がっかりマリア
バケモノがうろつく遺跡の中を勝手に歩き回ってよいものかどうかは、オレも限りある生命の毛玉という種族柄、慎重にならざるを得なかった。
それ以上に、オレは目の前を歩くマリアという女のことを何も知らなかった。たった一度だけ、密航させてやっただけの仲に過ぎない。
後腐れのない関係がちょうどいいオレとしては、ねちねちと連絡先を聞くようなこともしたくなかったし、結果としてマリアの方から何度も言い寄ってきたのだ。
金の無心や怪しい勧誘をしてくる変な女でなければ、あとは顔と相性の問題だろう。
たしかに、マリアはものすごく肉感的な魅力に満ちており、この銀河ではすっかり珍しくなった男の話を聞く種類の女である。
ただ、この数日における客観的事実を見るかぎり、マリアはかなり変な女だった。
路地裏の孤児か、売れない娼婦みたいな黒ずくめの衣装をかぶり、まだ我々の科学では説明のつかない大きな力を秘めている。
それに、結局はそこらの女と大元の部分は何も変わらない。細かいことは暴力で解決して男を尻に敷く傾向は、オレを含めた世間一般のオスから警戒されて然るべきであろう。
種族柄の事情は分からないが、同じサキュバスを平然と射殺するのはいかがなものか。
そのあたりのマリアの暴力的性質は、部屋を出た先、こちら側の通路。つまりは、マリアとメグが通ってきたと思われる道に残された大量の死体と、壁や床を染め上げているおびただしい赤い血が証明するかのようだった。
「これ全部、お前がやったのか」
「ええ。あたしひとりならなんてことないけれど、きょうはこの子がいたから。襲われたから襲い返しただけよ。街であなたの恋人に銃を向けられたときと一緒」
「そうだった。お前のせいでオレまで苦労させられてる。それに、あの人間娘は恋人なんかじゃない。ただの愛人だよ」
「どっちも同じようなものでしょ」
まあ、そうなのだが。そういうのは一応、きちんと言っておかなければならないのだ。
とにもかくにも、これではっきりしてしまった。何が銀河の危機だ。結局はマリアというサキュバスも女らしく粗野で短慮で暴力を好むだけの女なのである。
そこには何の魅力もない。その程度の女など、この銀河にはごまんといるのだ。
何百兆という数の獣人が産むだけ産まれて放り出され、宇宙のあちこちに住み着いては、毛深い尻から吐き出すとぐろ巻きのフンと同じぐらい下品で使い古された存在だった。
「あら、あなたの船じゃない。あれで追いかけてきたの?」
しばらく歩いて、やや上向き斜め四十五度のスロープを上った先の部屋で、大きな窓越しに見えるオレの船を見たマリアが閃いたようにそう言った。
「いいじゃない。あれに乗って帰りましょ。ごちゃごちゃと積もる話は、船の中でごちそうでも食べながらしたいわ」
「お前を狙ってるのはオレ以外の全員だよ。だいたい、お前らはどうやって来たんだ。この星は見つかったばかりだって聞いてたけど」
「親切な船長さんがいたのよ。あなたがあたしを乗せてくれたときのようにね」
「男、それとも女か?」
「関係ないわよ。あたしの力はサキュバスの中でも特に強いから。それに、こういう状況だから証拠を残すわけにもいかないしね」
要するに、その哀れな船長は抹殺されたのだろう。
それなら船は残っていそうなものだけれど、詳しいことを聞いてもマリアが教えてくれるとは思えないし、状況的にも期待できないのは言うまでもなかった。




