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第96話 静海の謝罪

「お兄ちゃん、ちょっといい?」


「いいけど、今日はパジャマかなんか着てるだろうな?毎夜、お前の下着姿見せられても、しょうがないぞ。」


「なんか酷い言われようね。今日はちゃんとしてるよ、いい?」


「じゃあ、いいぞ。」


 静海がピンクのパジャマ姿で俺の部屋に入ってきた。


「あれ、勉強してた?」


「明日がテストだって、お前も言ってただろう?」


「いや、そうだけど…。本当に勉強してるとは。」


「何で勉強してて驚かれるんだか?で、どうした?」


 俺は机に広げていたプリントの類を片付けながら、静海に問いかけた。


「ちょっと朝のことで。」


「ああ、静海の友人のことか。」


 何が言いたいのか、ちょっと想像できない。

 「イケメン」と言われたことに関してなら、もう少し怒るような感じだと思っていたのだが。


「神代麗愛って自己紹介してたでしょう?」


 うん、知ってるけどね。

 ここですぐに静海の友人の名前を出すと、気があるように思われないか、ちょっと気にしました。


「で、その子から俺がイケメンって言われて天狗になるなって、忠告か。」


「うん、それもあるにはあるんだけど…。なんで麗愛があんなことを言ったのかっていう、その理由。」


「それは何となく分かってるよ。お前が少し悪く俺のことを友人たちに言っていた。でも、実際に見たらそれほど酷い男ではなかった。そんなところじゃないか?」


 俺の言葉に、静海は少しびっくりして、すぐに力ない笑顔になった。


 ここにきて静海がわざわざ俺のところに来た理由もわかった。


「ごめんなさい、お兄ちゃん。確かに友達に、お兄ちゃんのこと凄く酷いこと言ってた。」


 謝るために来たのだ。


「いいよ、もう。本当にあの頃はひどかった。いろいろあったけど、親父に解決してもらった後は、しっかりとするべきだったんだよな。それが半分引きこもりみたいになっちゃって。俺の方こそごめん。あの頃の俺のことはひどく言われても仕方ない態度してたからな。」


「そうだとは思う。本当にひどかった。でも、私もちゃんとお兄ちゃんと接するべきだったんだよ。そのことに、本当に後悔してる。」


「そうは言っても、静海も中学受験の頃だろう。人のことを気にしてる余裕はなかったと思うよ。」


 俺はあの頃を思い出した。


 親父が俺のことにかかりっきりになって、若干、静海の中学受験がおろそかになっていた。


 すべてが終わって、やっと静海の受験の手助けができるようになったのは、年末くらいではなかったか?

 その中で合格を勝ち取った静海は単純にすごいと思う。


 当時の俺にはそんな気持ちはなかった。

 半分引きこもりの俺に、俺が落ちた中学に妹が合格する。

 これは残っていたプライドが粉々に砕けた、と思っていた。


 当然、両親は喜んだ。

 俺の事件があり、俺が引きこもってるという暗い白石家に、差し込んだ光明に思えたのだろう。


 だからこそ、静海の入学式という大義で、俺を家から引きずり出したということが、今なら十分理解できた。

 その時はいわれなき拷問にしか感じなかったが。


 そんなひどい環境だった家で、俺に対して侮蔑の眼差しを送ることも理解できる。

 友達に愚痴をこぼすのも…。


 その結果が今朝がたの一幕だったわけだ。


「ごめんなさい。本当の意味でお兄ちゃんのあの時の状況なんて理解していなかった。この前の日曜にあの話を聞いて、初めて理解できた気がしたの。」


 別に静海はまったく悪くない。

 あの事件で何が起きていたのか。

 その前から続いていた、いじめがどんなにひどかったか。

 そんなことは当事者の俺にしか本当には理解できないと思っていた。

 でも、あの時のやり取りはその一端にしても、第三者に対して、圧倒的な真実として聞こえるということがよくわかった。


「静海が気にすることじゃない。俺に酷いことをしてたのはあいつらだ。そのせいで静海の中学受験に影響があったはずなのに、静海は頑張って合格したんだ。そのこと自体、誇っていいことだろう。亡くなった親父の喜びよう、覚えてるだろう?」


「うん、覚えてるよ、お父さん。」


 ン、何故俺を見て、その言葉を言うんだ?


(んんん~。静海、本当にいい娘だよお~)


 ほら、そんなこと言うから、親父が泣き始めた。


「でも、酷い態度をとってたのは事実だし…。やっぱり、謝ることだと思う。最後にもう一度、ごめんなさい、お兄ちゃん。」


「ああ、わかった。これが最後な。このことでは、お前には何の落ち度はないけど、許します、静海。」


 この件はここで終わり。


「でも、麗愛は本当にお兄ちゃん、タイプらしいよ。散々聞かれちゃったから。じゃあね、おやすみ、お兄ちゃん。」


「えっ、それ、どういうこと……。」


 その時には静海の姿はなく、ドアは閉まっていた。


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