大いなる淫魔の遺跡
娘よりも母親の方と交尾したいというオレの深層意識まで読み取られたのか、それからというもの、アンネはぷんすかとしてずっと不機嫌だった。
エルフのプライドが高いのは、母親の股ぐらから産み落とされた瞬間からそうだというのはよくある話だけれど、こんな痩せっぽっちの小娘より経産婦のエルフ女の方が濃厚でいやらしいニオイがしたのは事実なのだ。
それに、オレだって同じぐらい不機嫌でいる。
というのも、ひょんなことから男の玉袋を喰らう宇宙の闇を垣間見てしまい、生命もとい玉袋もからがらに逃げ延びて退屈な日常に戻れると期待していたのだが。
どういうわけか、戦争が終わっても小競り合いを続ける連中の戦闘に巻き込まれ、こうしてエルフの軍隊に捕らえられて引き回されているのだ。
そして、オレの船とは比べ物にならないぐらい巨大で高速、かつ快適な乗り心地でいる最新型の巡洋戦艦でもって、またまたホコリと青ゴケをかぶった古めかしい遺跡に連れてこられてしまった。
遺跡といっても、スコップで掘って出てくる類の小さなものではない。遺跡そのものが人工惑星として宇宙の常闇に浮かんでおり、何万年も経過した年代物にしては隙間なく詰められていてエルフの艦砲でも壊れるかどうか不明である。
こう見えてオレも一介の船長なわけで、ただの観光なら何千回も星系中を往復して見飽きている。
かといって、エルフがオレのような毛玉を善意で拾って連れてきたわけもなく、アンネと一緒にどうにかして遺跡の入り口をこじ開けるよう命じられたのだった。
「むにゅう・・・」
ご丁寧に宇宙服まで着せられて船外に放り出され、ぷかぷかと無重力の中を物理的に泳ぎながら遺跡に辿り着いた。
いまのところ、本当にものすごく大きいということ以外に感想はない。正三角形の立体を二つ繋げてひし形にしたような外観で、オレたちはちょうど真ん中の出っ張った辺の端に足の肉球を着けて立っている。
はて。どうしたものか。というより、何をすればいいのだろう。
オレはアンネと違って専門家ではないし、戦艦の艦長でもないのだ。遺跡の性質を理解して分析することも単純に武力で破壊することもできない。
おそらくは、この手の特大サイズの遺跡を開けるために何かしらのカギが必要であり、それを探すべく銀河の勢力が秘密裏に競争している。
ますます、しがない毛玉のオレには関係のない話に思えてきたが、こうなってしまった以上は無い知恵を絞って考えるフリをするしかないのだ。
いったい、何を考えればいいという根本的な問題はさておき、オレがああでもないこうでもないと悩みこんでいると、見かねたアンネがオレの宇宙服を引っ張ってきた。
「こっち、こっち」
「どっちだよ」
「ほら、足元に誘導ランプが刺さってるし」
宇宙服越しの息苦しい声で言われてみれば、たしかに、ぴかぴかと光る赤色灯が道標のようにして遺跡の表面に埋め込まれている。
遺跡の経年劣化と比べてランプはツヤがかった明らかな新品だし、それがずうっと角を曲がって見えなくなるところまで続き、やがては入り口に行き着くという仕掛けだ。
アンネに誘われるままについていくと、不自然にくぼんだ空間があり、そこがこの遺跡の玄関として機能していた。
「はー、うーん。なんだかなあ」
そう言うオレの声は、もはやヘルメットに内蔵されたマイク越しのものではない。
どういう原理かは知らないが、遺跡の玄関はまだ作動しており、人の形をした生き物なら問題なく通れる大きさの自動ドアを抜けた先で、ぷしゅうと空気が吹きつけられる。
そうした一連の工程は、オレたちの文明と大して変わらない。
もしかしたら、あとでエルフが取り付けただけのものかもしれないが、それが誰の仕業かより宇宙服を脱いでも死なないということが重要なのだ。
オレはワニみたいに鼻づらを大きく開け、お腹いっぱいに空気を吸い込もうとして代わりにあくびが出てしまい、なんだか眠くなってきてしまった。
「誘拐されたときにたっぷり寝かされたんじゃなかったの」
