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独占取材

 オレとしては非常にありがたいかぎりなのだが。船がステーションに辿り着いても、グルカはオレの部屋を自分のものとして、ぐうすか眠りこけていた。


 そういえば、そういう人間娘だったような気がする。


 戦争のときもそうだった。どんなに過酷な任務もこなして悪名を轟かせるも、ひとたび寝床に潜り込むと何日も起きないのだ。


 ウワサでは、グルカは仕事が終わるまで一睡もしないらしい。その分を補うために深い眠りにつくのは生物学的に正しい反応なのだろうが、そこまで狂ってしまったら、戦争が終わっても苦しむことになるのは明らかだった。


「奥さんがいなくて寂しい?」


「だから、オレは独身だっての」


 これもエルフらしいというか何というか、アンネはオレの鼻づらにハンディカメラをぐりぐりと押しこくりながら、オレという毛玉の生態を熱心に記録していた。


 知能は高いものの、自分勝手でワガママ放題。強烈な個人主義者というエルフの種族柄が見事に現れている。


 オレのプライバシーはお構いなし。休憩や買い物をする客でごった返すステーションの中にあって、道行く人々に細い身体や貧相な尻をぶつけたり、アングルを確保するために平然と他人を押しのけて撮影を続けるプロ意識がまさにそれであった。


 まあ、いまも寝ている人殺しの誰かさんと比べれば、アンネの奔放も可愛いものだ。


 そういうわけで、オレたちはグルカ以外の意思疎通のできる四人で船を降り、いかにも平凡で普通の風景が広がるステーションの中で自由時間を取る。


 本当は存在そのものがうっとおしい女どもを置き去りにし、給油が終わり次第、オレひとりで出発する予定だったのだが。


 エアロックから放り出そうと思っていたグルカがベッドにへばりついて離れず、それを無理に起こそうとすると生命が危ないのもあり、オレも適当に時間を潰すことにしたのだ。


 船という孤立した空間にグルカと二人きりなんて恐怖でしかない。


 玉袋を搾り取られて殺されるのはサキュバスも同じだけれど、バケモノと違ってグルカは殺しても死ぬかどうか不明である。


 これまで多くの国家機関や名だたる傭兵団、殺し屋の同業他社、未知の宇宙生物などが果敢にもグルカに挑んでは散っていった。


 グルカの通った道には、大量の死体と繁栄も空しい廃墟だけが残る。


 それを承知でグルカを選んで凌辱されるよりは、たとえ多少の経費が掛かったとしても、他の女を乗せて選択肢を残していた方が安全だ。


 もしかしたら、オレという玉袋付きの毛玉を巡って女たちが殺し合い、こっちの手の肉球を穢すことなく問題が片付くかもしれない。


 そのわずかな可能性に希望を見出す価値は、十分にあるように思われた。


「ていうか、なんでオレを撮ってるんだよ。サキュバスとか人殺しとか、その人殺しの娘の人殺しとか、面白い生き物がいっぱいいるだろ。そいつらで論文でも書けよ」


「そりゃそうだけど、ボクはキミの方が面白いと思うね。なんたって、そういう銀河級に手強い女傑たちをはべらせて子供まで産ませたんでしょ。エルフには同族の男がいないし、宗教で貞操もお堅い種族だから、こういう男の性にフォーカスしたセンセーショナルでスキャンダラスな研究は話題になるんだよ」


 オレとアンネはフードコーナーのテーブルで向き合うのではなく、隣り合う形で四人分のフライドポテトをつまみながら話していた。


 さっきまでもう二人いたけれど、ふとメグが何か思い出したようにマリアの手を引いてショッピングコーナーに走り、オレたちはその帰りを待っている。


 その間、こうしてオレを観察するアンネの好奇心にも熱が入ってしまい、べったりとエルフの火照りを毛皮で感じるほどに身体を密着させて、鼻づらを真横から撮られているというわけだった。


「まー、お前が科学者なのは認める。あるいは背伸びした大学生かもしれねえが、科学者は科学者でも、どうせ軍の科学者じゃねえのか」


「なんで?」


「なんでって、さっき自分で言ってたろ。オレらを捕まえるよう命令を受けたってよ」


「うん。でも、ボクは正真正銘にフリーの科学者だよ。専攻が古代文明ってのもあるけど、あちらさんの仕事を受けたのは経費が全額前払いだったからさ。大学にも派閥にも所属してないんで自由に研究できるんだけど、お金も自分で出さないといけないから。母星からシャーベットまでの旅費とか諸々、けっこう掛かるんだよ」


「サキュバスのバケモノはともかく、グルカの居場所はオレでも知らなかった。たかがフリーの青二才に、軍がそこまで教えるなんて怪しいもんだな」


「エルフは何でも知ってる。それでも、キミの奥さんのことは誰も知らなかったよ。ほとんどボクの勘だったけど、きっと彼女はキミやメグに会いにくると思った。それが愛情だよ」


 なんだか嫌な響きだけれど、グルカがオレを自分のものと思い込んでいるのは事実としてある。


 そして、この若いエルフ娘が辿り着けたということは、他にグルカを狙う連中も同じに違いなかった。

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