朱雀タイプの強化形態、アーケオプテリクス・ガーネットへのパワーアップ回であり、宇宙全体の循環を司るテラストリムと、人の心による永遠を目指すウィローの対決という本シリーズのテーマが明示される。
・ウィロー
遥かな未来から時間を遡行してきた人の思念の集合体であり、すべてのヒーローの進化の行き着く先とされる。一人称は「ぼくたち」。光の束が人型に集まったデザイン。
超常の存在たちは遥かに優れた技術や力を持ちながら、時に地球人の自己犠牲に感動して力を与え、時に地球人と触れ合って優しさを学び、地球やその文化を美しいと評した。こうした事例を見てきた地球人にはいつしか、「地球人は、例え力や技術で負けていたとしても、精神性では宇宙人や異世界人と比べて最も優れている。だからすべての力や技術を地球人の精神のもとに集めることが最も宇宙のためになる」という意識/無意識の信念が芽生える。
地球人が異星や異世界に移住した遥かな未来、アイデンティティを喪失した地球人たちの間で、地球への郷愁とともにこうした信念が強くなる。そして、いつしかその思念が集合し、かつてすべての宇宙に存在した地球人すべての残留思念を取り込みつつ力を増し、人の形の光となった。
そしてそれは特異事象が頻発し始めた現代に現れ、地球外知性や怪獣などから吸収したエネルギーを用いて時間の流れに逆らいうる完璧な地球「ユニアーク」を作り、すべての地球人の思念の集合たる自身と、自身が美しいと感じた自然や動物のみが移り住み、すべての宇宙の中心となると宣言する。
その宣言は、超常の存在を知り地球が宇宙の中心ではないことに不安を覚え始めた地球人に"希望"を与え、その願いを受けてウィローも力を増す。またその存在が、「ヒーローたちの戦いを見てきた地球人は最もフェアで冷静な目を持っている」という信念を強化し、人が無意識に持つ地球外生命への排外主義や環境保護活動への懐疑論を肯定し、時にそれらへの攻撃を正当化する。こうしてウィローと、ウィローを救世主としてその到来を待望する者たち、「人の心」の存在は、テラストリムだけでなくセレスティアル作品全体に影響を与えていく。
・望険士グラチェイスターズ
極光の伝統あるチームヒーロー特撮ドラマ、「スターズシリーズ」の一作。冒険や好奇心、野望などをテーマとする。テラストリムとは極光の企画者やデザイナーが共通し、同じ企画から派生していることが公言されている。
各ヒーローは風林火山陰雷をモチーフとし、初期メンバーとして
火の望険士アステラチェイスター/タイヨウ、
風の望険士ストームチェイスター/フウコ、
林の望険士プラントチェイスター/ダイゴ、
山の望険士ビルドチェイスター/ガク。
追加メンバーとして、
陰の望険士シャドウチェイスター/ミツキ、
雷の望険士エレキチェイスター/e-lec。
キャラクターそれぞれが自身の野望を優先し、チームヒーローながら足並みを揃えるのではなく時にライバルとして競い合う、複雑かつ豪快なストーリーが高く評価された。
グラチェイスターズのデザインは帽子やコンパス、ポケットつきのベストやベルト、剣など、冒険家をイメージしている。
・風の望険士ストームチェイスター/フウコ
風の望険士。スリルを愛する風来坊にしてマッドサイエンティストという豪快なキャラクター。一方で災害に関しては後手にならざるを得ず、住民の生活をいつまでも支えることも出来ないというヒーローらしい葛藤を抱える。担当カラーは青、専用マシンは飛行機、専用武器はレイピアとマンゴーシュ。ステレオタイプにとらわれない、日本の特撮女性ヒーロー像を更に広げたキャラクターとして人気を博す。
・楢崎あかり
俳優。望険士グラチェイスターズのフウコ役が自身初の連続ドラマレギュラー。同作にて注目を集め、その後、俳優としてのキャリアを重ねる。K-POPファンだったこともあり、以前からチヒロを応援していたという。クラチェイスターズ終了後、チヒロの日本での活動時にお互いに連絡をとり、友人になる。二人そろっての姿は、それぞれのSNSや動画配信サイトの公式チャンネル、極光のふたり旅番組などで見ることができる。
テラストリムの企画発表後から公開までの時期に、「海外は女性主人公などを無理やりやろうとするが、話題先行で中身がない。日本の特撮の文化は豊かだから、フウコのように個性的で本当に強い女性を描けている」という言説が一部のファンに広まっていた。
この風潮に対し楢崎は、「特撮の先輩方がそうしてきたように、守られたり添え物になったりではないキャラクターになるよう皆で心がけてきたので、それが評価されて嬉しい。だからこそ、海外の作品や日本でも今後女性ヒーロー主人公が作られるのならばそれは心強いし、全力で応援したい」と明言している。
これはリスクのある発言であったと思うが、本人は「それがヒーローを演じた者の責任だから」と語る。
※著者紹介
大室マヤ : 怪獣作家。依頼者の思いなどを聞き取り、それをモチーフにして怪獣の設定、デザインなどを作る活動をしている。これまでの活動は著作のほか、調査や描画の映像は動画制作集団fin crewが手掛けたものが配信サイトで公開されている。