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宇宙で二番目に怖い女

 地獄とも天国とも思える奇妙な星から生還し、また三日かけてシャーベットに戻る船の中でオレはクスコと抱き合っていた。


 他にも一緒に過ごす女は何人か乗り合わせていたが、数ある偶然のうちから、いろいろと縁深いクスコが選ばれたわけではない。


 アンネやマリアたち有識者が予想した展開とは少し違ったけれど、あのバケモノどもと古代の遺跡に溢れた星を封じるためにエルフの艦隊が現れ、惑星を破壊する代わりに、いかにも寒そうな青白い極太の光線で氷漬けにして去る。


 それをクスコと船長室の窓から眺めるというのは、オレが自ら望んだことだった。


「結局、生きて帰れたのは我々だけか。不思議なものだ。このわたしが貴様の船に乗せられて安堵するとは」


 そう言ってクスコは、オレの毛玉姿に抱きついて褐色肌の頬までこすりつける。


 いつものオレなら抱き返して手の肉球で頭を撫でつけたかもしれないが、きょうはそういうわけにもいかない。


 全く白々しいかぎりである。すでに裏は取れているのだ。


 さっきまで、あの星でサキュバスに誘惑されて生命を脅かされ、それがトラウマとしてオレの毛深い身体に刻みつけられた可能性もあるが、オレはオレの知るクスコも本物ではないと疑念を深めていた。


 いや、こうして隣にいる人間娘については確信している。


 だから、オレは毎度のように愚かな毛玉を演じてクスコをベッドに倒し、股ぐらと股ぐらをがっちりと連結させて肉の手錠を施してから問いただすことにした。


「どうしたのだ。やけに積極的だな」


「うるせえ。この野郎、オレに何か言うことがあるだろ」


「それはわたしのセリフだ。貴様、またあの黒ずくめの女と・・・」


「子供は泣くのが仕事、獣人は交尾するのが仕事だからな。お前だって好きにしろって言ってたじゃねえか」


「わたしはともかく、姉上がそう思わないと言っているのだ」


 そりゃあ、オレだって信じたくもないけれど、あの女を恐れるが故にわずかな気配も嗅ぎ取ってしまうのだ。


 ここまで言ってまだしらばっくれるあたり、もしかしたら本当にオレの思い違いという可能性もわずかにあったのだが。


 オレが堪らず、この宇宙でオレの母親の次に口にしてはならない名前を突きつけてしまったがために、この悪魔か天使の心を持った怪物を呼び覚ましてしまった。


「とっとと白状しろよ。お前はクスコなんかじゃない。グル・・・」


 そう言いかけたところで、クスコという人格が消えてオレの知るグルカが現れ、その瞬間にぎゅうっとして両脚でがっちり毛玉姿を挟まれて締め上げられる。


 懐かしい感覚だった。たった二人だけ生き延びた戦場で出会ったときも、こうして寝技をかけられて一言も発することができず、呼吸すらできずに殺されかけたのだ。


 体格で劣る人間が巨大な獣人に勝つためには、これぐらい工夫して頭を巡らせる必要があるのだろうが、グルカはそれを芸術的な領域まで練度を高めた熟練の暗殺者であった。


「この部屋は安全じゃない。大きな声で話すな」


 グルカはオレの頭の上の獣耳に蛇舌を入り込ませて囁き、オレはオレで母親譲りの頑丈な毛玉姿がみしみしと音を立てて軋むのを感じ、鼻づらを激しく頷かせて反意がないことを証明するだけで精いっぱいだった。


「お前のこととなると、わたしも甘いからなあ。やはり気付いたのだな」


「それが目的でオレの鼻づら殴ったんだろ」


「いやいや。お前がサキュバスに喰われるところを救ってやったのだ」


 そうしてグルカは脚に込めた力を解いてオレを絞め殺すのをやめてくれた。


 挨拶代わりに暗殺術を仕掛けてきた割に、グルカは陰気ながらも上機嫌な面持ちでオレの鼻づらを見つめている。


 何年かぶりに会ったのだから、普通の愛人ならケーキで祝うところだが。あいにく、オレたちは普通とは程遠い殺し殺されの関係なのだ。


 あのときもそうだけれど、オレがグルカと戦場で相見えて殺されずに済んだのは、戦いを通して図らずもオスとして優秀であることを証明したことにある。


 そうしてグルカはオレを種親に選び、人間風情のイカれた一族が未来永劫に殺し屋を続けるための子孫繁栄のためにオレを生かしているのだった。


 よくよく考えれば、いろいろとつじつまが合う。


 たとえ一族の命とあっても、グルカは人殺しの以前に嫉妬深い女なのだ。


 もし、本当にクスコという最愛の妹が存在したとしても、自分以外の女が宛がわれることを黙って認めるわけがない。


 ちょっと考えれば分かることであった。


「何をしている。早くしろ、久しぶりにお前が欲しい」


「とっくにガキは仕込んであるだろ」


「それはそうだが。わたしは、わたしとしてお前を感じたいのだ」


 グルカはすっかりその気になってべたべたとオレの毛玉姿を弄って揉み、すでにグルカの子宮に侵入してしまっているのもあり、オレはしがない毛玉として交尾を続けた。


 これまでクスコという妹を作り上げて演じていたとすれば、戦争の後もほとんど絶え間なくグルカと交わっていたことになる。


 なんだかんだと肉欲が勝って事無きを得ていたが、グルカ本人として覚醒した以上、神聖な子作りを断ろうものなら、たっぷりと痛めつけられて殺されるだろう。


 それどころか、手足を切り取られて竿人形として飼い殺されかねないし、全くもって情けないかぎりだけれど、もはやグルカが満足するまで毛深い腰を振り続けるしかない。


 まるで男娼でもやっている気分だ。


 故郷では、血と汗と毛皮のニオイにまみれた臭い女たちに囲まれて同じことを強いられていたけれど、ここでも脅されて交尾をしているわけで大して変わらなかった。

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