メグの幸せ
とんだドッキリであった。いくらなんでも冗談がすぎる。手に持つ端末の映像を通して無邪気に映るメグの顔は、オレにとって他人の野糞と同じぐらい不快な光景だ。
仮にも現代の毛玉であるオレが機械に疎いと思って騙しにきているとも考えたが、ホログラム対応でこそないものの、この平面映像は録画ではなく中継によるもの。
しかも外の宇宙空間に浮かんでいる衛星を通さず、直接、この端末に暗号通信で送りつけてきていることから、同じ惑星の半径十キロに満たない近い距離から送信している。
それら客観的事実が意味するのは、すなわち、メグはこの星にいるということだった。
「メグ、無事か。ケガはないか」
そう言って褐色肌の顔を寄せてきて、ほんのりと良いニオイをまき散らすのは言うまでもなくクスコである。
こうなると子供が心配な夫婦と六才児によるビデオ通信と何も変わらないが、実際、そうなのだから仕方がない。
オレとクスコには肉体関係があって子宮も懐妊済みなのだから、あとは指輪と結婚届があれば、そこらの一般的な夫婦と何も変わらないのだ。
だが、オレはそういうつもりでクスコと付き合っているわけではないし、こいつも子供を産むのは一族の期待に応えるためであって、すっきり産んだ後はさっさと然るべき筋に渡して仕事を続けたいはずだろう。
オレは昔の女のよしみで子種を植えつけて後腐れなく去る。そういう人助けをしているだけなのだった。
「メグは元気だよ。よく分かんないけど、メグがあれ食べたいこれ食べたいって言うと、ロボットさんが持ってきてくれるから、パパといるより幸せかもしれない」
ここでこうして見るかぎり、どこの飯屋に潜り込んで無銭飲食を繰り返しているのかは不明だけれど、母親と同じ日焼け顔の口の周りを食べかすで汚しながら、いまもとろりとして熱いチーズのピザにかじりついているところであった。
そこでそうして百年ぐらい幸せに暮らしていてくれれば、オレも世話がないのだが。
一瞬、映像が乱れたかと思うと、今度はメグを連れ去ったと思われる黒ずくめの人間娘、あるいは銀河に仇なす玉袋狩りのサキュバス。オレの頭の上の獣耳には、マリアと名乗った女の顔が現れた。
「はあい」
やはり敵にするには、あまりに悩ましいかぎりの魅力的で肉感的な色気がある。
生首だけにして比べれば、アンネたちエルフと互角かもしれないが、実際に交尾して口内から子宮の奥底まで味わい尽くしたオレからすると、エルフの顔と肉付きの良い人間の身体、それから獣人の巨大な乳を足して完成された究極の理想を体現している女なのだ。
オレの人生で直に見れたエルフの裸はアンネのみ。あれが特別に痩せすぎているというんでもないかぎり、エルフと交尾するのは、栄養失調の子供を抱くような気分であろう。
訓練された人間娘のクスコでさえ、交尾の後はぴくりともしなくなるのだ。
そこんとこ、エルフに獣人の男根なんて突き刺したら、細い肢体がクッキーみたいにバラバラに砕けて子宮だけになってしまいかねない。
この銀河を肉欲の名の下に破滅させる存在がサキュバスである。何百万年も前から轟くその悪名が伊達でも誇張でもないのは、マリアの身体を見れば明らかであった。
「貴様、メグをどうする気だ。かすり傷でもつけたら、人類政府が黙ってないぞ」
「この子は人質よ。どうなるかは、あなたたちの返答次第ってこと」
「く・・・」
そう熱くなったところでクスコはもちろん、人間たちが束になったところで敵う相手ではない。少なくとも、アンネの話ではそういうことになっている。
ただ、サキュバスであるマリアが生物学的には紛れもない女であるメグに、そこまで関心があるとも思えない。必要がなくなれば、あっさり殺して肉として喰う可能性も十分に考えられるだろう。
要求はひとつ。玉袋であることはまず間違いのないことだった。




