第6話 お化粧
「ほら、ショートホームルーム始めっからな、席付け‼」
そんなことを言って出席簿を上げたとき、前の席の今野瞳が目敏く左手薬指の指輪を見つけた。
先週にはしていなかったことをしっかりと覚えていた。
「先生、もう結婚したんですか?」
今野さん、行くねえ!
「いやあ、まだだよ。婚約者の話はしただろう?」
「先生、土曜は、指輪ってしてませんでしたよね?」
渋い顔になる先生。
週末に何かあったな、これは。
「まあ。婚約してるんだし?付けててもいいかなって言うか…。ほら、そんなことはどうでもいいんだよ!出席取るぞ!」
強引に出席を取り出した先生に、俺たち生徒はニマニマした顔を向けた。
出欠の確認の後、今日の授業の確認。
1限と2限で授業で使う教科書などを配布したのち、委員会を決めて、親睦会の準備を行う予定。
既に委員会に決まってる人間もいるみたいではある。
早速前の出席番号順に先生が7人くらいずつ連れて行く。
教科書を取りに行くのは講堂代わりに使用される第1体育館。
全員で行くと混乱するため、各クラスの数名ずつにとりに行くらしい。
その間、教室に残る人間はおとなしく待っていろと言うことらしい。
前の席のあやねるが振り向いてきた。
「朝の話なんだけど、さ。」
ああ、誤魔化せないのか。
「そういう話は、やっぱり男の子だから、光人君も好きなのかな、って…。」
隠すためとはいえ、須藤に悪役押し付けちゃったからな。
「好きじゃないって言ったら、やっぱり、嘘になる、かな。」
あやねるの頬が少し赤くなる。
でも、先程の暗い目ではない。
「そうか、やっぱり・・・。」
「だから、あんまり須藤を責めないでくれ。小説を書く際に、どうしてもそういう要素は入ってくるんだから。さっきはそれ中心みたいに言ったけど、そういう場面があるって話だけだから。」
「それは解るけど…。18禁なんて言われたら、引いちゃうよ。」
かなり困り顔をしている。
ラノベでも、表現をぼかしてるものもあるし、普通に小説を読めば、いわゆる濡れ場なんてものがある。
あやねるも本は読む方だから、そこら辺は解ってるらしい。
「そのことで相談されたんだ。だから、今日は放課後にその辺もかねて、文芸部によることになった。」
「ええ、一緒に帰れないの?」
「もし、4限終わって学食でご飯を食べるなら、そこは一緒できるけど。あやねるはお昼どうすんの?」
俺の問いかけに少し悩むあやねる。
もしかしたら帰りがけにどこかのお店で食べることを考えていたのかもしれない。
さすがに、今日も俺を家まで送らせるつもりはないだろう。
「わかった。後でいのすけに聞いてみる。帰る途中で食べるつもりでお金は持ってきてるから。」
「OK。そういえばさ、あやねるって学校に来るときにお化粧ってしてるの?」
「えっ、急にどうしたの?軽く整える程度はしてるよ。とは言っても唇にリップクリームと、顔に保湿剤って感じだけど。」
何か探るような顔つきで俺を見てる。
そりゃあ、そうか。
こんな質問すれば。
(何が聞きたいかはわかるけど、光人。藪蛇にならんようにな。好奇心は人を成長させるけども、逆に痛い目を見るときがあるからな)
(わかってるけどさ。伊乃莉のあの変わり様を見ちゃうと、あやねるがどんな感じに変わるか興味出ちゃうんだよね。柊先輩の写真でも感じたんだけど…。これが女は化けるってことかって)
(みんな、元が可愛いからな。でも、きっと智ちゃんも変わるぞ。あの子は体育会系だからほぼ、すっぴんだけど、化粧したらいい女になると思うんだけどな)
(それとこれとはまた別の話だよ)
「昨日、伊乃莉をナンパから助けた?というか声を掛けたって言うか。でもさ、最初気付かなかったんだよ、伊乃莉だって。」
「ああ、それでか。いのすけは綺麗なものっていうか、綺麗になるってことに気合入ってるんだよ。きっとその時は何かストレスでも溜まってたのかな?」
「ストレス?」
「うん。中学の時も、私が男子からいじめられてたりして、その後で遊びに行くことになった時、別人だったよ、確か。」
「やっぱりな。だからさ、あやねるも気合入れたらすごく綺麗になるかなって思ってさ。」
この俺の言葉に、急にあやねるが顔を両手で隠すようにして下を向いた。
耳が赤い。
(お前のそういう発言って、なんでさらっと言えるんだ?だから変に女子から意識されてんだぞ!)
(だって、思ったことを素直に言ってるだけなんだけど。それの何がいけないの?悪口言ってるわけじゃないし)
(そうだけどな)
「おーし、次の列ついて来い!」
岡崎先生が戻ってきた。
帰ってきた人たちは結構な荷物を抱えてる。
あんなにあるのか~。
ちょっと憂鬱。
「うわ~、あんなにあるのか~。」
後ろの須藤の呟きに、思わず同意する。
「おおいよな、あれ。」
「本当。さすがに今日1日で持って帰ろうとは思わん。」
「女の子にあれを持たそうってのもすごいしな。」
俺の言葉に、下を向いていたあやねるも、首をコクンという感じで縦に振り、同意してきた。




