第83話 イケメンのギャップ
後ろからあやネルに両手で目隠しをされていた。
今度はあやねるの見事な双峰が俺の背中にしっかりと押し付けられていた。
「何でこんなことしてんの、あやねるさん。」
思わず後ろにいるあやねるに声を掛けた。
「だって、だって、JULIさんのお胸とか、お脚を、思いっきり見てんだもん!」
「いや、でも、それは、ふ、不可抗力っていうか…。」
「本当に光人って罪作りよね。あやねるの胸だけじゃ飽き足らないみたいで。」
おい、そこの、バカ伊乃莉!何煽ってんだよ!
「ほら、姉貴の所為で、痴話げんかしてるカップルがいるぜ。」
弟の手を何とかはぎ取り、樹里さんが何かしている感じなのが、あやねるの隠してる指の間から伺い知れた。
「えっ、えっ、どうして、だって、伊乃莉ちゃんじゃない?あれ、私間違えた?」
「そう、姉貴の間違い。それよりもお袋がちょっと機嫌わりいぞ。」
景樹が樹里さんの戒めを解いてくれたおかげで、俺も視界を確保することができた。
しかし、腕に抱き着いたりしてくれてたんで、あやねるのお胸の大きさは知ってるつもりだったが、背中に押し付けられると、また別物であることがわかってしまった。
いかん!
変な妄想が俺の心を支配しそうだ。
「ごめんなさい、母ちゃん。紹介の続きしないと、だね。」
「本当にあんたたちは仲がいいわね。親としては嬉しい限りだけど…。景樹の秘密をばらそうとする樹里も樹里よ。景樹がいつも私たちをパパ、ママって呼んでるのは、友人に知られたくないことぐらいわかるでしょうに…。」
景樹君のお母さん。さらりと守ろうとした景樹の秘密、バラしちゃってますけど。
お母さん、佐藤真里菜さんの発言に、いつもクールな景樹の顔が一瞬で赤くなった。
樹里さんはそんな景樹を見たのち、真里菜さんを見て、「やっちゃったね」と一言、面白そうに言った。
「あっ、ごめんなさい、景樹。お母さんたら、何も考えずに…。」
今更の謝罪にも耳を貸さず、そのままソファで頭を抱えて蹲ってしまった。
見るに忍びない。
「今の景樹君は、そっとしておいてあげましょうよ、佐藤君のママさん。」
うわあ~、いい性格してんな、伊乃莉。
確かに、こんな姿を拝めることはそうはないだろうが…。
にしても、すぐにそのネタを使うところなんざ、さすがはコミュニケーションの魔女め。
「とりあえず、私の番ということで。景樹君とはクラスは違いますが友人の一人、鈴木伊乃莉と申します。今後ともうちの父の会社とも縁あれば仕事をすることがあると思います。その時はよろしくお願いします。」
「お母さん、このお嬢さんが私が言ってた女の子だよ。」
母ちゃん呼びからお母さんに呼び方が変わっている。
みんなそんなもんなんだが、ママという呼称は、さすがに高1の爽やかイケメンとはギャップ、あるよなあ。
「そうだとは思ったけど…、そちらのお嬢さんは?よろしかったら、お名前伺ってもよろしいかしら?」
あやねるは微妙に立ち位置をずらして俺の後ろに半身を隠すようにした。
おもむろに俺の右手に自分の右手を絡めて握ってきた。
こういった少し恥ずかしがりながら、でも手を握られたり、先程からの豊かなものを俺に押し付けたりとか、ボディタッチされてると…。
非モテ陰キャ童貞野郎としては、理性というダムが決壊しそうになりますです、はい。
俺の陰から真里菜さんに軽く頭を下げた。
「し、宍倉、あ、彩音です。佐藤君と同じクラスで、よく助けてもらってます。」
ン、景樹って、あやねるをそんなに助けていたっけ?
(主にお前絡みの案件でな、光人)
(身に覚えがないのですが、親父殿)
(わからないなら、そのままにしていろ)
怒られた。
解せん!
「可愛らしいお嬢さんね。モデルというわけにはいかないけど、その愛くるしい表情なら、充分芸能関係でも通じるわ。今の一言だと、言い切る自信ないけど、声、いいわね、宍倉さん。どなたかに声を褒められたってことないかしら?」
「あれ、どうだったかな?以前、そこにいるいのすけ、じゃなくて鈴木伊乃莉から言われた気もするけど…。」
「そうよ、あやねる!私、何度か言ったことあるよ。でも顔が可愛いから、そっちに集中した褒め言葉の方が多いけど、ね。」
ああ、そうか。あやねるって少し自分の中の心のバランスが崩れてたんだよな。
本当に可愛いけど、あやねる自身の自己評価が低いから、そうやって応援してたんだ、伊乃莉は。
「あやねる?確か有名声優でそいう愛称の子がいたわね…。ああ、確かに似ているわ。しかも彩音っていう名前もね。うふふ、いいニックネームね。で、伊乃莉さんも声優さんと同じ名前だからいのすけ…。」
「お願いです、その呼び方はしないでください。宍倉さんだけに許してますので…。というか、この子には何度も言ったんですけど、やめてくれなくて根負けしましたが、もしニックネームで呼ぶのなら、いのりんでお願いします!」
「ああ、はい、わかりました。」
伊乃莉の剣幕に、真里菜さんが反射的にそう答えていた。
「それで勉強会は終わったんだよね、景樹。」
一通りの自己紹介が終了したと判断した樹里さんが切り出した。
「じゃあ、鈴木さんには事務所に来てもらいましょうか、社長?」
あ、お仕事モードに変わった。
「う~ん、もう勉強会が終わったのなら、ここでやっちゃいましょうか?今日のところは説明だけだし。」
「社長がそれでいいのなら構いませんけど…。他の3人の方には席を外してもらいますか?」
「ああ、すいません、すぐに出ますね。」
俺は自分のバッグを持ち上げ、あやねるの手を取った。
「ああ、いいわ、皆さんご一緒で。特に宍倉さんには一緒にいてもらった方が、こちらにも都合がいいし。」
「え、私ですか?」
俺が握っていない反対の右手の人差し指で自分を指す。
「そう。この際だから皆さん、一緒にいてください、いいかしら?」
尋ねるふりした強制参加ってことですね、社長さん。




