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ランディング・ゾーン

 青色恒星を中心として首都星シャーベットに活動拠点を置くシュガー星系。その外周の最も遠いところにある小さな惑星が今回の目的地であった。


 惑星規模としては、シャーベットの三分の一ほどの大きさ。いざ地上に降りてみると、恒星の青い光が点にも満たないぐらい小さく空に浮かんでいるだけだというのに、驚くほど植生が豊富で空気も澄んでいる。


 いまも惑星の半分以上がテラフォーム作業の最中にあるシャーベットよりも、はるかに居住性は良さそうだ。


 惑星探査に関わった連中が給料分の働きをしていれば、とっくに発見されて植民地になっているはずなのだが。こんなに理想的な土地が手つかずのままに放置されていたのが不思議というか、いろんなものを通りこして不気味でしかない。


 おまけに、古代文明の新しい遺跡がいくつも埋まっているという話だし、これまで人が誰も寄りつかなかった理由が知りたいものだった。


「おい」


 もうひとつ言うと、船から降ろされて採掘という名の自由行動が許された途端、クスコは檻から飛び出したウサギみたいにぴょんぴょんと元気に飛びまわり、さっきまで苦しそうにしていたのは全て仮病だったと明かされた。


 それもそうだ。親の期待に応えるために女を捨てて軍人になったクスコの身体は、女ながらによく鍛えられている。


 たかが孕んだ程度で動けなくなるようでは、たとえ人間ごときの貧弱な警備隊であっても隊長にはなれない。ボテ腹で戦場に赴くのがメスというものだ。


 まあ、人間にしては活きが良かった姉の面影は一切ない凡庸な女だけれど、戦士ではなく娼婦として考えれば、そこそこ使えなくもないだろう。


 偉大な姉に変わって子供を産むなどと生意気を言うもんだから、繁殖欲の旺盛な獣人の中でも特に肉欲が強すぎると全宇宙から畏怖されたオレが遠慮なしに交尾にかかり、一晩で処女の貴族娘をくたびれた中年の獣人と同じぐらい穢し尽くしても虫の息で生きていた。


 そういう意味では、期待の持てる人間娘である。


「貴様。まさか、あのエルフとすでに貫通したのではあるまいな」


「・・・だったらなんだよ」


 オレは少し間を置き、たっぷりともったいぶってからそう答えた。


 さすがのオレも初対面のエルフと交尾する度胸はない。獣人にとってエルフは、政治的にも軍事的にも対角線上に位置している天敵なのだ。


 平時とはいえ、次の戦争に備えて獣人側の優秀な戦士を抹殺しようとエルフが企むのは実に妥当である。


 エルフの科学力の恐ろしいところは、それがどういう形でどういう威力をもたらすのか、全く予想がつかないということ。その一点に尽きるだろう。


 要するに、オレはこの場でただひとりのエルフ娘、アンネとは肉体関係を持っていない。


 向こうはオレが銀河を救う英雄だとして興味津々だけれど、アンネが本当に普通の科学者かどうか判明するまでは、いつものようにクスコと交尾するしかなかった。


「だいたい、何故、エルフがここにいるのだ。この手の強制労働は囚人を徴用して行う。エルフには外交特権があるから、そもそも逮捕も拘禁もできないはずだか」


「さあね。お前と同じで黒ずくめを追ってるらしい。こう言っちゃアレだけど、銀河捜査局の捜査官だったりして」


「むぐぐぐ・・・」


 悪徳警官同士、仲良くしろと言いたいところだが。そんなことはどうでもいい。


 今回の一件に動員された百人のうち、我先に遺物を見つけて金をもらおうと考える大半の連中は軍人や科学者と共に遺跡の中に入っていったが、オレは金も遺物も置いといて自分の船を奪い返すことを考えていた。


 警備は数人。ほとんどの兵隊は護衛として遺跡に付き添ったから、着陸地点に設置されたテントには、オレとクスコ、そして、少し遠くの方で夏休みの子供みたいに虫捕り網を振ってはしゃいでいるアンネを含む少数の人員だけが残っている。


 いくらなんでも銃を持った警備兵に正面からパンチするのも危なすぎるし、別にそこまで急いでいるというわけでもなかったから、先に行った連中が遺物を持ち帰ってくるのを待ち、小さいものをいくつかポケットに入れてしまうのも悪くない。


 しかも、テントには箱詰めされた大量のコーラと即席ラーメンが用意されており、このまま一か月くらい都会の喧騒を忘れて住むというのも悪くなかった。


 だが、クスコが仮病を使ってまで監視をごまかして行っていたことがオレを困らせるためのものだったとは、夢にも思わなかったのだ。


「ほら、出ろ」


 そう言われてクスコから受け取った端末を見れば、てっきり死んだとばかり思っていた誰かさんの置き土産が元気に動いていた。


「もしもし、パパですか」


「だから、ちげえって言ってんだろ」

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