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第68話 文芸部への勧誘(LIGNE)

 風呂に入って、部屋に戻ってきたときに、膨れているカバンを見てげんなりした。


 とりあえず中身を全部出して、筆記具とノートの身を入れた。

 また明日に、残ってる教材を持ってこないといけない。

 あやねるは結構無理して詰め込んでたから、持ってて重くて仕方なかった。


 明日は教科書なしで、明後日の学力テストの簡単な内容の復習をすると言っていたから、とりあえずはこんなもんでいいはず。


 LIGNEにはあやねると伊乃莉から、あの後柊先輩とお茶したことを報告してきた。

 なんだか急速にあそこらへんが仲良くなっているようだ。

 特にモデルについて伊乃莉があれこれ柊先輩に、あれカホ先輩って呼ばないといけないのか、聞いていたようだ。


 それとはべつに、景樹からはさらに伊乃莉へのモデルの誘いをプッシュしてくれ、みたいなメッセが入っていた。

 そう言われても、俺がどうすればいいかはよくわからん。


 景樹には適当に返したが、伊乃莉には一応モデルをやりたいかどうか、それとなく匂わせるようにメッセを返しておく。


 あやねるには生徒会頑張れと応援メッセージ。


 なんてことをしていたら新規で須藤からメッセが来ていた。


『文芸部に入部して、男子の比率を上げることに手伝ってくれ』


 膝が崩れそうになり、そのままベッドに突っ伏した。


 あの時の入部の勧誘は本気だったのか、と少し気が重くなった。

 本当は陸上部かサッカー部を考えた時期もあったが、塩入の存在にまずサッカー部が消えた。

 陸上部も下手に大会で三笠と遭遇することを考え、やめた。

 親父がなくなってからは、バイトの可能性を考えて、部活はやめようと思っていた。


 全く文芸部なんて考えてなかったんだよな。


(当分、それこそ光人と静海が大学を卒業するまでの経済的な心配はしないように手を打ったつもりだが?)


 急に親父の思考が俺に流れ込んできた。


(そう言われてもな。実際に自分が何をしたいのかもわからないし。進路が決まった時に慌てたくないしな)


(だから、かなりの額がお前たちの口座に振り分けてあるぞ。相続税分は別口座に舞子さん名義で作ってあるし。お前たちが将来の心配をしないように、私は光人の身体を酷使したんだがな)


(そういうとこは気を使ってくれよな、本当に。それで俺が倒れたら元も子もないだろう)


(いや、まあ、その時はさらに舞子さんと静海の将来が潤う)


(息子を殺すんじゃねえよ!)


(そんなに怒るなよ…。ちょっとしたジョークだろう)


(冗談になってないわ。本当に俺の身体が睡眠不足と過労で入学式に倒れてんだからな!)


(あっ、それは悪かったと思ってる。でも、あのきっかけがなければ、こうやって話せてないんだし…)


 俺は大きくため息をついた時だった。

 新しいメッセージを知らせる軽やかな音が、俺のスマホから奏でられた。


 日向さんからだった。


『今日の話なんだけど。一緒に入部しない?』


 今度は日向さんから誘われた。


 さっきの会話が蘇る。


 ギャル先輩、いや、有坂裕美さんが俺に惚れてる?

 で、後輩と友人が同じ部に入れようとしている?


 二人とも建前はあるものの、その根底に有坂先輩に対する思いが感じられた。

 まあ、須藤は脅されてるだけ、ってことは考えられるが。


 文芸部に入らなければ有坂先輩に逢う確率はかなり減る筈だ。

 会わなければ、仮に有坂先輩が俺にその気があったとしても、時間とともに熱も冷めるんじゃないだろうか?


(須藤君の要望は蹴れても、日向さんの希望は拒絶できるのか?)


(ん~、痛いところを。あの凛とした日向さんに頭を下げられたところを想像しただけで、条件反射しちゃいそうだ)


 一旦保留と送っておこう。


(でも文芸部、結構いいんじゃないか?光人はそれなりに本読んでるし。小説を書くかどうかは別にして、人に薦めたい、または自分の中で影響された本くらいあるだろう?)


(そりゃあね、無くはないけど、今年になってからはまともに読んでないよ。受験と親父の事故死と続いたし)


(ははは、そりゃあそうだな。でもこれからは読む気はあるんだろう?私の本もまだるし、光人も持ってる本で読んでないものもあるだろう?)


 まあ、その通りなんだが。


(運動部の選択はもうないんだろう?だったら時間の融通が聞く部に入るのも一つの手ではあるよな)


(だからって文芸部でなくても…)


(そうなんだが、請われて入るのは結構気分いいぞ。それに2年生の先輩は特進クラスなんだろう。これは今後の勉強に大いにメリットになると思うんだが)


 いかん。

 それはいい考えだと思い始めている俺がいる。


 よし、冷静になろう、俺。


 中学の時に比べてそれなりに友達が出来てきている。


 智ちゃんは置いといて、あやねるー宍倉彩音さんが一番近い女子。

 その友人の鈴木伊乃莉もどうやら俺に好意を感じてそう。

 でなければ頬にキスをすることはないだろう。

 変な(カワ)し方をして、嫌われた可能性もあるが。


 まあ、柊夏帆先輩は親父絡みだからな。

 その生徒会で岡林先輩と妹さん、柊秋葉さんと笹木莉奈さんとは顔見知り程度と言っていいだろう。


 で、クラスでは日向雅さん、今野瞳さん、弓削佳純さんと言ったところだろうか。


 そこに何故か文芸部の有坂先輩が絡んでくる。


 普通の高校でも、こんなに才能の人達がいるのだろうか?


 読者モデル、イラストレーター、小説サイトで1万ポイントを超える小説か…。


 あまりに無芸な自分にため息が出てきた。


(意気消沈しているとこすまんが、さっきの山上君の話でな、何人か連れて来るようなこと言ってただろう)


(そういえば言ってたっけ。お袋に何人か聞かれて困ったな)


(本当に当時のチームの栄科製薬の人間ならそれほど大したことはないんだけど)


(それはどういう意味?)


(私が栄科を辞める前に所属していたプロジェクトの奴らが、友人顔で来るとちょっと厄介なんだよ。まあ、光人とはいつも一緒だから、助言は出来るから問題はないんだが…。とにかく光人の脳に私がいるという様な疑いは抱かせないようにしてくれ)


(普通、そんなこと思う人はいないよ、親父)


(普通は、な。だがあのプロジェクトの連中だと…。いや、今言ったことは忘れてくれ。山上の言う通りに、お悔やみの言葉と、思い出話だけで終わるだろうから。あいつが私の変な話を言わないことだけを祈るよ)


(そんな変な事してたの、親父)


(ものの例えだ!)


 親父の言葉とは別に、何とも言えない親父の不安が俺の心に流れ込んできた。


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