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第84話 逃亡計画

 今回は二人掛けソファにあやねると伊乃莉が腰かけ、向かいに真里菜社長と樹里さんが座った。

 俺と景樹は少しは慣れた席について見守るような感じだ。


 が、何故俺はここにいる?


 あやねるはどのみち、伊乃莉が居なければ帰れない。

 それと社長である真里菜さんの何かを含むような言い方。

 あやねるに興味を持ったのは間違いない。


 であれば、俺は早々にお(イトマ)した方がいい。


 いや、すぐにでも帰るべきだろう。


 そう判断し、足元にあるバッグに手を掛ける。

 その様子を景樹がすぐに察知した。


「やめた方がいいと思うぞ。」


 小さく俺に忠告してくれた。

 ここから逃げたら、あとでどうなるか知らんぞ。

 暗にそう言ってるのはすぐに理解した。

 しかし、この後に待っているあやねるの尋問を思うと、今日のところは撤退し、夜に今後の方針を考えたい。

 というか、単純に考える時間が欲しい。


 今は、景樹と樹里さんの母にして、芸能事務所社長、佐藤真里菜さんが二人に、特に伊乃莉に業務内容を説明していた。

 俺の頭の中の別人格はその説明を聞きたがっているようだが、関係ない。

 素早く階段まで移動し、一言挨拶、すぐに階段を駆け下りる。

 玄関からどうやって出るかは微妙に心配だが、入るより出るほうが簡単なはず。


 よしプランはOK。

 いかに素早く階段まで移動するかがカギとなる。


 俺は丁寧な説明をしている真理さんと樹里さんを見た。

 二人は伊乃莉に視線を向けている。

 大丈夫。


 当然、伊乃莉は真剣にその話を聞いていたが……。


 あやねるは俺をガン見していた。

 全く説明を聞かずに。


 その瞳には、明らかな怒りの炎があった。


 絶対に逃がさない!


 全く口は動いていないが、その意志は明確だった。


 あまりの圧に、俺は浮かしかけた腰を落とした。

 全身の緊張が解ける。


 だめだ。

 逃げられない。


「あきらめろ。」


 景樹の小さな言葉に、俺は頷いた。


 うん、あきらめた。


 強く握っていたバッグを持っていた手を放す。


 微かにあやねるが頷いていた。


 そうよ、それでいい。


 そんな言葉が聞こえた気がした。


 沈黙の中で行われていた逃亡とそれを防ごうとする攻防戦。

 俺の完全敗北。


 その雰囲気に気付いた樹里さんがこっちを見て苦笑していた。


「どうかしら、伊乃莉さん。貴方のポテンシャルはかなり高いと思うの。うちの樹里に聞いた時は、どうかなって思ったけど、方向性は違うけど、KAHOさんに十分対抗できるくらいに。」


 そうか、伊乃莉を気に入った樹里さんは母親である真里菜さんに直接伊乃莉を合わせることまで考えていたのか。


 俺はため息交じりに景樹を見た。

 その景樹はそっぽを見ている。

 明らかに俺の視線から逃げたな。


「すぐに答えを貰おうとは思わないわ。相談できる人がいれば、相談してもらって構わないし。でも、興味があれば、うちに在籍して少し活動してほしいの。」


 伊乃莉は未成年である。

 自分が興味があっても、保護者である親の承諾が必要なはずだ。

 それに言及しないとこを見ると、保護者への説明はかなり、自信があるようだ。


「お話は分かりました。こればかりは、さすがに考えさせてもらいたいです。JULIさんは私のあこがれの人です。その方と一緒にいられることは、個人的に光栄です。ただ、うちがそこそこの小売業を営んでいる手前、あまり勝手なことも出来ません。父と母にも相談する必要があるので。」


「そのことはびっくりしたわ。まさかスーパー大安の娘さんだったとは、ね。この件とは別に、CMでタレントが必要な時には声を掛けてほしいな。うちはファッションモデルだけでなく、タレントやその卵たちもいるから。そのことも是非、お伝えください、ね。よろしくお願いします。」


「いえ、こちらこそ。」


 あれ、モデルの勧誘してたんだよね、この人たち。

 なんか商談、というか営業をかけてない、景樹のお母さん。


 そう思って景樹を見たら、今度は目を逸らさず苦笑していた。


「ああ、そうね、ごめんなさい。先週の土曜にうちの子がお昼ご馳走になったのよね。遅くなったけど、ありがとうございます。」


 そういえば、あれは俺にはお礼だったけど、景樹関係ないもんな。

 来てもらって助かったけど。


「とんでもないです。こちらこそ、一緒に食事できて楽しかったんですよ。景樹君のこともいろいろわかって、友達になれましたから。」


「そう言ってもらえると嬉しいわ。結構この子もいろいろあったから。」


「お袋、そういうことはいいから!」


「ふっ、お袋って、うふふふ。」


 ああ、さっき思いっきり暴露されてましたよね、景樹さん。

 と言っても、ここでママ呼ばわり、出来ないよね。


「それはここでは深堀りしませんけどね。それで、この宍倉を同席させたのは、別の意味がありますよね。」


 伊乃莉が真里菜さんに、話の流れを修正するように言葉を口にした。


「そうだったわ。宍倉彩音さん。あなた、タレント活動に興味はないかしら?」


 やっぱり、そうなるよね、社長さん。


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