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第71話 イケメン

 静海の友人、神代麗愛さんのあまりの言葉に、俺の記憶は飛んでいた。


 気付いたら、あやねるに腕を掴まれ、引きづられるように教室に来ていた。


 自分が今まで言われた中で、多分、一番衝撃を受けた言葉だった。


 よく蔑まれるような言葉を吐かれ、心にダメージを受けたことはよくあった。

 慣れちゃあいないが、ある意味ではよく聞く言葉が多かったから、心に鎧の装着もできるようにはなった。

 普通に人の話を聞かないという態度だったのだが。


 最近は褒められることも多くなったし、優しい言葉をかけてもらえるようにもなったのだが、自分の顔について褒められることが来るとは思いもしなかった。


 自分では、慎吾にも景樹にもよく使ってる言葉だ。

 あまり言いたくはないが塩入も顔だけ見れば使う単語だろう。

 だが、自分が初めて会った美少女に言われるとは思わなかった単語。


 イケメン!


 聞いた瞬間に、誰のことを言ってるのかわからなくなった。


 その場にいたほかの美少女3人(妹含む)が、恐ろしいほどに目を見開いて静海の友人、神代さんを見ていたのはうっすら覚えてる。


 何か静海が神代さんに言っていたが、何を言っていたのかは俺の脳には届かなかった。


 バスに乗って、高校の前で降りて、静海と神代さんと別れ、伊乃莉と別れ、今教室。


「おはよう、白石。お前、なんかあった?」


 眼鏡をかけなおしながら須藤がそんなことを言ってきたときに、やっとその呪縛から解放された。


「ああ、いや、なにも。」


「それにしちゃ、なんか変な表情で顔が固まってるぞ。宍倉さんと仲良く腕を組んできたせいで、塩入がすげえ顔で白石を睨んでたけど、お前の顔見て視線逸らしたもんな。」


 固まっていた表情筋を懸命に動かした。


「少しはまともになった?」


「少しだけな。」


 そう言いながら、俺の後ろに視線を向けた。


「宍倉さん、なんかあった?相変わらず怖い顔してるけど。」


 ううん、少しびびりながらもあやねるに聞けるところは、須藤も成長してるってことかな?


 そんな事、言われなくても背中に不穏な視線が突き刺さってる気がしてるんですよ、さっきから。

 怖くて後ろみられないんです。


「たぶん、何かあったんだけど…、記憶が飛んで解らないんだよ。」


「えっ、なにそれ?」


 自分でもどう説明していいか分からん。


「須藤、一つ聞いていいか?」


「ああ、聞くだけなら。答えられるかは別な。」


 とりあえず、第三者に聞いてみるしかない。

 この単語で意識が飛んで、周りの女子がおかしなことになった…様な気がする。


「俺って、……イケメン、だと思うか?」


 須藤が固まった。

 まじまじと俺を見る。

 そして俺の背中に刺さる視線の圧が強くなった。

 背後からゴゴゴゴっと何か地鳴りのような音が聞こえた気がした。


 その幻聴が聞こえたときに、不意に須藤の表情が動いた。


 恐怖を感じたのだろう。後ろにチラッと見た瞬間に、瞳が泳ぎ始めてる。


「イケメン、ではないかな?」


 なぜ疑問形?


 ああ、後ろのあやねるの表情を一生懸命忖度しようとして、失敗したのか。


「だよな。」


 うん、俺もそう思う。

 ごめんな、須藤、変な事聞いて。


 心の中で謝罪した。


「おはよう、何の話してんの?」


 爽やかな挨拶と共に景樹が俺の横に現れた。


 景樹があやねるにもあいさつしたらしく、少し雰囲気が砕けた感じで挨拶を返す声が聞こえてきた。


「ああ、佐藤。いやあ、白石が変な事聞いてきてさ。」


「変な事?」


「白石はイケメンかどうか。」


 須藤の言葉に、小首を傾げた。


「何がどうしてその話になったかはわからないけど…。光人がイケメンかどうかは、見る人の好みだと思うな。女の子に当てはめるとさ、他人が美人とか言われても俺は興味を抱かなかったり、逆に地味とか言われて立って、えらく綺麗な子っているからな。」


 芸能事務所の息子は言うことが違う。

 と言っても、ほとんどの女子がイケメンと認めてる景樹が言ってもなあ。

 こいつの美的価値観、絶対高いもんなあ。


「だけど、光人がイケメンかどうか別として、光人が「いい男」であることは間違いない。」


 景樹はさらりと言った。


「白石はいい男か?」


「須藤はそうは思わないか?ああ、別の言い方をすれば、いい奴だろう?」


「それは、確かに。」


 須藤も認めるんだ、そこ。


「そうは思わない、宍倉さん。」


 唐突に俺の背中に凶暴な視線を突き刺していたあやねるに、景樹が振った。


 その言葉に背中にかかっていた圧が急速になくなる。


 それにほっとして、前に向いた。


「光人君は、確かに、いい男だと思う…。」


 そう言うと耳が真っ赤になり、恐ろしい速さで前を向いた。


「だってさ、光人。よかったじゃん。」


 景樹ほどの男があやねるの視線に込められた圧がわからないわけがない。

 きっとそれも込めたさっきの言葉なのだろう。

 と言っても、自分がいい奴という評価も、よく理解できなかった。


「誰かにイケメンと言われてテンパったってとこだろう、光人。しかもそれが結構可愛い女子。でなければ、宍倉さんの態度は納得いかないからな。」


 別に小声で言ったわけではないから、この言葉に前の席のあやねるの背中が一段と小さくなった。


 そうか、ヤキモチ、だったのか。


(鈍すぎ!)


 脳内に巣食う別人格が騒いだ。


「おお、さすがイケメンの佐藤の推察が凄い。そう言うことか。」


 変に納得する須藤がいた。


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