人らしいもの
こういう状況だし、ついでに言うと、正直に言って血が繋がっているかも怪しい。そこのメグに対してオレはずっと疑問を抱いていた。
そして、感動の再会とばかりに駆け出してきたメグは、身ぐるみを剥がれて毛玉姿になったオレの足を思いきり踏みつけ、黒づくめのマリアの後ろまで戻っていく。
まるで野球の塁を想起させる出来事だったが、イヌ獣人だけに、フリスビーを投げつけられてシッポを振りながら帰るオレを揶揄したのかもしれない。
どっちにしろ、可愛げの欠片もない憎たらしい人間娘であった。
「本当に仲が良いのねえ」
「褒めんなよ。二人とも殺したくなる」
オレはそう言って鼻づらを掻きながら腰を下ろした。
だが、銃を持っているのはマリアであって、それで撃たれたときがオレの最期である。
頭を撃ち抜かれたら、バケモノだろうが何だろうが、ぴくりとして動かなくなってしまうのが世の定め。それは、この世に銃が登場した何百年も前から不変であり、オレの少し後ろで亡骸として転がっている女の肉塊が証明していた。
「それにしても、よく見つからなかったな。オレより先に百人ぐらい金目当ての連中が入っていったはずなんだが」
「ええ。でも、みんな死んだんじゃないかしら。ここは最初から、あいつらが溢れ出して手が付けられない状態だった。だから、この子を連れて隠れるのにも都合が良かったんだけど」
「あれとかそれとか、ついでにお前のこともエルフから聞いた。結局は同じサキュバスなんだから、仲間じゃないのかよ」
「いいえ。ここにいるのは何万年も前に生まれた別のクイーンの娘。あたしが産んだ子供じゃない。それに、この混乱ぶりからしてクイーンは死んでる。後に残ったのは、オスを喰らう本能に突き動かされた怪物だけよ」
言うだけ言うと、マリアは銃を懐に収めて別の扉から部屋を出ていってしまった。
ぽつんと残されたオレとメグは横目で睨み合い、渋々とマリアの後を追う。ここにいても何もすることがないし、来た道の扉を叩くバケモノどもがいつ入ってこないとも知れない。
オレとしては、さっさと船を取り返して脱出したいところだが。まずは、玉袋を喰われる前に、ここを生きて出なければ何も始まらないだろう。
そして、あくまでついでだけれど、オレの横を並んで歩くメグも回収できれば、クスコをはじめとした人間に対する義理も果たせるというわけだった。
「クスコちゃんは?」
「さあ。さっきは生きてたけど、バケモノが遺跡の外に出てたら喰われてるだろ」
「クスコちゃんは強いから大丈夫」
「あっそ」
メグを押しつけられて何年か経つが、初めて普通に言葉を交わしたような気がする。
ここに来る前のビデオ通信でも見たが、この期に及んでまだ喰いながら歩いているのが無性に腹立たしく思える。
オレはメグの背中のリュックから飛び出しているハンバーガーの包みをひとつ、ツメの先でつまみ上げて袋を剥き、ほかほかのパン巻き肉を鼻づらに詰め込んだ。
どういう原理かは知らないけれど、出来立てと変わらない大した仕上がり。これも古代文明の成せる業なのだろうか。
単純に、ここまで連れてこられる間にバーガー屋の販売船と出会って買い溜めしたものをレンジで温めたのかもしれないが、水と粉末を入れるだけで、どんな喰い物も作り出せる遺物を見たことがある。
ここは、女の形をした魅惑的なバケモノが徘徊している遺跡の中なのだ。どんな遺物が現れて何が起きるか分からない夢のような現実の最前線。
それがここまで銀河を熱くさせているキルゾーン宙域であった。
「で、結局、あいつらは何なの。サキュバスって何?」
「どうでもいいことよ。少なくとも、あたしは銀河を滅ぼそうとは思ってない」
「ふうん。そういうもんかねえ」
オレの質問をさらりとかわして微笑むマリアからは、人らしいものが感じられない。
でも、そもそも人じゃないのだから、それが普通なのかもしれなかった。




