第89話 イケメンと言われて
「今朝がた、妹さんの静海ちゃんの友人、神代麗愛さんから「イケメン」呼ばわりをされ、その場にいた女子3人をドン引きさせた件、よもや忘れたとは言わせません。」
今朝の件って、誰もデレデレなんてしていない!
ただあまりにも聞きなれてない単語に、脳の処理が追いつけなかっただけだ!
「おっ、何だその面白そうなネタ。俺にも教えてくれよ、光人。」
本当に面白そうに喰いついてきたな、景樹。
あやねると伊乃莉はなぜそんなにピリピリしているんだ。?
「その前に、お袋に連絡していいか?夕飯いらないって。」
俺の言ったことに女子二人が反応した。
おもむろにスマホを操作している。
「メニューでも見ながら待ってるよ。二人も食いたいもん、頼んでな。」
景樹が軽食のメニューを見始めた。親のツケがきく店なんだから当たり前かもしれないが、やけに慣れた雰囲気だな。
そんな感想を持ちつつ、LIGNEでお袋と静海に夕食はいらない旨を伝えた。
俺も景樹から差し出されたメニューを見ていると、スマホが鳴る。
電話の着信音だ。
『お兄ちゃん、どういうこと?』
「どういうことも何も、今景樹と一緒でさ。景樹のお母さんから好きに飲み食いしていいって言われて、今、西舟野駅近くの喫茶店。」
『景樹さんと一緒は解ったけど…、他には?』
「あやねると伊乃莉。」
『ああ、やっぱり!また私をのけ者にしてる。大体、明日テストなんでしょう、お兄ちゃんたち。遊んでて許されると思ってんの?』
「いや、景樹んちで勉強してたんだが。思ったよりテスト範囲が先行ってたんでね。」
『あ、そうか。お兄ちゃん達、外部入試組だもんね。内部の人たちは結構先まで勉強させられてるから…。』
「まあ、そういう訳だから。夕食はいらないってことで、よろしく。」
『早く帰ってきなよ!』
そう言って静海は電話を切った。
「おお、妹ちゃんからか?」
「ああ。LIGNEで連絡したのに、なんでわざわざ電話してくるかね?」
「えっ、何言ってんの、光人?そんなのお兄ちゃんが大好きだからだろう?」
景樹の言葉に、何故かあやねると伊乃莉が反応している。
「言い切りやがったな、景樹。なぜそこまで断定できんだよ。自慢じゃないが、この2,3か月前はゴキブリを見るような眼で見ていた妹だぞ。」
「おかしくはないと思うよ。確かに前は嫌ってたとしても、親父さんが突然いなくなってしまった。その時に冴えないと思っていた兄貴が、頑張って家族のために動いてたのを見てれば、見方も変わるってもんだろう。今では自慢のお兄様ってことだ。妹ちゃんの態度を見ていれば、よくわかるよ。」
景樹に言われると納得せざるを得ない。
他の二人も景樹の言葉に、苦笑しつつ頷いている。
「まあ。そんなことはいいから、食事、注文しようぜ。」
俺にとっては「そんなこと」レベルではないのだが、みんなメニューにしか目がいってなかった。
注文後しばらくして料理が運ばれ、皆、それぞれ自分の料理を口にする。
食べ終わって、食後の飲み物が運ばれてきて、尋問?が再開された。
「さて、光人君。「イケメン」と美少女から言われた気分はどうですか?」
「いや、どうと言われても…。自分がイケメンなんて言う部類に入ってるなんて思ってなかったから…、ただ、びっくりして…、その後の記憶がないんだけど。」
伊乃莉が少しきつい目を向けてきている。
もしかすると、あの後俺は静海の友人に何かしたのか?
いや、何かしたのなら、先程の静海の電話で、何かしら言われているはずだ。
「つまり、記憶にございません、ということかしら。」
あっ、それ、国会でよく言われているものだよね。
嘘言うと法に違反しちゃうからって、記憶にないことにするってやつ。
いや、いや、いや、……、俺のは本当だから。
覚えてることと言ったら、あやねると伊乃莉に両脇を掴まれて、教室まで強制連行されたことくらいで…。
「さて、佐藤景樹君。君の友人はこのようなことを言っておりますが、君はどう思いますか?」
景樹に振っても、その場にいないし、答えようがないだろうに。
「ああ、あれか。確か「女泣かせの1年生」がまた可愛い子をひっかけて、修羅場になったとかいう話。微妙に二つ名が変わってるから、違う奴かと思ってたけど…。また光人だったのか。本当にお前、面白いな。たかが1週間でここまでネタの提供をしてくれるってさ。」
「笑い事じゃないんだよ、景樹。静海の友達に「イケメン」なんて言われるとは思っていなかったし。さっきの話じゃないけど、妹の俺の評価はどん底。その友達にもそう伝えていて当たり前だろう?何言われるかって、身構えてたら、言われた言葉が「イケメン」って、さ。景樹のような奴が言われるのは充分理解できるけど、いつも見ている自分の顔に対する評価じゃないんだよ、「イケメン」という単語は。」
景樹の言葉に、思わずヲタ根性ともいえる、超早口でまくし立てた。
にも拘らず、景樹の笑みは消えない。
「いや、充分。光人は「イケメン」だよ。格好がどうとかは置いておいて、伊乃莉ちゃんを守ってた時は間違いなく、格好いい「イケメン」だった。」
思わぬ角度からの評価に俺は、思わず伊乃莉を見た。
伊乃莉は景樹のその言葉に、先程の冷淡な顔つきが消え、微かに赤らめた顔を下げて、俺の視線から逃げるような態度になった。




