第61話 幼馴染たち
家に帰ってきて、玄関を開いた。
「「おかえり~。」」
「お帰りなさい、お兄ちゃん。」
なぜか幼馴染の二人がいた。
淀川慎吾と西村智子。
「おっせーぞ、光人!学校終わったら寄り道せずに帰らにゃ、先生に怒られるぞ。」
「お前は小学生か‼」
リビングのテーブルにお茶とお菓子が出されていた。
そこに静海と慎吾と智ちゃん。
つい先刻までお茶しながら歓談を楽しんでいたってことだろう。
その目的は、おそらく、俺、だな。
「で、何してんだお前らは。智ちゃんの部活は休みだろうけど、慎吾のサッカーは休みじゃないだろう?しかも新入部員がサボりってまずいんじゃないか?」
俺は冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐと、一気に飲み干した。
荷物が重い。
それを床に置き、3人が座ってる椅子とは別のところに置いてあるソファに倒れ込むように座った。
「ほお~、お疲れだな。なんかやってきたのか?」
「まあ、いろいろとな。とりあえず、卿渡された教科書や教材が半端ない。」
俺がそう言うと、慎吾が立ち上がって気俺が置いた鞄を持ち上げた。
慎吾の顔が引き攣る。
「な、何だこの重さ!うちの高校でも重かったから大半を置いてきてっけど、こいつもすげえなー!」
「ああ、でもその量だと、半分も持って来てないでしょう、コウくん。」
「まあな。地下のロッカーに置いてある。」
慎吾がへばっている俺の横に腰かけた。
「まだ新入生は仮入部期間でな。今日は休み。LIGNEで西村の様子見で連絡入れたら、お前らも午後ないって言うからさ、光人んちに線香あげに来た。」
確かに、仏壇を見たら線香から煙が上ってる。
(おお、慎吾君も智ちゃんもいい子たちだな~。最近息子が反抗期で寂しかった父さんの胸にしみるう~)
(おい、親父!脳内にいることは解ってても、毎朝線香あげてんだろうが!俺も、静海も、母さんも‼)
(うん、愛は感じてるよ?母さんと静海の愛は)
(なんだその言い方)
(え~、だって、最近、光人の私に対する扱いが雑な感じがすんだよな~。美女たちに囲まれてウハウハなのはわかるけどさ。いいよねえ、光人君はモテモテで~)
(ホント、うざい!)
そんな会話が俺の脳内で繰り広げていたら、隣の慎吾がガッチリと俺の肩を隣からホールドしてきた。
「は~い、光人君捕まえました。もう逃げられません!」
慎吾の言葉に、こいつらの目的がありありとわかった。
昨日の件での尋問か。
俺の前に、冷えた空気を感じて鳥肌が立った。
恐る恐る見上げると、中学2年ですでに168㎝と長身のわが妹が腕を組んで立っていた。
体格はスリムで、普段はそんなに強いイメージはない。
というか、まだそんなに胸がないせいもあり、華奢な雰囲気があった。
にもかかわらず、今はかなりの圧迫感を感じた。
その瞳は暗く冷たい光を放っている、様な気がした。
「お兄ちゃん、ちょっと聞いていいかな?」
さっきの和やかにお茶をしてましたって雰囲気は、俺を逃がさないための罠だったのか?
(昨日の伊乃莉ちゃんの件かな、これって)
(終わったんじゃないのか、昨日のことは?)
(それぞれでは終わってたのかもしれないけど…。その3人が情報のすり合わせを行うと、また新たな事実が浮かび上がってくる)
(どういう事?)
(例えば、光人は伊乃莉ちゃんを駅に送ったと言った。この話には嘘はない。ただ、どこの駅に送ったかを意図的に隠した。違うか?)
(違わない)
(智ちゃんが思ってる駅に送って、家に帰ってくる時間は大体予想がつく。だがここで静海と情報のすり合わせを行った)
(あっ!)
(もう一つ。光人は伊乃莉ちゃんと会っていた件。静海は知らないな、確か)
(確かに…。)
(慎吾君に至っては、彩ちゃんのことも、伊乃莉ちゃんのことも全くわかってない。そうなれば、光人が帰って来るまでの間に二人からある程度聞かされた内容。かなり偏ってるな、たぶん)
ああ、ごめんなさい、俺、何を言っていいか分かりません。
「まず昨日、慎吾さんの彼女のお披露目に行くとは聞いてましたが…。鈴木伊乃莉さんと二人きりで会っていたというのは、事実ですか?」
口調が丁寧だけど、研ぎたての包丁みたいに切れ味の鋭さを感じる。
「事実です。」
それしか言えなかった。
「何故ですか?悠馬のお姉ちゃんと何があったんですか?」
うーん、これはいったい何を疑われているんだろう?
もしかしたら、自惚れかもしれないけど、最近の静海はやけに俺にスキンシップをしてきてる気がする。
つい2か月前には考えられなかったけど、俺のこと好きすぎるブラコンに趣旨替えか?
「まさかとは思うけど、二人して私と悠馬をくっつけようとかしてないよね⁉」
あ、違った。
俺と伊乃莉が付き合ってるとかじゃなかった!
(うわあ~、恥ずかしい!)
親父に笑われた。
そう言えば、そんな話は一切出ていなかったな。
そんなの本人の問題だし。
でも、確かに伊乃莉はその件、乗り気ではあったっけ。
「いや、そんな話は何も出なかったな。」
もしかしたらその話の方向がよかったか?
いや、ダメだ。すでに智ちゃんにはあやねる絡みのことだと言っちゃてたな。
「では何があったんですか二人の間で!お兄ちゃんと伊乃莉さんの間で‼」
この妹は何が知りたいんだ?
「智ちゃんにも話したけど、あやねる、宍倉さんの事だよ。彼女の男性恐怖症とか、電車には一人で乗れないこととか。この辺の話は智ちゃんにも話したけど、聞いてない?」
「確かに、その辺の話はさっき聞きました。聞いたけど、なんで二人で会う必要があるのか、わかんない!」
「そこは伊乃莉とあやねるのプライヴァシーが絡んでる。そこは言う訳にはいかない。」
泣きそうな目で見てくる静海だったが、二人の関係性に関することを気軽にしゃべるわけにはいかない。
そこは毅然とした態度を取らせてもらった。
さすがにそんな俺の意図が分かったのだろう。
静海は少しの間俺を見ていたが、そのままさっきまで座っていた椅子に戻って座った。
俺がとりあえずの尋問が終わったので大きく息を吐いて、座っていたっソファーにもたれようとした。
が、肩を抑えてる慎吾はその力を緩めてはくれなかった。
慎吾を見る。
慎吾の目が俺を見た後に、その視線を動かした。
その先には智ちゃんがいた。
微笑んではいるのだが、背筋が寒くなってくるのは何故?
「ねえ、コウくん?鈴木さんを一体どこの駅まで送っていったの?」
親父のたとえ話が、現実に俺に迫ってきた。




