第72話 記憶の空白
光人が静海の友達から「イケメン」なんて、普段言われたことのない褒め言葉を言われて意識が飛んだろう?
特に静海の兄貴に対してのお世辞って感じが全くなかったからな。
それを聞いて他の3人の顔はちょっと面白かった。
静海は今まで光人の悪口を吹き込んでたからなおさらなんだろうけど、麗愛ちゃんって言ったっけ?
その言葉にかなり慌ててた。
いきなりその麗愛ちゃんをその場から引きずってったからな。
他の二人もいきなりの光人に対する年下の好感度満点発言には驚いたみたいで、その子から光人を隠すようにしてたよ。
ちょうどバスが来たんで乗り込んだわけだが…。
彩ちゃんはまるで呪文のようにお前に「ただのお世辞だからね」っていう言葉を繰り返してたわけだが。
肝心の光人、お前が全く聞いてないと思ったのか、どんどん不機嫌になっていってな、彩ちゃん。
で、さっきの圧のこもった視線となるわけだ。
伊乃莉ちゃんも苦笑してたな。
でも彩ちゃんが呪文を唱える横で、「でもイケメンなんだから言われるのもしょうがないよ」なんて言うもんだから、さらにエキサイト。
伊乃莉ちゃんに光人のことが好きなのかって、詰め寄る場面もあったよ。
あの雰囲気だと「好きだよ」っていうかと思ったけど、ただ微笑んでるだけだったから、彩ちゃんも気が気でなかったんだろうな。
静海は静海で、光人のことを悪く言ってたことを麗愛ちゃんに説明してたけど、「うん、静海がブラコンってことは解った」なんて言われて、反論できなくてな。
多分からかわれただけど、「もしかしたら私のこと、お姉ちゃんって呼ぶことになるかもよ」とか言われててな。さらに顔を真っ赤にして何か言おうとしてた。
まあ、光人がイケメンかどうかはさっきの佐藤君が言ってたように好みの問題があるから、変に気にすんなよ。
ただいい奴、ってのは事実だと思う。
それでなくても、自己評価低いからな、光人は。
そこは素直に聞き入れろ。特にここ最近はいい方向に変わってるんだから。
彩ちゃんもな、本当は光人がイケメンって言われて少し喜んでたんだぞ。
でも、そう言われた後の光人の反応があんまりだったからな。
単純に綺麗な女子に褒められて、好意らしきものも感じちゃったから、鼻の下を伸ばしてると思われてるぞ。
さらに教室に引っ張って来られた途端、須藤君に「俺ってイケメン?」なんて聞くもんだから、自惚れてると勘違いされてるな、ありゃあ。
それでなくとも、お前の周りに、野郎より多くの女の子が寄って来ているって事態に、結構カリカリ来てる感じだからな、彩ちゃん。
大事な人なんて言っておいて、他に可愛い子から褒められて鼻の下伸ばしたりするもんだから、嫉妬の塊になっているから気をつけろよ。
明日はあまり1年生には関係ないとはいえ、テストなんだから気張っていけよ、光人。
親父の記憶の確認を受けているうちに、1限の英語の授業が終わっていた。




