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第90話 二人の気持ち

「いのすけ、どうしてあんたが照れてんのよ!」


 あやねるの言葉にさらに冷気がこもった。


「今はいのすけがイケメン光人君に助けられた時のことを回想する場面じゃないの!光人君が年下の美少女から褒められて、鼻の下を伸ばしてることに、抗議する場でしょう。」


 ああ、そうだったんだ。

 俺が静海の友人にちょっかい掛けてたのかと思ってた。


 なまじ記憶がうろ覚えだと、正確に自分を主張できないんだよな。


「それは、つまり、俺が静海の友人から言われた言葉に、いい気になってるんじゃないかってこと?」


 俺が自分が責められている理由について、確認した。


「なんかさ、光人君の周りに、やけに可愛い子たちが集まってきて、光人君が楽しそうにしてるから……。」


 だんだん小さな声になっていくあやねるの声。


 ああ、これが、ヤキモチってやつ?

 うわあ、あやねるが俺にヤキモチ焼いてるわけ?

 なんか、なんか、うれしい!


「うん、そうだね、光人。好きな子からヤキモチ焼かれれば、なんかうれしいよね、うん、よくわかる。」


 おい、景樹!ナチュラルにあやねるを俺が好きだって言うんじゃねえよ!


「えっ、好きな子って…。わたし?」


 あやねるが戸惑いながら、俺ではなく景樹に聞いてきた。


「うん、まあ、普段の行動見てればね。好き、というか好感は持ってるだろう。で、宍倉さんも光人が嫌いじゃない。そうでなければ、入学式以来、一緒にはいないよね。」


 言われて、縮こまるあやねる。

 それは解っていました。


「付き合うとかどうとかでないことは解ってるけど、お互いにそう思ってるってことは大事だろう?」


 景樹は追撃の手を緩めない。

 この言葉にどう対抗すればいいんだろう。


「それははた目からは充分わかってはいるけど、光人はあやねるを大切にしていきたいって言ったんだろう?聞いてるよ。」


 伊乃莉がそう言ってきた。

 そう、あやねるがいろいろな想いを抱えている間は、このままの関係でいようと伝えた。


「でも、やっぱり、私を大切にしてくれてることは、充分に解ってるよ、光人君。もう少しお互いのことを知ってから、だよね。」


 あの電車での会話をそう理解してくれたんだ。

 よかった。


「うん、そのつもりだよ。これからも、この学校でいろいろな思い出が出来て行って、過去のことも、しっかりと自分を作るために必要だったと、思えるようにね。」


 俺のこの言葉に、伊乃莉の目が大きく開かれた。

 あの時の伊乃莉に語った、宍倉彩音の過去を想起したに違いない。


 だが景樹はもちろん、当のあやねるも首をかしげる感じだ。


 いつの日か、そのことを笑って話せる日が来るといい。

 あやねるのためにも、伊乃莉のためにも…。


 俺は少し過敏になっていたようで、かなりのどが渇いていた。

 先程食べたカレーが少し辛かったというのもある。

 目の前のアイスコーヒーを飲んで口の渇きをいやす。


 少し、落ち着く。


「で、申し訳ないんだけど、俺、ちょっと記憶があやふやなんだよ。よかったら、その「イケメン」って言われてから教室までの行動、説明してほしいんだよね。」


 俺は自分の記憶の欠けたところの補填を頼んだ。

 この点について、親父があてにならない。

 どうも俺に同調してしまったようだ。

 つまり、親父も過去に「イケメン」と呼ばれたことがないらしい。


 親父は沈黙を守っていた。


 あやねると伊乃莉が目配せしていた。


「それじゃあ、私がかいつまんで、話すよ。まあ、私の主観だけどね。」


 そう断りを入れて伊乃莉が話を始めた。


「イケメンって言われた光人が、急に動かなくなっちゃたんだよ。まさか言われたことがなくて思考がフリーズしてるなんて思わないから、その麗愛ちゃん?の綺麗な顔に見惚れちゃったのかと思って。で、あまりにじっと見られてるもんだから、なんかそのお子も顔を赤らめ始めたんだよ。「こりゃやばい!」って言って、静海ちゃんがその麗愛ちゃんを抱くようにして、その場から少し下がって、で、私とあやねるが光人の両腕を両脇から抱き着くようにしてバスに乗せたんだけど…。そんな光景を見ていた人の口から、例の「女泣かせのクズ野郎」とか言い出してね。今度は中学生にまで手を出すのか、なんていう奴もいたんだよね。さすがにいくら綺麗な子とはいえ、静海ちゃんの友達、中2かな?に手を出すとか言われるのも、私たちも気分が良くなくて。光人は私たちに素直に従ってくれてたけど、あんたをサンドイッチするように歩いてたから、やたら見られまくってね。」


 想像するだけで寒気がしてくる。


「階段もちゃんと上ってくれたけど、確かに言われてみれば、魂が抜けたようではあった。それが鼻の下を伸ばしてるようにも見えたんだけどね。」


「いや、ありがとう二人とも。おかげで無事に教室に辿り着けたわけだ。」


「そういうこと。教室にはあやねるが一緒だったけどね。で、本当のところは。やっぱりああいう……綺麗な子は好きなの?」


 伊乃莉が、どこか意を決したように俺に問いかけてきた。


 あやねるも身を乗り出してくる。


 それを微笑ましそうに見る景樹。

 おい、景樹!その態度の方が人生何週目かって話だよ


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