第97話 学力テストの朝
登校して、いつもとは違う雰囲気を感じた。
静かに、昨日配られた問題を見ている者が多い。
俺の場合は、いつも何かあり過ぎだと思ってたから、もしかしたらこれが普通なのかもしれない。
「おはよう、光人君。」
あやねるが、相変わらず愛くるしい笑顔で挨拶してくれた。
「おはよう。」
俺も笑顔で挨拶を返した。
と思ったら、肩を叩かれた。
「光人、おはよう!どうだい調子は?」
「配られたプリントは一通り目を通したくらいかな?どんな問題が出るか知らないけど、そこそこは点数いくんじゃないかな?」
「余裕だな。だがな、光人。確かに受験の時は平常心ってやつを失ってたからな。今回のテストはマジでやらせてもらうから。約束忘れんなよ。」
「景樹から吹っ掛けといて、よく言うわ。勝てる自信があったから、だろう?」
「まあ、それはな。すでに過去問も入手してたからな。」
ここで聞きずてならない言葉を吐いた。
「過去問持ってんのかよ。」
「部の先輩から入手済み。あれ、言ってなかったっけ?」
「とぼけんじゃないよ。それであんな勝負とか言いやがったか…。」
「ははは。まあ、別に負けてもそんなに悪い条件じゃねえだろう、あの約束は。」
近くに塩入がいることで、内容を言わないところは、さすが気の利くイケメンだ。
と言っても、自分が有利な状態での勝負を挑むのは、さすがにスポーツマンシップとやらに反するんじゃないか?
「スポーツマンシップなんて考えてないだろうな。あれは審判にばれなきゃ、今だとビデオ判定ってのもあるけど、バレなきゃ何やってもいいってやつだからな。覚えておいて損はないぜ。」
そう捨て台詞まがいのことを言って笑った。
誰だよ、こいつを爽やかイケメンって言ったやつ。
あ、俺か。
定番のノリツッコミを脳内でやりながら、自分の席に鞄を置いた。
須藤に挨拶しようとしたら、酷くやつれた感じで睨まれた。
「お、おはよう、須藤。どうかしたか?」
「ああ、おはよう。お前には関係…なくもないが、ちょっと眠れなくて、朝のバイトもして、疲れただけだ。今は気にすんな。」
「えっ、俺に関係すんの?」
「今は気にすんな。テスト頑張ろう。」
かなりおざなりに言われた。その言い方は気になるだろうが。
そう言って須藤は机に突っ伏した。
話しかけるなと、体全体で言ってる。
このテストは参考程度のはずだが、皆、系列高校すべての順位がつくことから、気合が入っている感じだ。
「あの後って何かあった?」
前の席のあやねるが俺の振り向き聞いてきた。景樹とのやり取りが気になったようだ。
「なんかスポーツマンって、何でも勝負に持ち込みたいみたいで、今回のテストの総合点で勝負を挑まれた。」
「勝ち負けでなんかあるの?」
「まあ、負けた方が勝った方の言うことを聞く、みたいな?」
「ふーん。」
俺の話に少し何かを考えるあやねる。
この流れで何を言いたいか、なんとなく推測できた。
「じゃあさ、私たちもしよう、総合点勝負!」
ですよね。
なんかウキウキしてんな、あやねる。
こう言ったこと好きなのか?
「一応、佐藤君と一緒で、負けた方が勝った方の言うことを聞く。でもでも、無茶なことはダメだからね?」
あやねるの頼みなら、犯罪行為以外は勝負しなくてもOKなんですけど。
「ああ、いいよ。まあ。景樹とすることになって、事情は変わんないし。」
「絶対だからね!」
「おお、自信あるんだ、あやねる。凄いな。」
ニコニコのあやねるの後ろから俺を睨んでる塩入の顔が目に入った。
心の中でため息をついた。
何もないといいけど。
チャイムと同時に担任の岡崎先生が入ってきた。
委員長の塩入が号令をかけ、先生に挨拶した。
「さて、今日はみんなが待ち望んでいた、学力テスト開催の秘だ。」
誰も待ち望んでないよ、そんな言葉が各所で漏れ聞こえてくる。
その呟きが岡崎先生の耳に入ったのだろう。
実に楽しそうだ。
「まあ、前にも言ったが、このテストは来年から始まる、日照大への推薦試験の一環の模擬テストみたいなもんだ。特にこのクラスを含む外部受験生は、若干不利になっている。あまり結果に一喜一憂しないで欲しい。来年からのテストを見据えたものだからな。」
この前も言っていたことを繰り返す先生。
「でだ。君たちにとっては今言ったように参考程度だが、2年生、そして3年生は結構ピリピリしてるからな。刺激をするような行動はするなよ。」
と言って何故か俺を見てきた。
まるで俺が上級生を刺激するようなことをするとでも言っているようだ。
「日照大への推薦が欲しいものは、参考程度とはいえ、今後の指針になるからな。過度に緊張する必要はないが、まじめに受けるように。それと明日の授業は、今回のテストの解説を行う予定だから、そのつもりで。特に今回受けた試験内容で疑問があればその時に担当の先生にしっかり聞いておけ。異常だ。」
号令に乗って先生に挨拶をすると、先生が出ていく。
景樹が俺に振り向き、にやりと笑った。
すぐに試験管の先生と岡崎先生が入ってきた。
テストを配り始め、学力テストが始まった。




