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銀河の危機と交尾とカネ

 いつもオレを不当に迫害して肉体関係まで持った悪徳警官の人間娘。すなわち、クスコが死刑というのはごもっともな話だけれど、オレまで道連れになるのは納得がいかない。


 いったい、オレがいつ罪を犯したというのだろうか。戦争中は山ほど敵を殺戮して生き延びてきたが、徴兵された獣人はそれが仕事である。相手も同じように銃を持って好き放題に撃ってきた上でオレが勝ったのだから、もはや正当防衛も同義であろう。


 しかし、オレの言い分が受け入られることはない。紛うことなき現役の警備隊長にして貴族の娘でもあるクスコを陰謀にはめる連中だ。正規軍の大佐を司会に使うぐらいに権力を持て余した悪の組織であり、おそらくは、母星でも巨大な影響力を持つ一派である。


 どいつもこいつも遺物が絡むと目の色を変えるのは、そういう採掘関係の傭兵やスカベンジャーを船長として運んだ経験から嫌というほど見てきたのだ。


 それよりも腹立たしいのは、どういうわけか、こうして集められたオレたちを乗せて危険な採掘に向かう船として用意されたのは、警備局に押収されてスクラップになったとばかり思っていたオレの輸送船だった。


「あなたの船?」


 散々にオレを誘惑した後、何事もなかったかのように服を着て白衣を着て同じように船に乗せられるエルフ娘のアンネは、科学者らしい好奇心で船を見つめている。


 他の連中は、古いだの小さいだの獣臭いだの、いまも船長のつもりでいるオレの鼻づらの先で考え得るかぎりの文句を並べていたが、アンネは船が初期の宇宙進出時代の規格に基づいて造られていることをずばり見抜いてみせた。


 それから、エンジンや船体構造、内装、実際の運用具合に至るまで事細かく聞かれたが、オレは根っからの地上軍で船なんて興味がないのだ。


 エルフの技術水準からすればお粗末かもしれないが、この船はコンピュータ制御で動いていて人の手を借りる必要はない。


 そして、これはオレが戦争が終わった後、故郷に戻って母親から子作りを強制されるのが嫌で軍隊を抜け出るときに、退職金の代わりに奪って逃げたものなのである。


 ハイパードライブすらない型落ちした旧式艦だけれど、オレひとりで操作できて誰でも動かせる船はこれだけだった。


「名前は?」


「そんなもんねえよ。必要もねえ。いつも型式で呼ばれてる」


「だから、船もキミに意地悪するんじゃないかな」


 そう言うアンネは、全員が乗り込んで無事に出発した後も船の中身をくまなく調べては、ひとり頷きながら感心していた。


「船だって名前がないと寂しがる。モノにも魂がある」


「宗教の話は御免だ。エルフは二言目にゃ処女がどうとかって交尾もマスターベーションも取り上げるらしいからな。お前は違うみたいだが」


「ボクも処女だよ。誰とも婚約してない」


「じゃあ、さっきのアレは何だ。科学者のひらめきってやつか」


 オレがそう言うと、アンネはまた性懲りもなく脱ぎはじめたもんで制止し、異文化交流の難しさを思い知って鼻づらを抱えることになった。


 やれやれ。いまのオレは船長でもないし、料金分の待遇を受けられる客ですらない。


 この作戦を主導する軍人や関係者は、上の船員スペースや客室を使っているが、オレたち百人の使い捨ては武装した兵隊に見張られながら格納庫で雑魚寝させられる。


 こんなところでエルフの女が裸になって他の獣人が発情でもしたら、遺物云々の前に気の触れた獣人や囚人が殺し合った挙句に、兵隊に処刑されてしまう。


 それに、オレはこう見えて恋愛観は一途だから、愛人は山ほどいても一度に交尾するのはひとりだけと心に決めているのだ。


 辛抱堪らなくなった他の男を混ぜるのなんて論外だし、酒池肉林の乱交がお望みなら、そこらのバーに行って娼婦をまとめ買いすればいい。


 こんな日にかぎって小言も吐けないほどに弱りきったクスコに代わり、ぐいぐいと痩せた身体を寄せてくるアンネの気持ちは股ぐらに沁みわたるけれど、物事には機と段階というものがある。


 いまはそのときではない。それだけは確実であった。


「言ったでしょ。ボクはキミに興味がある。アレと交尾したキミという毛玉に」


「だから、アレって何なんだよ」


「キミをこんな目に遭わせた張本人さ。ここの警備局のデータベースでは、たしか黒ずくめと呼ばれてる」


「あー、マリアのことか」


 その瞬間、アンネは骨と皮も同然の手でオレのたくましい腕を掴み、ぶんぶんと揺らしながら綺麗な顔の綺麗な目を輝かせていた。


「すごい。名前まで教えたんだ。よっぽど気に入ったらしい」


「たかが名前だろ。どうせ、本名じゃない。子供が親の金を喰い潰すのが仕事なように、女はウソをつくのが仕事だからな」


「もちろん。アレには、いくつもの名前がある。でも、マリアと名乗るのは数百年ぶりだ。キミは、ボクの想像を超えて本当に興味深い稀有な毛玉だよ」


 さりげなく、とんでもないことを言われたような気がするけれど、オレにとってはアンネも珍しい種類のエルフである。


 いや、科学者なんて根暗な仕事が天職と謳われるエルフは例外なく変わり者の種族なのかもしれないが、いまさらもう遅い。


 アンネはオレの毛玉姿にくっついたまま、誰に聞かれたわけでもなく、いろんなことを勝手に喋りまくった。


「要するに、お前がさっきからアレアレってモノみたく言うあの女は、本当に人間じゃなかったってことか」


「明白なる銀河の脅威。エルフの世界では、サキュバスと呼ばれている。一万年に一度、とてつもない群れを率いて銀河に存在する玉袋を喰い尽くす。麦の収穫みたいなものさ。食べ終わったら、また一万年後に備えて冬眠するんだ」


