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第91話 高校入学前の白石光人

「静海の友達が綺麗だという事は解るけど…。あの子の事は全く知らないし…。あの子のことに関してはよく解らないとしか言いようがないよ。」


 俺の言葉にあやねると伊乃莉の緊張した顔が緩まった。

 あれ、そんなに緊張することかな?

 会ってすぐに好きになる一目惚れってのは、ふつうないと思うけど…。

 まあ、あやねるのことを最初に会って好意を覚えた俺が言っても説得力はないか。


「これは推測なんだけど…、あの子は今まだ俺の悪いことを静海から吹き込まれてたんじゃないかな。で、実際に会ったら普通なんで、あんな「イケメン」なんて単語が出たんじゃないかと思うよ。本当に中学後半の俺は、やる気が一切なくて、他人が怖くて、人と接するのを避けてたからなあ。」


 ふと受験前の自分を思い返した。


 黒歴史が俺の心にどうしようもない感情を揺さぶってきた。


 あ、いけね、泣きそう……。


「この前、光人のその過去のことは聞いたけど、そんなに今と違うのか。」


「う~ん、まあね。好きだった娘が親友と思ってたやつと付き合って、さらにその親友と思ってたやつを中心に虐められてね。親父と今のクラスメイトの西村智子ちゃんに助けられたって話したよな。それが原因で中2の3学期にクラス替えが行われた。ここら辺の事を親父が強引に学校側にやらせたことで、俺自身に悪意を向ける者もいたんだよ。」


「あーと、ちょっと待ってくれ。中学2年の3学期でクラス替えってやるものか。というか受験前だからうちの中学は2年と3年は同じクラスだったんだけど。」


 景樹が常識的な疑問を口にした。

 この付近の公立中学は受験を念頭に2年と3年でクラス替えがないのが一般的。

 自分のいた伊薙中学も本来であればクラス替えはないはずだった。

 それも3学期でのクラス替えなど、前代未聞だっただろう。


 親父は即時のクラス替えを要求したが、中学2年250人くらいの生徒のクラスを替えるという事がすぐに出来るはずもない。


 11月に起ったあの事件から、警察への報告、保護者への説明、受験を控えた当時の3年生への対応まであったらしい。

 最初は中学3年進級時での変更を打診されたようだが、自分の息子が殺されそうだった親父からすると、その犯人たちを少しでも距離を話したかったようだ。

 その時点で俺は、ほとんど自暴自棄に近いほど、全てに対してやる気がなくなっていたので、ほとんど無関心だった。


「普通はあり得ないと思うよ。だからそのごたごたに巻き込まれた同じ学年の奴らが、結構俺に悪意を向けてたらしい。その時には俺は周りに無関心になっていたから、ほとんどなにがあったか知らなかったけど。もっとも、無視はされてたけど、そのいじめ事件が酷いという事と、親父の強引な手法もあって、身体的に何かされるという事はなかったけどね。」


「それって、結構なことだな。」


「高校の受験はあったから、中学3年の2学期には俺のことを悪い意味で気にしてたやつらも、それどころじゃなくなったから、環境的にはよくなったよ。俺も受験勉強に本腰を入れる気にはなったし。でも、他人との関わりは持たないようにしてたし、自分の外見なんかまったく気にしなかったしな。」


 何とかあの当時の自分に対する嫌悪感を抑えつつ、自分に言い聞かせるように言った。


 実際にはそんなに甘いことではなかった。

 俺が受ける高校という噂が、どうやらうちの中学の裏掲示板でさんざん書かれていて、その度に同じ高校を受験しようとしていた奴が変更していたらしい。

 気にしなければいいのだが、かなりじわじわと俺のメンタルを壊された気分だ。

 もっともその俺の受験校の噂は、8割方デマである。


「まあ、そんな感じだから、こう言っちゃなんだが、俺の妹、可愛いだろう?」


「何、ここで妹自慢?どんだけシスコンだよ!」


「景樹、まあ、そう言われても反論できないんだが…。やっぱり俺がこうだから、友人の多い妹からは嫌悪感をそのままぶつけられてたんだよ。本当に地べたを這うゴキブリを見る目でね。だけど、妹はこの高校の中学に受かって、俺と同じ中学でなかったのはよかったんだけどな。そんな思うとが友人に兄をいいようには言わんわな。」


「そんな話を聞いていた静海ちゃんの友人、神代さんが実物を見たら、そのギャップからの「イケメン」発言って訳か。」


「そんなとこだろう。出なきゃ、俺を見て絶対出てこない単語だよ。」


 俺の言葉を聞いて、ふと、景樹が少し考えるような顔つきになった。

 少し間が開いて、俺をしっかりと見てきた。


 あっ、やめて、景樹君。

 イケメン君に見つめられると、変な扉が開きそう…。


「別にそんな自分を卑下することはないだろう、光人。今の感じは充分イケメンだと、思うよ。そう思わない?」


 そう言って、ほとんどしゃべらず、俺たち二人の会話を聞いていたあやねると伊乃莉に話を振った。


「う、うん、そう、だね。」


「わるくは、ない、とおもわなくも、ない。」


 伊乃莉さん、それは一体どっちの意味?

 あやねるも微妙な頷き方。


「な、二人もそう思ってるぞ。」


「いや、待て、景樹!今の態度は「不細工とは言わないけど、イケメンは言い過ぎ」という意味だろう。」


 俺は二人の反応を見て、あまりにものその反応を無視している景樹に正論を言った。

 いや、言ったつもりだったのだが。


「あ、違うよ、光人くん。光人君は格好いい!それは間違いないの。でも、横に加藤君がいると、さすがに…。」


「景樹のマスクが良すぎるのよ!あのJULIさんの弟だよ。横にそんな奴がいると、さすがに全面的に肯定は出来ないよ。」


 そこで言葉を切った。

 俺の顔に視線を向ける。


「光人の男気込みなら、間違いなくイケメン。いや、違うな、これは。いい男という方が的を得てるかな。」


「あ、確かに、そっちの方だしっくりする!いのすけの言う通りだよ、光人くん。」


 いや、面と向かって言わないで!

 恥ずかしい!


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