「薬で無理矢理に寝かされるのと、自然に寝るのとじゃ大違いなんだよ。お前、医者もやってたんだから、それぐらい分かるだろ」
「ボクの専門は古代文明で医者はバイトだし、キミみたいな毛玉の細かい眠り心地までは教わらなかったよ」
「ったく。エルフのくせに何を勉強してたんだか。使えねえ女より、バケモノと交尾した方がマシに思えてきた」
「だったら、キミの奥さんと交尾すれば」
またぷーんとしてアンネはヘソを曲げてしまったが、どさくさに紛れて放たれた一言でオレの鼻づらにグルカの面影が蘇り、全身の毛皮の下が冷えて固まった。
数時間前まで、どうしたものかと鼻づらを抱えていたときに、エルフによって拉致されたことで肉欲にまみれた女どもと別れられたわけだが。
オレの財産である船を捨ててきたのに、それでもオレを凌辱するサキュバスや人殺し、オレの血が半分ばかり入った半獣の人間娘の気配を感じるのだ。
どんなに宇宙が広くても逃れられない。
というか、この銀河すら狭く感じるほどに女の魔の手から逃げ続け、ついには開発されて間もない戦場跡の辺境星系に隠れて暮らしている。
それでもオレの毛玉姿に刻み込まれた肉欲への渇望が女たちの子宮を刺激し、次から次へと新しいメスが現れて誘惑するばかりか、恐れていたグルカにも見つけられてしまった。
もう、どこにもオレが安心して生きられる場所はない。
死ぬまで強姦されて子供を作り続ける運命にあるのが獣人の男であり、その宿命から逃れられるわけがないのだ。
まあ、さすがに船もなしに宇宙空間を越えて追いかけられるとは思えないが、あの女は数多の不可能を無視して敵の要人の暗殺したり、戦艦の原子炉を爆破して何億人もの他人を死に追いやったことで知られている。
宇宙服も酸素も使わずにここまで来てエルフを皆殺しにし、オレを攫って閉じ込めて玉袋の中身を全て吸い尽くすぐらいのことはやりかねない。
オレとアンネ、この二人だけの空間も決して安全とは言い難かった。
「で、これからどうするんだよ。専門家だろ」
「そんなの、これを見れば分かるでしょ。この扉を開けるのがボクたちの仕事さ」
アンネは玄関を越えた先で立ちはだかる遺跡の扉に両手で触れ、顔を寄せて長い耳もへばりつけながら、何かを感じ取っているようだった。
まるで交尾中みたいな恍惚とした表情でホコリとコケをかぶり、妊婦のボテ腹を弄るように指の先で優しく扉を確かめている。
学者という輩はエルフも獣人も関係なく変人だけれど、考古学者は恐竜の化石や遺跡の石と交尾するのだろう。
子が子なら母親も気が触れていて当然、と切り捨てるのは簡単だが。ここにきて、アンネが母親と認めた例のエルフ美女の言葉が気になった。
自分の娘と交尾しろと大真面目に言い放ったエルフの真意が分からない。
エルフの言うことなんて誰も分からないが、ふと見れば、目の前の古い扉に女の股ぐらのような輪郭があることに気が付いた。
こんなときでも毛深い本能は健在でいて役に立つ。
アンネが博士号にふさわしい解決法を一生かけて考え込んでいる間に、オレは目の前のコケやらツタやらを少し払って扉の模様を確認し、股ぐらどころか、子宮の入り口まで詳細に彫り込まれた女像を見つけ出した。
ただの像ではない。見た目こそ原始人の壁画に近いものがあったが、色気というか、オレの股ぐらを湧きたたせる妙な生々しさがある。
この像は生きているのだ。
しかも、二つの扉が繋がる部分、縦に割れた中央の位置にあるのは像がカギ穴の役割を担っているのかもしれない。
これを解けば、扉と扉が横に繋がって成り立っている大扉が開く。そのためのカギをエルフをはじめとした連中が探し回っているわけだが。
たかが石か特殊合金で出来ている裸の女像に股ぐらがイライラしてしまい、性的興奮を抑えきれないオレには、自分の下腹部でいきりたつカギが見えていた。
この宇宙で地下水でも漏れているのか、ぬるりとして粘っこい無色の液体が垂れ出る扉の像の下の方。
すなわち、大股を開いてオスを誘う女像の子宮に対し、オレはズボンを脱ぎ捨て露出した股ぐらの男根をぐにぐにと押しつけて宛がった。




