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交尾の理由

 その後、どうやって眠らされたのかは分からない。


 オレという毛玉の動体視力をも超える早業でぶすりと注射を刺されたのか、それともエルフ自慢の最新テクノロジーにしてやられたのかは不明だが。


 ふと気が付いたとき、オレは毛玉姿を拘束されることもなく変に足の長い手術台のようなベッドに寝かされて放置されていた。


 辺りは常闇に包まれて何ひとつ音のしない世界であり、天井に蛍光灯が一本。それだけがオレを照らして闇の中に落ち着ける居場所を切り取っている。


 まるで地獄の片隅に取り残された気分だったが、よく見れば、ぐでっとしてとろけるようにヨダレを垂れ流しながら眠りこけているアンネが横に並んでいた。


 こうして無様な寝顔を晒していなければ、エルフらしい凛とした顔付きの美女には違いないのだが。


 おかげで緊張も何もない。


 てっきり、前の戦争で死に損ねたオレを同胞の仇として痛めつけてから処刑するつもりなのかと思っていたが、ここは拷問室というより、戦争が終わって新しい仕事をするときに行かされたカウンセラーの治療室に似ている。


 あーだこーだと三流大出の利口ぶった女がくだらない質問をして時間を潰し、むしろ、こっちが博士のプライドを傷付けまいと気を遣ってしまう。


 まあ、あのときは机の上にひとくち大の菓子が山盛りになっていて、それをもしゃもしゃと平らげて腹はふくれたからよかったが、ここには菓子もお茶も何もない。


 いまはもう母星に閉じこもって安穏としていられる時代ではないし、エルフには自分以外の存在を敬うということを学んでもらいたかった。


「おはよう」


「こんばんわ」


 急にスピーカー越しの声が聞こえて思わず挨拶を返してしまったが、やはり、オレたちはエルフの手の内に落ちたのだろう。


 歳の感じに似合わぬ若い女の声。エルフはずっと妙齢の姿でいて死ぬ種族だから、上から下まで綺麗どころの娼婦が並ぶ娼館にしか見えない。


 それが彼の有名なエルフ社会であった。


「ワワチ。お前のことは何もかも承知している。我々は誇り高きエルフ族。この宇宙に知らぬことなどない。古代文明と、それを滅ぼしたサキュバスについても同様。だから、ウソをついても意味はない。時間を無駄にするだけだ」


