カギ探し
前にも言ったけれど、オレの直感は当たるのだ。毛玉の五感ともいう。
というか、これだけ前科持ちのメスがオレの股ぐらに群がってきている状態で、何も面倒が起きないことの方があり得ないだろう。
ある日、突然に見知らぬ星に連れ去られて男を喰らうバケモノどもに囲まれるのも相当に大変なことだったが、そこから逃げ帰った後で通りがかった宇宙ステーションを謎の武装集団が襲撃し、それをさらに別の集団が攻撃するという複雑すぎる事態が起きたのだ。
こうして平日も賑わっていた巨大なステーションが戦場と化し、オレはすぐ横にいたアンネを連れてフードコーナーのキッチンに逃げ込むのが精いっぱいだった。
「もんがもんが」
まあ、傍から見れば、慌てて逃げたようにも見えるけれど、オレとしては冷静かつ沈着に考えて選んだつもりである。
というのも、この人混みもあって注文した品物のうち、防弾アーマーを着込んだテロリストどもが銃を乱射しはじめる前に届いたのはフライドポテトのみ。
この怒号と爆発が入り混じる激しい銃撃戦の中、時給およそ千クレジットで料理を作り続けるような骨のある厨房スタッフが誰もいなかったのもあり、オレは失われた巨大ステーキ二枚盛り定食の分を補うために、せっせと配膳前の料理を鼻づらの中に放り投げて飢えた胃袋を満たしていた。
「よくもまあ、こんなときに食べてられるね」
「ああ。お前みたいなスパイのせいでエルフの特殊部隊が乗り込んできて、オレのメシが届かなかったからな。どうせ、お前の仕業だろ」
「ボクはスパイじゃないよ。ただ、キミたちを見つけたってメールを送っただけさ。そういう仕事だもの。エルフはきっちり完璧にこなさないと気が済まないからね」
「そのせいでこんなことになってんだろ、タコ」
全くエルフの融通の利かなさ具合にも慣れてきた。
この青白い顔の横側に、ぴょんと突き出た長い耳を見てエルフだと判明した瞬間、殺す前に強姦してから殺すべきだったのだ。
相手の股ぐらに子宮が付いているというだけで甘やかしてしまう自分に腹が立つ。
しかし、これはオレにとって好都合かもしれない。
キッチンから鼻づらだけ出して覗いてみれば、最新式の電磁シールド発生装置が付いたアーマーを着けて身軽に立ちまわっているのは、間違いなくエルフの軍隊だ。
それに対して古臭い装備で対峙し、大柄の毛玉姿でもいる他の部隊は人間や獣人の軍隊であろう。
いずれにしろ、この複数の武装勢力の目的は銀河に破滅をもたらすサキュバスと、業界で知らぬ者はいない人類政府の秘密部隊員にして暗殺貴族の娘。すなわち、マリアとグルカの首であることは言うまでもない。
オレの名前もエルフの暗殺リストには入っているだろうが、あくまで何千人という枠の中のひとり。
そういうわけで、オレはほとぼりが冷めるまでタダ喰いしながら、オレにも全銀河にも不都合な存在であるグルカたちが始末されるのを待つだけだった。
「戦争ってこんな感じなんだね」
けたたましい銃撃を背景にして喰い続けていると、ふとアンネが呟くようにそう言った。
「戦争、キミは行ったんでしょ。ネットで見た。いまは何でもネットで見れるから」
「当たり前のように言ってくれるけど、ただのハッキングだろ」
「だって、見たいのに暗号化されてたんだもん。獣人の国のサーバーだし、大した暗号じゃなかったけどね」
そういうことを平然と言うのがエルフの末恐ろしいところなのだ。
アンネは姿勢を低くしたまま、オレの方にすり寄り、一緒に誰かのピザを一切れちぎって滴るチーズもぺろぺろと口の中に押し込めていた。
「ボクは戦争に行ったことがない。あのときは子供だったから関係なかったし、兵士になりたいわけでもない。でも、お母さんが軍の仕事をよく受けるから、ボクもよく連れてかれていろんなものを見たよ。だから、あの人たちも見たことがある」
「誰のことだよ」
オレがそう言うと、アンネは顔も出さずにカウンターの向こう側を指差し、それがエルフの特殊部隊のことを意味しているでろあうことがなんとなく分かった。
