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第81話 勉強会

 基本的には理科、しかも物理と化学がメインになった。


(プリント見た時にも思ったんだが、今の高校生はこんな内容やってんだな。これなんか、私は大学で習ってた内容だぞ、光人)


 親父がみんなで読んでいる内容についてそんなことを俺に言ってきた。


(原子核の構造なんて、それこそ大学の化学で初めて触れたよ。特に有機化学なんて、高校時代には習った記憶、ないもんな)


(あれ、親父の専門って有機科学じゃなかったけ?)


(興味を持ったのは予備校の夏期講習だよ。その講師の講義が面白くてな。高校の有機科学で記憶に残ってるのはベンゼンからフェノールを合成する方法を習ったくらい。それも丸暗記で何故そうなるか?なんてことは考えなかったよ)


(そんなもんなんだ。でもそれって進路を決めた後だろう?)


(亡くなった母親、まあ、お前のおばあちゃんにあるんだが、勧められたんだ、薬剤師はどうかってな。だから光人も将来の進路はいろいろな人の話を聞いた方がいいぞ。その先に自分の興味ある分野が開けるととはよくあるからな)


(考えておくよ)


 プリントを広げた隣に、今日聞いた内容を写したノートが各々置いてある。俺の字はお世辞にも綺麗なんて言えない、どころか人に見せられるレベルではない。


 あやねるの字はかなり几帳面。


 それに対して伊乃莉はおしゃれに書くことに何かこだわりを感じさせるように、字体もさることながら、やたらマーカーを使用して色とりどり。

 というかこんなことしてる暇があの授業中によくあるな。


 景樹の字が意外というか予想通りというか、きっちりと綺麗な字が読みやすく配置されている。

 図に関してはプリントに直接書き込みがされていた。


 俺とあやねる、景樹は同じ授業だったが、伊乃莉は隣のクラスで、プリントは同じなんだが、ノートの内容が微妙に違う。


「伊乃莉の理科の先生って新沼先生じゃなかったの?」


「えっ、違うよ。A組の担任、確か山際だったけ?あれ、山田?」


「A組の担任だったら、学年主任だろう?山脇だよ。ちょっと嫌味な奴。」


 さすがに早くからサッカー部でコミュニケーションをはかっているだけあって、よくご存じだな。


「だからかな。あの先生確か数学だろう、担当。」


「ああ、そうだね。数学の時もいたよ。言われてみれば、理科の時は少し投げやりな気もしなくもなかったかな。そうは言っても、私たちのクラスでの授業は、嫌そうにしてた雰囲気はあった。」


「だろう?山脇って先生さ、自分が特進クラス教えてるから、それ以外のクラスを見下してる感、すげえって言ってたよ。先輩たち。」


「じゃあ、私って、この勉強会してもらって得したって感じなのかな?」


 少しうきうきしてる伊乃莉。

 これは別に勉強の話だけじゃねえな、こいつ。


 あれ、今の発言で、またあやねる様の不機嫌モードが一段階上がった気がしてきた。


「そうは言っても、明日のテストは参考程度だから、そんなに力入れなくてもいんじゃねえ。」


 景樹は伊乃莉の言葉を受けて、そう言った。

 それはそうなんだけど、じゃあなんでお前、この話を提案したんだって話になる。

 本当は伊乃莉をここに連れてくることが景樹にとって最大の目的であったことはわかっていたが。

 でなければ、景樹の姉、JULIこと佐藤樹里さんがいるわけがない。

 これは最初から二人の間で話がついていたと思うほうが自然だ。

 ただ、いきなり玄関を開けられるとは思ってなかったというだけなんだろう、この家に入るときの景樹の態度は。


 ここの社長の景樹の母親か、JULIさんかはわからないけど、伊乃莉を是が非でもこの事務所で面倒見る気、満点って感じだな。


「このプリントでわかんないことってあるか。もしあれば、全く使い物にならないポンコツ女子大生なら紹介できるけど。」


 これが誰を指すかはすぐにわかったから、女性人二人がくすくす笑った。

 俺もさすがにさっきの樹里さんを思い出すつい笑ってしまった。


「と言ってもだな、うちの姉貴、ああ見えて、一応理系だったりする。」


「「「えっ!」」」


 3人同時に声を出した。


「と言っても、理学部の生物関連だったと思うから、物理・化学系は苦手なんだけどね。」


 いや、それでも、あのモデルさんが理系とは…。

 人は見かけではないということか。


「ああいう仕事してるし、それこそファッション関係が好きなのは事実だけど、服飾関係はその繊細さと器用さがないと早々に見切り付けてた。高校の時は生物が良かったっていうのと、人体に限らず生物のデザイン性が優れてるとか何とか言ってた気がするな。後は、服は作るより着るほうがいいとかも言ってたっけ。」


「やっぱり、凄いんですね、JULIさんて。」


 伊乃莉がうっとりするような顔で口に出した。


「勉強はこんなもんでいいかな、なあ、光人。」


 景樹がこの勉強会の終了を告げるように言った。

 景樹はあまり関与はしないとは思うが、この会の目的、伊乃莉の口説き落としが始まるということでもあるのだろう。


「こんなもんでいいんじゃないか。一体どんな問題が出るかわからんが、一応参考程度ということで。それよりも2年生や3年生の問題の方が気になるな、俺。」


「えっ、なんで?」


「来年からのテストは実質受験なんだろう、このテストが。どんな問題出るか、気にならないか?」


「いや、お前、それはおかしいだろう。このプリントすら、習ってないからって勉強しようってなったんだろう。見たってわかんないぜ。」


「傾向は解るんじゃないかな。別にこの上の日照大にどうしても行きたいってわけじゃないけど、そういうのって知ってると対応もとりやすいと思うよ。」


 この俺の言葉に他の3人が首をひねっていた。

 あれ、何か間違えたかな、俺?


(う~ん、光人の性格というか、考え方は…)


(おかしいかな。将来的なことを言ったんだけど…)


「なあ、光人、一つ聞いていいか?」


「なんだよ景樹、改まって。」


 俺の言葉に他の二人に目配せしたように感じた。

 二人が微かだが頷いたみたい。


「お前さ、人生何週目だ?」


 俺は景樹に何を聞かれてんだ?


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