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第77話 景樹の家へ

 昇降口で伊乃莉と合流。

 一瞬、景樹が爽やかに「やっ」と笑いかけたことに、眉をしかめたが、思い直したのか軽く頷いて、一緒に帰ることを同意したようだ。


「悪いね、鈴木さん。光人と宍倉さんだけで帰るようならこんな野暮なことはしないんだけど、鈴木さん、いや伊乃莉さんも一緒だっていうから混ぜてもらった。」


 俺には二人に挟まれて尋問を受けることに比べればはるかに助かる、って思ったんだけど…。

 この爽やかイケメンには、それとは別の思惑がありそうだ。


 景樹の標的が伊乃莉であることが、今の会話で思い出したからだ。


 景樹が熱心に伊乃莉をモデルに誘っているか、というのには疑問が残る。

 そこまで真剣ではなさそうだからなのだが、このタイミングには裏がある様にに思えてならない。

 何といっても、明日からは部活が再開される。

 伊乃莉故人との話であれば、それは別に障害にはならない、と考えるんが普通。

 LIGNEのトーク機能で連絡のやりようはいくらでもあるはず、何だけど…。


 伊乃莉にはあやねるという「こぶ」がついている。


 この前は俺と一緒でも電車に乗ることはできた。

 また、例えばの話、女子の友人で門前仲町まで帰るような人がいれば問題ないんだが、今のところ、生徒会の柊先輩が同じ沿線らしい。

 と言っても県境は越えないということだった。


 今の状況で昨日のモデルの話が出来るのは今日がベストと思ってる、というのは考え過ぎだろうか?


 もしかしたら、ついこの前、先週の金曜に実家に伺って数日も経っていないのに、また遅らせようとでもしているにか、景樹は。


 教室から出るまでの間のクラスメイトの挙動は、はたから見ると結構面白い。


 まだ入学してから1週間も経ってない。


 入学前にSNSでやり取りがあった人間も半数位いたということは、幼馴染の智ちゃんから聞いた情報。

 ちなみに俺はそれどころではないので、完全に出遅れていた。

 が、何の運命のめぐりあわせか、前の席、あやねること宍倉彩音さんも後ろの席の須藤文行もそのネットワークには参加していなかった。


 SNSで知り合っていてもリアルとは別物ということはよくあるようで、結果的には自己紹介以降、そのSNS上のネットワークは有名無実化して、別のグループチャットが立ち上がったらしい。

 というのもそういった誘いが俺のとこに来ていない。

 こういったとこは中学と一緒で、普通なら陰キャボッチ一直線と言ったとこなんだろうな。


 なんだけど、さっきの教室内は駆け引きがまだあるようだ。


 景樹はサッカー部であのイケメンぶりだからそのチャットグループからの誘いはあるはずだが、俺の前ではその素振りは見えない。

 あやねるからも聞かないから、知らないかもしれない。


 何といっても俺とあやねるは「女泣かせのクズ野郎」とその泣かされた女、と認識されてるからな。


 すでにその時に作られたグループには破綻が見られてるから、もう一度仕切り直しかな。

 親睦旅行でまた関係性は変わるんだろうけど…。


 昇降口でさっきはさらっと流したかと思ったのだが、伊乃莉が振り向いて俺を睨んできた。


「光人お~。お前、私たちに責められると思って景樹連れてきただろう?」


「いや、そんなことはしていない。誤解だ。」


 さらに靴に履き替えている時に、逃げられないように俺の前に立って伊乃莉がすごんできた。

 スラーっとした伊乃莉の脚を瞬間的に見惚れてたら、上から声がかかり、反射的に答えた。


「鈴木さん、光人の言う通り誤解だよ。昨日のことの事情聴収をしようとしたところで、第三者の目を強引に入れてきた、と取られてもしょうがないと思うけど、今回は別件で俺が光人と宍倉さんにお願いしたんだ。」


 横から景樹がそう言って、今にも殴り掛かってきそうな勢いの伊乃莉に、事情を説明してくれた。

 してくれたのはいいが、それ以上の説明をする必要はないぞ、景樹。


「そうなの、あやねる?」


「うん、まあ、そうだね。佐藤君から一緒に帰りたいって言われたのは事実。でもその前に私が知らない手段で、光人君が佐藤君に助けを求めたかもしれない、とは思ってる。」


 辛辣だ。

 俺が全く信用されていない。


 とは言っても信用されてないから、これから尋問が始まるってことだよな。


 納得は言ってなさそうだが、伊乃莉は二人の言葉を聞いて、俺の前から退いた。


 明日のテストについてのとりとめのない話をしながら、この高校の生徒が並んでいるバス停に向かう。

 きっと、バスの中でいつものファミレスにでも連れ込まれるのだろうか。

 景樹の存在は微妙だ。

 こいつは結構勘がいいし、女性の心理には俺よりも理解が深い、気がする。

 となると、昨日の状況を診ていればギャル先輩が俺に対する気持ちに気が付いている可能性が高い。

 これが須藤なら恋愛経験は俺と似たようなものだから、誤魔化せる気もするんだが…。

 この景樹が単純に俺の味方に付くかどうかは不安材料でしかない。


 仮に俺が景樹の立場なら、面白い方に舵を切りかねない。


 4人でバスに乗ったが、さすがに席は開いていなかった。

 明日の、特に理科と社会のテストについて、今日のプリントについて話していた。


「理科ってさ、あんなに難しかったっけ?」


「いや、あれは受験での範囲より進んでいたと思う。だからやけに重点を置いてたと思う。先生も言ってたけどこの1年の結果って、参考程度って言ってたから、外部受験生がやっていない範囲について授業したんじゃないかな。」


 伊乃莉の質問に、景樹が答えていた。

 その声にあやねるも感心するようなことを言っている。


 確かに中学の時に習ってはいない範囲だった。

 なんだけど、おかしい。

 俺は今日の授業を難しいとは思っていない。

 この3か月にほとんど勉強はしてないはずなんだが…。


「でさ、思ったんだけど。確かに参考程度のテストだとは思うんだけど…。よかったら少し勉強しない、この4人で。」


 唐突に、いや、そういう流れを明らかに景樹は会話で作っていたな、うん。

 これが狙いか。


「これから2,3時間くらい時間ないかな?」


 俺には別に予定はない。

 今日、お袋は早番だったから早めに帰ってきてるはず。

 夕食に関しては心配はない。

 まあ、夕食を食べることがあれば連絡して、今日の夕食が明日の昼の弁当に変わるだけだが。


「ああ、俺は大丈夫だけど…。」


「私も大丈夫。うちは結構放任主義だから。あやねるの方が箱入りだから何とも言えないけど。」


「私もいのすけがいたら大丈夫だよ。家に帰るのに、今のところはいのすけか、あっと、えっと、光人君……、が居てくれれば。」


 言いながら耳を赤くして、声が小さくなってきた。


 あ、可愛い。


 そんなことを思ってあやねるを見ていたら、景樹と伊乃莉からやけに冷たい目が向けられていた。


「あのさ、二人の世界は、二人だけの時にやってくれると助かるんだけどな。」

 ああ、景樹にあきれられている。

 これはヤバイ。

 貴重な協力者が敵に回りそうだ。


「で、でも、どこで?」


 あやねるが顔を赤くしたまま、景樹に尋ねる。


「俺の家が西舟野駅の最寄りなんだわ。そんなに遠くないから、ちょうどいいんじゃないかな?」


 さも当然と言いたそうに、景樹が言った。


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