「玉袋って、オスの玉袋のこと?」


「そう。ヤツらはエルフと同じで女だけだから。繁殖のために男の生命力を吸収し、どんどん数を増やす。憎しみや敵意はない。でも、それで宇宙から男がいなくなったら、ボクらが繁殖できなくなって銀河が滅ぶ。だから、止めないといけない」


 なんだか実感が湧かないけれど、これが現実のエイリアンによる侵略なのだろう。


 映画なんかでは、タコの形をした変なのが超能力で銀河政府を乗っ取ったり、円盤型の強襲戦艦が母星を地殻ごと撃ち抜いたりしたものだが。


 すべてが謎に包まれた美女型エイリアンが男の玉袋を搾り取って殺し、銀河中の男がひとり残らず喰い尽くされて女たちの子宮が干上がり、ゆっくりと絶滅するというのがエルフの恐れる銀河の終焉らしい。


 たった一匹で武器も持たずに街を破壊したのは、黒ずくめのマリア。つまりは、サキュバスという存在の持つ力なのか、結局は遺物なのかは不明だが。


 ただの船長から、ただの毛玉に落ちぶれたオレには銀河を守る義務はないし、むしろ、まんまと交尾をして玉袋の中身を提供してしまった哀れな被害者である。


 オレと人間の女から生まれたメグがそうであるように、オレによく似た耳とシッポを持つ宇宙怪物が現れて街を襲いはじめたら、種親のオレまで共犯になってしまう。


 そういう意味での大罪、銀河の秩序と平和を破壊せんと企てた咎を責められて今回の徴集に至ったのならば、オレは間違いなく有罪であった。


「あの女が人の皮をかぶった怪物なら、あんな恥ずかしげもなく交尾したがったのも道理としてある。でも、だからって、エルフのお前が裸になるのはどういうことなんだ」


「それは、個人的な興味だよ。サキュバスは、男と見れば凌辱輪姦して生命を吸い取る悪魔のような怪物だけれど、男なら誰でもいいわけじゃない。古今東西、一般的にも若くて健康で男根のたくましい男を女は好む」


「お前みたいな堅物のエルフも同じ風に思うのか」


「ボクの好みは関係ない。アレがキミを選んだというのが面白いのさ。はるか昔、何万年も前にサキュバスと戦った文明の記録では、たった一度の交尾で男は死んでしまう。でも、キミはアレと交尾した上に二度も接触してなお生きている。ボクの知るかぎり、そんな存在はキミが初めてだ。キミは事実上、サキュバスに勝利した唯一の存在だよ」


 アンネはいたって真剣な表情で言ってくれるけれど、そんな風に褒められるのは初めてのことだった。


 というか、生まれて此の方、母親にも褒められたことがない。そこで悪寒に身体を震わせながら毛布に包まっているクスコ、その姉にしてメグを産んだ女、これまで一期一会の出会いと神聖な戦いを繰り広げた数多の娼婦たちも例外ではなかった。


 獣人と人間では体格が違いすぎるし、女獣人は性感が鈍いから子宮の中に腕を突っ込んで内臓を引っ張り出すぐらい激しくしないと発情しない。


 そういうわけで、オレのような男の獣人の男根も腕のごとく巨大であり、それを同胞と交尾する感覚で人間娘と接すると、痛いだの壊れるだのデリカシーがないだのと文句の嵐をぶつけられ、せっかくの雰囲気も台無しになってしまう。


 だから、意外と交尾のことで獣人が褒められるのは名誉なことなのだった。


「ボクはサキュバスを屈服させたキミの肉体、そして交尾のやり方に、科学者として純粋な興味があるんだ。なんでも自分でやらないと気が済まないのがエルフだから、キミはボクを銀河の敵だと思って存分に交尾するだけでいい」


「そりゃあ、けっこうな話だけども。エルフは遊びで交尾しないんだろ。そこの人間娘みたいに、孕んでゲロまみれになっても知らねえぞ」


「大丈夫。ボクは独身だから、キミと結婚すればいいだけさ。さあ、頼むよ」


 そう言ってまた平気で脱ぐアンネの気が知れないけれど、天才は狂人だともよく言うし、エルフが知り合いになってコネができれば、また船長として仕事を再開したときにエルフ製の闇武器や麻薬なんかを仕入れて大儲けができる。


 遺物なんかより、人の手で作り出せる現世の代物の方が安定した金脈となることは言うまでもない。


 オレも少しばかり民間の仕事に就いて学んだのだ。戦争より大金のことを考える方がはるかに人らしくて役に立つのだった。

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