恐怖観光
人間もエルフも獣人も女というものは、一匹残らず全部ああいうものなのか。
いくらオレが成熟したオスとして完成された存在であり、股ぐらの玉袋に凝縮されている毛深い遺伝子が優秀といえど、ここまで露骨に奪い合われては生命に関わってくる。
そんなのは故郷で散々に経験した。戦争も物心ついたときから、ずっと戦ってきたのだ。
その程度のことに精力を使い果たしても得るものは何もない。
せいぜい、銃弾や爆弾、女のツメや牙に切り裂かれた肉体、そして搾られた種汁と子宮のタマゴが結合して地獄から這い出てきた望まれない子供。そんなところだ。
オレはオレの玉袋を巡って争う人間とエルフの小競り合いから走って逃れ、ついつい遺跡の中に入り込んでしまった。
外は森と平原が隣り合わせになっており、そこを逃げても簡単に見つかってしまう。
だからといって遺跡が安全なわけではないし、こういう新しいところは他の業者が先陣を切って整備したわけでもないから、侵入者を迎撃する防御用プログラムが機能している可能性が非常に高い。
まあ、たいていは頭の悪い自動制御のガードロボット。戦争帰りで職に溢れたオレのような退役軍人の手にかかれば、ちょっとした射撃訓練と何も変わらないだろう。
だが、いまのオレは銃も船も財布も取り上げられ、自分の船の中で支給された囚人用の明るい色をしたツナギ一着だけで毛玉姿を覆っている状態だ。
もうひとつ言えば、その懐にコーラ缶が一本だけ入っている。
いったい、これで何ができるとも思えないが、オレは肉欲の強すぎる女どもから離れたい一心で隠れ場所を探しているだけなのだ。
ガードロボットも先に突入した軍人たちが破壊した残骸が道に沿って並べられ、遺跡の電源もすでに復旧していて中は思ったより明るかった。
無機質で安上がりな鉄とコンクリート造りの内装も他の遺跡と変わらない。
オレは泡立ったコーラをちびちびと鼻づらの先で味わいながら、まったりとして遺跡の観光を楽しんでいた。
「む・・・」
ただ、この遺跡は何かがおかしい。エルフ娘のアンネの分析では、この遺跡の奥でメグとマリアが待ち構えているという話だったから、何かしら罠があってもおかしくないのだが。
そうではない。この何の変哲もない遺跡を進めば進むほど、何者かの視線や気配、イヌが後ろを駆けてくるような何かしらの存在をはっきりと感じるのである。
これが古代文明の幽霊だというなら、まるで科学的じゃないが、筋は通っている。この大宇宙時代にあっては一部の退廃的な種族を除き、誰もが科学の信仰者なのだ。
しかし、オレの毛深い五感を信じるならば、どうにも甘っこい女のニオイが視界の死角、すでにオレを取り囲んでにじり寄る謎の気配の方向から漂ってきていた。
ぎらぎらとして暗闇の中から光る眼光。それは、この世の女も同じだけれど、それ以上に研ぎ澄まされた玉袋と肉欲への渇望がオレの心に直接に入り込んでくる。
男を目で捉え、荒い息を上げてたぎらせるメスの本能。ぴたぴたと床に子宮の奥から滴り落ちる毒の体液が鍾乳洞のように響き渡っていた。
「もんぎゅ、もんぎゅ」
それでも振り返るわけにはいかず、オレは男として女という上位種に対する本能的な恐怖に苛まれることになり、足裏の肉球に力を込めて歩を早める。
すると、どういうわけか、人間らしき裸の小娘が照明の影でうずくまって何かを喰らっている姿が見えたのだった。