「だったら、なんで民間人のオレを捕まえるんだよ。電気イスとか自白剤とかやられても、それこそ意味ないだろ」


「我々が欲しいのは情報ではなく、お前という毛玉そのものだ」


「うーん?」


 それでまた分からなくなってしまったが、つまりは、オレの身体が目当てということ。


 全くもって破廉恥極まりない。ここまで露骨に性的な要求をされたのは、故郷で女たちに弄ばれていた子供のころ以来である。


 そうと聞いて股ぐらがムズムズしてしまうオレもオレなのだが。


 これは、あくまで毛玉姿に宿る本能であり、どこからともなく漂う相手のエルフ臭に鼻づらが反応して発情してしまっただけなのだ。


 決してオレがエルフの誘惑に屈したわけではなかった。


「お、オレを辱めるつもりか。こう見えてオレには子供がいるんだぞ」


「承知している。親子とは名ばかりの冷酷で薄情、ほとんど他人同然に実の娘を虐げていることも我々は知っている」


「あっそう。父親のフリして損した」


 オレが子供嫌いで、メグを邪険にしているのもエルフは見ていたらしい。


 そんなことはオレ自身も隠す気はないし、聞かれたら素直に答えていたけれど、エルフが言いたいこともオレが聞きたいこともそれではなかった。


「お前はただの毛玉だ。我々の崇高な目的を理解する頭脳もなければ、それを知る権利すら与えられていない。大人しく従うのであれば、すぐに解放する」


 エルフというのは、形式にこだわるばかりで堅苦しい連中ばかりである。


 まずは、それを先に言ってもらえれば、オレも皮肉は抜きにして頭ごなしが癪に障るエルフの声に肉球をついて鼻づらも垂れていたというのに。


 エルフは路地裏の娼婦になっても回りくどいから嫌いなのだった。


「では、そこにいる私の娘のアンネと交尾しろ」


 はて。たったいま、オレの頭の上の獣耳に届けられた言葉をうまく理解できなかったが、オレが思うに、そこから二つの事実を読み取れると思う。


 ひとつは声の主がアンネの母親らしいこと。もうひとつは、その母親から直々に毛深い肉欲の赴くままにアンネを穢し尽くす許可を与えられた気がしたのだ。


 これが処女かどうか、そればかりは確かめてみなければ分からないが、エルフの子宮に侵入して玉袋の中身をまき散らす機会など、そう滅多にあることではない。


 いったい、アンネに何の恨みがあるのかは知らないけれど、それでオレの性的好奇心とエルフの利益が一致するのであれば、何の遠慮をする必要があるのだろう。


 オレは謎の声に聞き返すこともせず、白衣姿からにじみ出る年頃の色濃いメスのニオイに引き寄せられ、アンネの胸や股ぐら、白くて初心な首筋に鼻づらをこすりつけて一生懸命にくんくんと嗅ぎ尽くした。


「むぐう・・・」


 ちょうど、アンネの乳というほどの乳でもない胸部に手の肉球を押し当て、ぷにぷにとして心肺蘇生を施したところでアンネが目を覚ます。


 自分が異質な空間に囚われた挙句、毛深い身の上にして玉袋付きのオレに小さな胸を弄られているというのに、まだ眠そうな顔で起き上がると、ぐりぐりと痩せた手で顔を洗う。


 それから、もうしばらくして知能指数が二百の脳ミソが温まってきたのか、アンネは半分だけ開いた目でオレをじーっと見つめ、こくっとして頭を下げた。


「おはよ」


「こんばんわ」


 そして、散々にイタズラされてはだけた白衣と、はあはあと鼻づらの息を荒くして股ぐらを肥大化させているオレの発情に気付き、アンネは手で胸を隠しながら反射的に身をよじらせて退いた。


「何してるの」


「お前と交尾しろって変な声に言われたから」


「変な声?」


「お前のこと娘とか言ってたから、母親じゃねえの」


 そう言ってオレがアンネの細い身体を触り続けても、まだぼーっとして考え込んでいるようだったが、加速器の付いたパチンコ台のようなエルフの脳ミソがフル回転し、大量のパチンコ玉が流れ込むようになって一気に覚醒した。


 はっとして何か勘付いたらしいアンネはオレの痴漢は無視し、目にも留まらぬ速さで腕の端末に入力する。


 次の瞬間、びびびっと電気の音が漏れたかと思うと、天井の蛍光灯が炸裂して弾け飛び、ガラス張りに観察していたエルフたちの大型機械から何まで爆発して全てが明らかになった。


「お母さん」


「アンネ」


 もともと暗かった部屋の蛍光灯が破壊されて真っ暗というわけでもなく、ガラスの壁も取り払われて外の空間と繋がったことで逆に明るくなった。


 オレの毛玉姿にぴったりついているアンネと同じ白衣姿に加え、ガリ勉らしく度の強いメガネをした科学者が何人も周りを囲んでおり、その中にひとりだけ堂々とした立ち振る舞いでメガネをしていないエルフがいたのだ。


 エルフだけに、どいつもこいつも美味そうな女だったが、おそらくはさっきまで会話していたアンネの母親らしいエルフは格別に美女である。


 訓練された専門の獣人であれば、子宮や玉袋の中で熟成される性のニオイを何キロも先から嗅ぎ分けるが、それに並んで彼方からでも見分けられるほどの顔立ちだった。


 もちろん、肉付きも含めた総合点ではサキュバスに及ばないが、エルフの最大の種族柄である顔だけは銀河でも抜きん出ているだろう。


 どうせなら、こんな若すぎるエルフ娘のアンネではなく、オトナの色気にまみれた母親と交尾したいというのが本音であった。

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