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第8話 学級委員

「本当は学級委員を先に決めようと思ったんだが、まあいいか。それじゃ、放送委員はいいとして、学級委員決めるぞ。」


 緊張が走った。

 気がした。




 みんな下を向く。

 誰も面倒なことはしたくないもんな。


「学級委員は基本2名。学級委員長と副委員長だ。男女の別はない。昨今の大学入試においては、こういった活動を重視するところも多くなってきているから、損ではないと思うぞ。ただ、うちの大学に進学を希望してるものにとっては、あんまり関係ないかと思っているかもしれんが。」


 そこで一度言葉を切り、生徒たちの顔を見回している。

 あらかたの生徒は、その心づもりがあるから、微妙に頷いたりしている。


「だがな。確かに日照大付属の高校での学力テストでの順位がものをいうが、微妙なラインに乗った時にこの学業外の活動に目が行くこともあるからな。そのこともよく考えておけよ。」


 岡崎先生の言ってることが本当かどうかはわからないが、妙に説得力があった。


 この高校の入学試験の項目に生徒会長の経験の有無で、内申点に影響があったと思う。


 あやねるが少し振り向くようにして、チラチラ俺を見ている。


 いや、だからやらないよ、俺は。


 目の前に右手を上げて、ひたすら謝るポーズをする。


 そんな俺たちを、もうひとつ前の席、塩入がチラチラ見てくるのが、俺の視界に入ってきた。


 これはもしかすると…。


 塩入がスーッという感じで右手を上げた。


「先生、俺、委員長やります。」


 その声に、周りから、「おおー」という声が湧いた。


 そりゃ、そうだ。

 面倒くさいことをやってくれる奴が出てきたんだ。

 みんな喜ぶよな。


「塩入、やってくれるか。ああ、よかった。いつもこれで結構時間取られちゃうからな。」


 と、岡崎先生が言っていると、あやねるが俺を睨みながら右手を上げた。


 そうだね。

 もう俺にやる気がなくて、他の奴が立候補しちゃったから、しょうがないよ。


「岡崎先生!私生徒会役員に入った都合上、副委員長をやらせてもらっていいですか?」


「ああ、宍倉か、そうだったな。じゃあ、委員長と副委員長はこの二人でいいか?」


 露骨だよ、岡崎先生。

 明らかな安堵顔は先生としてはいかがなものでしょうか?


 そうは思ったが、取り敢えずの委員長と副委員長に立候補者が出たんで、助かったって感じだよな。

 この後やりたいってやつが出ても、多数決で決まりだもんな。誰も立候補者が出ないと、誰かの推薦を待つか、最悪の先生の指名だろう。

 恨まれたらやだよね、岡崎先生。


 この二人の立候補に異を唱える者はなかった。

 これで委員長に景樹あたりがなっていたら、副委員長に立候補する女子で面白いことが起こったかもしれないが。


「異論がないようなら、この二人にやってもらう。ということで初仕事だ、二人とも前に出てきて、軽く自己紹介やって、あとの委員を決めてくれ。」


 前の二人が立ち上がり教壇に向かう。


 あやねるが振り向き、俺を睨んできた。


 うん、可愛いよ、あやねる。


 という思いを込めて笑顔を送ったら、プイっという感じで前を向いた。

 少し不機嫌。

 それとは対照的な笑顔を振りまく塩入氏。

 本当にうれしそうでよかったね。

 ムカつくけど。


 前の佐藤景樹が俺に振り向いてにやけた顔を向けた。

 彼にとってはこの状況が楽しくて仕方ないらしい。


「この学級の委員長をやらせてもらう塩入海翔です。1年間よろしく!」


 自分が持てると思っている最大限の笑顔でそんなことを言った。

 まあ、どうでもいいが。


「副委員長をやります宍倉彩音です。先日、生徒会の書記をやらせてもらうことになり、このクラスと生徒会をむすびゅ!」


 あ、嚙んだ。


 凄い勢いで顔が赤くなる。


 クラスから笑い声が聞こえてきた。


 その声にさらに恥ずかしがるあやねるが可愛い。


(うん、彩ちゃん、可愛い)


(親父は出てくんな!)


「みんな、笑うのは失礼だろう。人の前で話すのは勇気いるんだぞ。」


 おお、格好つけの塩入君が「困ってる女子助ける俺、かっこいい」って感じであやねるを庇ってきた。


 あやねるを見ると顔を黒板に向けているが、目が庇う塩入君を射貫くような眼で見てる。


 あれ、庇われてうっとりしてる目ではないよね。

 どっちかって言うと、親の仇を見る目だ。

 忘れてたけど、ああいう男子、嫌いだよね、宍倉さん。


「ほら、揶揄うなよ。そんな人の失敗を笑う奴に委員長やらすぞ。」


 岡崎先生がくすくす笑ってるクラスに対し、そう言い放った。


 一瞬で静かになる。

 こういったところは流石だ、レジェンド岡崎。


「す、すいませんでした。よろしくお願いします。」


 そう言いながら、横で座っている岡崎先生に軽く頭を下げた。

 が、庇ってくれた塩入様には目を向けない。


 あ、落ち込んだね、塩入君。


「で、では、他の委員、を、決めたいと思います。」


 何とか、議事を進行させる塩入はある意味立派。




 比較的スムーズに他の委員は決まった。


 俺は選挙管理委員。

 6月にある生徒会選挙で仕事は終わりなので、立候補してすぐに決まった。ラッキー!


「よし、思ったより早く終わったから、今日はここまで。今後、各委員会は学力テストや、親睦旅行終了後に招集がかかると思うから、よろしくな。あと、明日の時間割は渡した通りだが、教科書は使わんから、適当に自宅に今日貰った教科書や副読本は持って帰るように。じゃ、また明日な。委員長、号令かけてくれ。」


「はい!起立、礼。」


「さようなら」


「着席。」


 先生がやれやれというように教室を出た。


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