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第79話 鈴木伊乃莉の恋人

「光人君、いのすけと密着しすぎ。」


 あやねるのいつもより明らかに低い声でぼそりと言ってきた。


「わたしだって、お姫様抱っこ、してもらいたいのに。」


 さらに小さい声が聞こえてきた。こんなことを言われたら、男たるもの、すぐにでも抱えてるものを放り投げてその小柄な体を抱き上げたいところだ。


 とはいえ……。


「伊乃莉さん、そろそろ起きて頂けると助かるんですけど…」


 仕方がないのでそう声を掛け、ついでに揺すってみた。


 その揺れに気を失っていた伊乃莉が反応したようだ。


「う…、う~ん、うん?」


 伊乃莉の目が大きく見開かれた。

 こんなに間近で女性の顔を見ることなんてなかったから、非常にドギマギしてしまった。


「えっ、らいと、らいとだよね?って、何!何!なんで、えっ、これって…、抱っこされてんの、私!」


 目を覚ました伊乃莉が俺の腕の中で暴れはじめた。


「待て、落ち着け、伊乃莉!あぶねえから、やめろ!」


 パニックを起こす伊乃莉をなんとか抑え込むようにして床に降ろした。


「こういうことは二人っきりの時にするもんだよ?」


 そう耳元で伊乃莉が囁いた。

 見ると顔を真っ赤にしている。


「しょうがないだろう。急にJULIさん見て、倒れそうになるんだからさ。」


 そう言い訳めいたことを、つい言ってしまった。


「あっ、そうだよ、JULIさんが…。」


 と言って、靴を脱いだ先の階段にその人を見つけて、酸欠状態のように口をパクパクしている。


「景樹、まだ紹介してもらってないけど、あの綺麗な人、景樹のお姉さんでいいんだよな。」


 景樹に聞いたつもりだったのだが。

 先に階段を上ろうとしていたショートパンツからスラリと伸びた脚を惜しげもなく見せつけていた女性が振り向いて、こちらに降りてきた。


「そうだった、まだ自己紹介してなかったわ。現役女子大生モデルのJULIこと佐藤樹里。この景樹の姉貴です。よろしくね、皆さん。」


 そう言うと、景樹そっくりの爽やか笑顔を俺たちに振りまいてきた。

 その笑顔のまた伊乃莉が少しぐらついたが、後ろから支えようとしたら、急にダッシュをかまし、瞬時に景樹の姉、JULIの目の前に移動した。


 伊乃莉さん、空間転移が出来るんですか?


 そんな勢いで佐藤樹里乃さんの前に立った。

 立ったのだが…。


「あ、あの、その、えっと…。わ、わたし…。」


 会話どころか、最初の言葉すら言えない程、緊張感MAX。


「知ってるよ、鈴木伊乃莉さん。なんたって景樹に頼んでこの家に連れてきてもらったんだから!」


「えっ!」


 ああ、やっぱりそういう魂胆か。何が勉強会だよ。


「モデルの話は景樹に聞いていたよね。それは後で、勉強会するんだっけ?が終わった後に事務所で話聞いてもらいたいんだよね。」


「は、はい!よろしくお願いします!」


「ここは狭いから、まず2階行こう。」


 そう言うとすぐに階段を上り始めた。

 その後をまるで人形のようにぎこちなくついていく伊乃莉。

 俺達もあわてて靴を脱いで後に続いた。


 2階に上りきったところでさらに上に行く階段は続いていたが、その右に廊下があってそこに樹里さんが歩を進めた。

 廊下に入ってすぐに行き止まり。

 右側に矢印があり、「ジュリ寮」と書かれたプレートが張ってあった。


 樹里さんはそれとは逆の左側に向かい、すぐにある扉を開いた。


 そこには伊乃莉の家のようなリビングが拡がっていた。


「景樹!ここで勉強会ってやつやんだよね。じゃあ、ちょっとお茶淹れてあげるよ。」


「ああ、ごめん、頼むよ。姉貴。」


 樹里さんはサムズアップすると奥のダイニングきっとんに姿を消した。


「まあ、適当にそのソファーに座ってね。」


 そう言うとあやねるがすぐに二人掛けのソファに腰かけ、俺に向かい隣の位置をバンバンという感じで叩いた。


「光人くんはここ‼」


 あやねるさまのご指名がかかった。


 景樹と伊乃莉が苦笑して向かいの一人用ソファに腰を落ち着けた。


「でも、本当に景樹君のお姉さん、JULIなんだね!初めて会って感激しちゃった。何、あの顔の小ささ。それにショーパンから伸びた脚!人の足の長さじゃないよ!」


 伊乃莉のテンション、MAX更新中。


「光人くん、伊乃莉と距離近すぎ!今からは私との時間だよ!」


 あら、あやねるさんの分かりやすい嫉妬って、可愛い!


 各自の座る場所が決まり、鞄からガサゴソと今日配られたプリントを引っ張り出してる時だった。


「お待たせ、皆さん。紅茶入れてきたよ。」


 樹里さんが5人分のカップを持ってきた。


 あれ、仲間に入る気ですか?


「姉貴!行ったよね、勉強会だって!」


「こう見えて現役の大学生よ?わからなかったらお姉さんに聞いてくれればいいよ、ねえ。」


 そう言って俺たちを見渡す。


 そこで何かに気付いたような感じで、口を開いた。


「そう言えば、私は自己紹介したけど、景樹のクラスメイトとしか聞いていなかったけ。よかったら名前教えてもらえるかな?」


 確かに自分の名前を言った記憶はない。


「ああ、わりい。とりあえず、俺の横から。鈴木伊乃莉さん、白石光人と宍倉彩音さん。光人と宍倉さんは同じ1-Gだけど、鈴木さんは宍倉さんと中学からの友人で隣の1-F、でよかったかな。」


「うん、そ、そうです。鈴木伊乃莉です。JULIさん。」


「だからそんなに緊張しないで、ね。でも、景樹も気が利かないなあ。恋人同士を話して座らせるなんて。」


「ちょっと、ちょっと待って、姉貴。すげえ誤解してんぞ!」


 4人の前にティーカップを置き、余ったカップをテーブルに置くと景樹に顔を向けた。


「誤解なんかしてないよ?その男子、白石光人くんは私がモデルに誘ってる鈴木伊乃莉さんの彼氏でしょう?」


「「「えっー!」」」


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