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第94話 知識量

今回の内容、前半部分は主人公の父親の専門分野関連の話題が出てきます。

読み流してもらっても差し支えないです。

通常高校生が解らないという意味で書きましたので、気にしないで読み飛ばしてください。

(光人、ちょっといいか?)


 電車に乗って少し眠ろうとしたところ、親父が話してきた。


(ああ、なに?親父)


(お前、ドネペジルっていう物質、知ってるか?)


(急に何なの、その質問?)


(いや、重要なことだ。知らなければ知らないでいい。知っているか?)


(知ってるか知らないかで言えば、知ってる。だけど、それが…)


(そうか、知っているのか…。で、このドネペジル、どんな物質かわかるか?その特徴みたいなもの)


(え、だってそのドネペジル、認知症の治療薬だろう?確か世界で初めての)


(ああ、全くその通りだよ、光人。私は前の会社でその関連の研究をしていた。すでにその後もいろいろな化合物が開発されているんだが…。光人はその薬理ってわかるか?)


(いや、まあね。コリンエステラーゼ抑制剤だろう。脳内でコリンが欠乏するのをコリンを分解する酵素の活性を抑えて、コリン濃度を下げないようにするやつ。確かそんな感じ?)


(まさにその通りなんだが…。お前はその知識をどこで知ったんだ?確かにテレビで認知症関連の特集で、かなり硬めの内容の時にはそういう説明、出てくるけど)


(いや、どうだろう?でも、常識だろう、この知識って)


(まさか!大抵の大人でも、実際にその薬を使ってる人の家族や、介護の専門職の人でも役名は知ってても、その作用機序なんか知ってる方がまれだ)


(あれ、どうして知ってるんだろう?言われてみれば、そんなに特徴的に何かで見たって感覚ないな?)


(あとさらっと流したが薬理って単語知ってたのか?)


(えっ、薬理って、薬が体内でどう働くかっていう意味、だよね?)


(その通りなんだがな、高1レベルで出てくる単語ではない。薬を扱う職種の人が習うようになって初めて知る単語だな。今はネットがあるから、薬について調べようとすればでてくる単語ではあるけど)


(そうなの?)


(さっきの勉強会を見ていて、疑問に思ってたんだよ。他の子たちが中学で習ってない項目も、難なく理解している光人の存在にな)


(それがさっきの質問にどうつながるんだ?)


(単純だよ。さっきの勉強会の話は、何かの拍子に高校の勉強でもしてたかとも思ったんだが、高1で知るはずのないドネペジル、なんて化合物に関して、何の迷いもなく説明した。これが決定打だな)


(何言ってんだ、親父)


(私の知識が光人に漏れている)


(えっ!)


 親父の言葉が、その意味が、衝撃的だった。


 確か以前、うまく情報を伝えられないようなことを親父は言ってたはずだ。


(驚くことではないと思うよ。何度か主導権の入れ替えを行ってもいたし…。実際にはこの光人の脳は情報量の容量は決まっているんだ。まだ成長しきっていないから、私の人格も含めてうまく収まったみたいだけど)


(けど?)


(事故のあとから急速にこの脳が活性化されて、多くの情報を処理してる。結果、私の知識と光人の知識の擦り合わせが始まったと見るべきだろうな)


(すり合わせって…。)


(情報量が多くなり過ぎたんで、重複している情報を統合してるってことだ)


(意味が分からない)


(光人自身の人格、今までの経験そして知識がこの脳内にはあった。でもまだ情報量に余裕があった。そこに私、白石影人の人格、経験、知識という大量の情報が急に増えてしまった。さらに事故後の処理や、高校入学による情報処理の多さに、脳が整理を始めたってことだ)


(それって、PC内でいる情報といらない情報を分けて、いらない方を消去して、情報容量を増やすって感じ?)


(いい例えだな、それ。最初は別フォルダだったものの中身が重複するってんで、いらない情報を消してる最中。最初、私と光人には境界線があったが、それが曖昧になってるようだな)


(それは、今後どうなるんだ)


 俺は親父の説明に、少し恐怖心が出てきた。

 俺と親父の境界線。


(うーん、私も初めての体験だから、今後のことは解らんが…)


(そうだよな、親父だって初体験だよな)


(プっ)


(な、何がおかしんだよ)


(いやあ、思春期男子の言う初体験って…、ぷぷっ)


(お、親父い!俺は真剣に言ってんのに!)


(それは解ってんだが…、う~ん、うちの息子の初体験…、くくく)


(お、お前、言うに事欠いて…、って、本当にその時が来て、でも、俺の脳には親父って…)


 俺は絶望的な気持ちになった。


(うむ。それは安心してくれ光人。見ないふりをしてやる)


(見ないふりって、振りって何なんだよ!)


 俺はこの電車から飛び出し、誰も知らないところに行きたくなった。


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