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春の目覚め、ワワチのはじまり

 幾度となく繰り返された銀河規模の星間戦争を経て、それぞれの宇宙に高度な文明を持つ各種族は部分的な融和を果たした。


 それが二十年の休戦。つかの間の戦間期における儚い平和に過ぎないということは分かりきっていたが、戦争によって消耗した各種族の資源商人や開拓業者、貧困層や被差別階級を中心とした五億人の大移民団が銀河の緩衝地帯『キルゾーン』に向けて出発する。


 そこは銀河の中心に位置し、戦時中は主要な四勢力を橋渡す交通路として最も多くの戦闘が発生した宙域である。戦火に巻き込まれる前から不毛な惑星帯として知られていたが、あるとき、戦艦の流れ弾がえぐり取った地中から、豊富な鉱物資源と共に超古代文明のものと思われる遺物が発見されたことで宇宙の歴史が大きく変わったのだ。


 その遺物が秘めるテクノロジーは、軍事的にも文化的にも大変な価値があるとされ、つまり大金が絡むと知った人々が一獲千金を求めて殺到。


 ほんの少し前まで軍隊しか通らなかったキルゾーンは瞬く間に発展し、四勢力による合同投資や集中的なテラフォーム事業によって緑豊かに生まれ変わった第一星系シュガーの首都星シャーベットを中心に、遺物発掘を目的とする人々の欲望は積極的な植民という形で現在も進行している。


 いわゆる『春の創造計画』であった。


 まあ、世の中は右も左も恒星間ニュースも、さっき買ったダブルチーズバーガーの包み紙にまで遺物のことが書いてあるが、しがないチワワ級の輸送船の船長をして喰い繋いでいるイヌ星人のオレには関係ない話だ。


 ついでに言うと、いい歳こいて結婚もしていないけれど、オレと同じ獣耳とシッポを生やした人間の娘はひとりいる。母親が根っからの性悪な自由人だから、一度も母乳を飲む機会すら与えられずに、子供嫌いで甲斐性もないオレに全てを押しつけて消えてしまった。


 いくら自分の娘とはいえ、こんなイヌもどきのつるぷに肌の子供の世話なんて勘弁してもらいたいが、まだ小学校に入ったばかりの六才だし、法律上の保護責任やら養育やら諸々の金の支払いは全てオレを指定した上であの女は去ったのだ。


 こんな風に自分が腹を痛めて産んだ子供を何の躊躇もなく捨てる母親なわけで、種親が本当にオレなのかどうかも怪しいところである。


 さっさと孤児院か奴隷商人を見つけて厄介払いしたいけれど、この新興初々しいキルゾーンで最も整備されている首都星シャーベットにも、子供を捨てるのにちょうどいい場所がなかなかない。


 単純に殺して船のエアロックからゴミと一緒に放り出してもいいが、最近の人間の子供は生体情報がリアルタイムでリンクされているから、死んだりケツに生殖器を突っ込んだりして生命反応が乱れると、最寄りの都市星にある児童局や宇宙警察が飛んできて鼻づらにレーザー弾を撃ち込まれることになる。


 全くもって面倒なかぎりだが。顔が母親似なら見てくれは良いだろうし、暗号回線で裸のストリップでも配信すれば、子供好きの変態どもから金が取れるだろう。無趣味ではした金をだぶつかせているバカなロリコンは、どの種族にもけっこうな数がいるものだ。


 そういうわけで、オレは予定通りの三日後、ブリッジを覆っている全方位複合ガラスを越した先に見えてきた青と緑の巨大な首都星。すなわち、シャーベットの宇宙港を目指して唯一のまともな財産である船を進める。


 このチワワ級は輸送船としては小型だけれど、学生気分の抜けないガキが乗れる自家船よりはずっと巨大だし、船底の貨物室を定量いっぱいに詰め込んでも、まだ二十人は乗れる定員スペースがある。


 宇宙軍課程に行かず、兵役はずっと地上軍にいて船のことなんか何も知らないオレでも船長で稼げるのは、船のコンピュータが全部やってくれるからだ。


 オレは船の最高責任者としてコンピュータの行動を承認し、生身の管制官や立ち入り検査官が現れたときに世間話をするだけでいい。


 ただ、エンジンが旧式の燃焼型でワープ用のドライブも積んでいないから、足が遅いことだけが欠点としてあるが、オレは生きて兵役を全うして戦争も終わった。オレが縄張りにしている首都星から星系内の行き来だけなら、ワープしなくても往復で一週間ぐらいで済む。


 戦争中はいろいろと忙しかったが、退役して自分の船も持てたわけだし、まったりと宇宙を行ったり来たりするのも、なかなか乙なものであった。

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