「春の創造計画って知ってる?」
「そんなもん、散々に広告でやってただろ。遺物掘りも兼ねて、この星系に人呼んで金呼んで開発するってアレだろ」
「もちろん、それは表向きの話だよ。本当はずっと官民挙げてカギを探してたんだ」
「カギ?」
「古代文明の遺物、それを大量に保管している巨大遺跡を開くためのカギさ。いまでも遺跡から遺物がたくさん見つかってるけど、地下何百層もある大遺跡は例外なく閉じていて、それを開ける方法は見つかってない。それを探してるのがあの人たちだよ」
「ふうん」
はて。遺物となると、急に眠たくなるのがオレなのだ。
そりゃあ、ものすごく金になるわけで、何万何億という世捨て人どもが人生を懸ける勢いで遺物を掘りまくっている。
そんなことはオレも承知しているが、なんというか、大昔の墓を荒らしているようで良い気がしない。
あんまり迷信染みたことを言いたくないけれど、祟られそうだ。
それに、冒険だの宝探しだのと言って世の中から飛び出していったヤツは歴史上も山ほどいるが、本人も周りもろくなことにならない。
一度でも戦争に行けば、普通とか平凡の尊さがよく分かるだろう。
アンネの言うことはイマイチ、ピンとこないものの、そうやって金とか遺物に目がくらんだ結果がこれだとしたら納得の成り行きであった。
「もしかしたら、あのサキュバスかキミの奥さんがカギを持ってるのかもね」
要するに、グルカとマリアのことだ。
相変わらず人をモノ扱いするのは白衣にふさわしい言動だけれど、そこは素直に名前で呼んでくれた方がオレの頭の上の獣耳が混乱せずに済む。
こういう科学者や金目当ての人殺しどもには興味深い事柄なのだろうが、たかが嗅ぎごときに何をこだわっているのだ。
ただのカギだったら、オレだってイヌのキーホルダーを付けた船の制御キーを上着の懐にしまってあるし、そもそも遺物には全くもって興味はない。
オレの玉袋と生命を脅かす二人の女が宇宙から抹消されること。それだけがオレの切迫した願いにして望みであった。
だが、現実はいつだって残酷なのだ。
ここにきてオレがひとりの男として解放される絶好の機会を手にしたと思った矢先、目の前の小さな戦争が終わる間もなく、先のエルフの一団がオレの鼻づらに銃口を突きつけて取り囲んでいた。
「むう・・・」
エルフはエルフとしてアンネに助太刀を求めるべく振り向けば、オレと同じように隣で銃の先を綺麗な顔に押しこくられて泣きべそをかき、お勉強は満点でも戦争に行く度胸もない頭でっかちの弱虫がいるだけだ。
ご丁寧に細い両手を上げてアンネは降参しているが、この武装した連中が本当に特殊部隊であるならば、そんなことはするだけ無駄である。
殺すのが任務なら殺されているし、そうでないからこそ、こうして生きて捕らわれることになっているのだろう。
訓練された兵士というのは、ロボットのように単純明快なのだ。
ここにいないメグやマリアがどうなったかなど知る由もないけれど、どうやら、オレたちも同じくらい必要とされているらしい。
オレは誓って遺跡を開けるカギなど持っていないし、遺跡に種類があることも数十秒前に初めてアンネから聞かされたのだが。
この様子から察するに、エルフたちはそう思っていないようだ。
オレの故郷でもそうだったが、何が偽りで真かどうかは加虐心に満ち溢れた拷問官と、そこから得た情報を吟味する責任者によって決められる。
捕虜となったオレたちの言葉には、誰も聞く耳など持たない。
獣人社会では、尻や尿道に用意できるいろんなものを詰め込んだり、気の触れた女獣人の群れに死ぬまで凌辱させるのが一昔前の流行りであったが、エルフの場合は科学文明らしく電気イスでもするのだろう。
生まれたころから母親に折檻されて凌辱されたオレにとっては、どんな拷問も既視感でいっぱいだけれど、その前に撃ち殺されては何の意味もないのだ。
オレは喰うのをやめて、毛深い両手をゆっくりと上げて肉球を見せるしかなかった。




