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第92話 大江戸という男子

「でも、ちょっと話し戻すけど、光人のいじめの話って、あれ、いじめっていうレベルじゃないよね。」


 伊乃莉がさっきさらっと流したいじめの件を話題にした。


「ちょっと言うべきかどうかわからないんだけど、本人いるし、景樹も知っといた方がいいかと思って…。光人、言ってもいいかな、あの録音の事。」


 伊乃莉が何か言いたいか、なんとなくわかった。

 あの録音のことから、事件の内容を景樹にも知って欲しいと思ったのだろう。


「まあ、いいけど…。あの時も別に好きでやったわけじゃないからな。榎並虹心に本当は何が起こっていたかを、知ってもらいたかったから、だからな。」


「ありがとう、光人。光人自身の古傷をえぐるようなことなのにね。光人のいじめって、確かに恋愛がらみだとは思うけど、あのことは既にいじめではなく、暴行事件、ううん、殺人未遂でさえ問える内容だった。11月のもう寒くなるときに、3人の男子が、同級生でいいのかな、だから中学2年の男子が、光人を動けないようにして、殴る蹴るの暴行を加えた。これだけでも暴行障害だけど、誰も来ない教室、すでに下校時間からかなり遅くなっているのに、動けない光人をそのまま放置して帰った。もし、不審に思った西村さんが光人を探しに来なければそのまま気温が低下する一夜を過ごして、次の朝に運が良ければだれかに発見されるまで、そのままだった。体を動けないようにされていて、防寒着もなく食べるものも、飲むものもない状態で。トイレにも行けない。お腹を力いっぱい蹴られてもいたらしいから、内臓にもダメージがあったかもしれない状態でね。「死んでも構わない」という未必の故意が成立すると思うよ、これって。」


 伊乃莉の言葉に、多少の事情を知っていたあやねるの顔からも血の気が引いたように青い。

 景樹もさすがに驚いたのか、体が硬直したように動かなかった。


「さっきも言ったけど、西村さんが3人だけで学校を出て言ったことに不審に思って、でもとうに学校の下校時間は過ぎているから昇降口からは入れない。もしかしたら自分の見落としで光人が家に帰ったかもしれないと、一縷の望みを抱えて光人の実家に言ったけど、当然帰ってなかった。そこに既に帰宅してた光人のお父さんに事情を説明して、光人の救出に向かった。そうだよね光人。」


 すでに2日前の日曜に説明していた話を引き継ぐ。


「親父がまだいた教師を説き伏せ俺を発見。すぐに智ちゃんがその場を撮影を始めた。これは事実を学校側が隠蔽しないようにしたくて、親父の指示でこっそりやったらしい。で、病院に救急搬送。あとは親父から聞いた話で、その実行犯3人と、その裏にいた俺の元親友、その彼女とは距離を話すという条件で、事件を公にしなかった。実行犯がみなまだ中2ということもあったけど、14歳になっていなかったというのが大きいらしい。その代わりに中2の3学期にクラス替えってことになった。」


「……、なんというか、大変だったな、としか言えなくて申し訳ない。でも、俺は、そのもと親友のようなことはしない。これは信じてもらうしかないけど…、約束するよ、光人。」


 いやさあ、それさあ、ちょっと恥ずかしいんですけども、景樹君。

 うん、そんなところもイケメンですね。

 でも、正直……。


「なんか、そう面と向かって言われると、恥ずいけど、うん、ありがとう。今は、そう言ってくれるだけで、嬉しいよ、景樹。」


 さすがにここで握手は照れるのでしない。

 俺の言葉に、景樹も照れたのか、手を差し出すことはしなかった。


「そんなことがあれば、人と接するのが怖くなるのも当然だよね。なんとなく想像がつく。」


 伊乃莉がそう言って、あやねるを見た。

 その視線の意味。


 小学校高学年から中学で伊乃莉に会うまでのあやねる、宍倉彩音という少女のことを思い出していたのだろう。

 自分のことさえ忘れていた少女を、今のあやねるにまで面倒を見ていた鈴木伊乃莉を尊敬のまなざしで見てしまった。

 と、同時に智ちゃんと慎吾のことを思い出してしまう。

 この二人は大切な二人だ。

 一生、共にいたいと思う、親友。


「その時の光人が、お父さんの不幸な事故で家族のために変わった。素晴らしいことだと思う。イケメンと呼ばれてもおかしくないとは、私も思うよ。思うけど、あんなに綺麗な女子に褒められて鼻の下を伸ばしてる光人は不細工だと、私は思います。」


 ええ、上げるだけあげて、叩き落すんですか!伊乃莉さん!


「私もいのすけに賛成!」


 元気よく挙手しないでくださいよ、あやねるさん。


「ということだ、光人君。せいぜい、女子の前で鼻の下伸ばすようなみっともないことはしない方がいいみたいだぞ。」


 景樹がそのイケメン顔を崩して笑っていやがる。

 だから、別に鼻の下を伸ばした覚えはありません!


「まあね、可愛い女子に好感持たれたら、そりゃあ男子たるもの嬉しいんでしょうけどね。」


 伊乃莉さん、その「私、男子のこと理解してますよ」って感じでドヤ顔するのはやめた方がいいですよ。

 しかも毒入り。


「そんな話は置いといてね、光人。ちょっと確認しときたいんだけど、いい。」


「えっ、急に何?怖いんですけど。」


「あの録音聞いてて、ちょっと思ったんだけど、あの暴行班の人の中の一人、うちのクラスの大江戸ってやつと同一人物だよね?」


 伊乃莉の真剣な眼差し。ああ、気付いちゃったか。


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