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第59話 帰り道 柊夏帆 Ⅱ

 私の最寄りの港湾駅に着いた。

 ここはまだ地下には入っていないのでホームからは階段を下りる感じ。

 改札を出てすぐそばにあるチェーンのカフェに入る。


 三人ともさっきもドリンクを飲んでいたから、ケーキとのセットを頼んだ。

 どうやらみなそれなりにお小遣いを持ってそうだったけど、私はバイトをしているという強みと先輩という権力を振りかざし奢ることを認めさせた。


 皆ダージリンの紅茶とレアチーズケーキのセット。

 これは完全に私に合わせたものと思われる。


 伊乃莉ちゃんはスーパー大安の社長令嬢、彩ちゃんのお父さんも会計事務所を東京都内の自社ビルで自営しているお嬢様。

 それだけで比較すれば、たぶん、私の家が一番資産力は低いことになる。

 恐るべし、私立高校!


「それで先輩、強制的にこの駅で降ろされたのはバイトの件なんですが…。」


 誰も強制はしてなかったと思うんだけど?

 ちょっと攻撃いのりんモードに戻ってるかな。


「そうだったね。私は別にあのままさよならしてもよかったんだけど、それじゃあ消化不良でしょう、伊乃莉さん。」


 うぐぐぐってな感じの伊乃莉ちゃん。

 ちょっと可愛い。


「読モのバイトが許可されてる理由って、どうしてなんですか?」


 悔しがる伊乃莉ちゃんをよそに、彩ちゃんが興味津々で聞いてきた。


「何個か理由があるんだけど、まずは3人とも優等生だった、ってところかな。私も香音も特進クラスでも上位の成績。瑠衣も進学クラスではあるけどバスケで結構な成績を出してる。あの身長だしね。香音は3人でのスナップ以降、そう言ったことに興味がないので、読モは辞退したんだけど。瑠衣はノリノリでね。でも瑠衣だけではきっと学校も許可しなかったかな。特にあの時はまだ中3だったから、そういうことをしたければ、学校辞めって普通の高校を受けろって話になっていたと思う。」


 私の説明に納得しながらも、ではなぜ私たちが読者モデルをやっていられるのか?


「さっきも言ったけど、瑠衣は読モに乗り気だった。香音はまったく興味なし。っていうよりもそういう煌びやかな世界に嫌悪すら示していた。まあ、彼女はその美貌によらず、堅実な生き方が好きだからね。実家はセレクトショップを母親が経営していて、父親はジュエリーの販売の会社を経営してるんだけど、ね。そういうところに来るちゃらちゃらした男によく声を掛けられたらしい。その男は女連れでもね。だからそう言った浮ついた業界に、憎しみすら持ってる雰囲気があった。三人でのスナップショットくらいはいいけど、本格的な撮影は「絶対無理!」って断ってた。」


「大島先輩の考えは充分理解できますよ、カホ先輩。でも、カホ先輩はなんで読モをやろうなんて考えたんですか?」


 彩ちゃんは鋭いね。

 今の説明じゃ、何も話していないのと同じ。

 椎名さんが使った汚い手段は伏せておくとして…。


「瑠衣の執着が凄かった。バスケよりも、そう言った業界でスポットライトを浴びて見たかったそうよ。お父さんは弁護士なのにね。」


「弁護士ですかあ~。何か困ったときは相談させてもらおう。」


 かなりの真剣みが伺える。

 何かあるんだろうか、彩ちゃんち。


「まあ、話は戻して、瑠衣はやりたい、香音はやりたくない。私がついた方が、この場合選ばれるってことになる。私も本当はそんな面倒なことをしたくなかったんだけど、後輩の瑠衣の天真爛漫な姿に憧れにも似た感情を持っていた。こんなバスケバカといわれて中学を卒業する後輩の、華やかな姿を見たくなったんだよね。」


「先輩、その感情、なんとなくわかります。私もあやねるが成長する姿に、日々感動してますもん。」


「いのすけ!なんでそんなに上から目線なの!」


「だって、そうじゃん!男の怖いって言ってたくせに、入学式にはもう男を拾ってくるし、電車も男と一緒なら怖くないみたいだしさ。終いには両親にご挨拶させたんでしょう?これを成長と言わずして、何が成長なの?って感じだよ。」


「まあまあ。彩ちゃんの成長ぶりは解ったよ。うん、この数日の成長は、そう聞くと凄いよね。それで、瑠衣がモデルをやりたがってるのは、非常に解りやすかったの。それまで、バスケを本格的に始める前って、すでに身長が高いってのがコンプレックスだったみたいで、よく「デカ女」っていじめられてたんだって。その時にモデル、特にファッションモデルって人種が高身長じゃないと逆にダメってことを書いてあった漫画に出会ったみたいで、心の奥底に「モデルになりたい!」って野望を密かに持ってたみたい。」


 ああ、そういう話は聞いたことあるな、って顔を伊乃莉ちゃんが私に向けた視線で察することができた。

 そういえば伊乃莉ちゃんもそこそこ背が高いね。

 光人君の妹さん、静海ちゃんより高い感じがした。


「だから、スカウトされて、是非やりたいって感じだった。そこでね、その椎名さんって人が私の母、柊冬花と知り合いだったことがわかって、それなら信用できるってことになったんだ。」


「人の縁ってやつですか、先輩。でも、それだけでバイト、許可されますか?」


「狩野瑠衣の本気度に彼女の父親が共感してね。瑠衣の高身長のコンプレックスは彼女の両親も理解していた。さすがにモデルになることが夢だとは思っていなかったようだけど…。その両親、特に父親が熱心に学校を説得したの。瑠衣のお父さん、弁護士だから、法的な不備をつつくのは大の得意なんだよね。」


「さっきも言ってましたもんね。弁護士か。狩野瑠衣先輩のお父さん、すごいな。」


 彩ちゃんが少し羨ましそうにしてるのは、私の気のせいかしら。

 でも、彩ちゃんの実家も会計事務所してるんなら、お父さん、税理士か公認会計士ってことだよね。


 ああ、でも、そうか、あんな派手な事、部活動紹介でしてたから、瑠衣と弁護士って仕事、結び付かないよね。

 だから、あんな変な記事を載せたJAに対しては最初凄い不信感あって、瑠衣が説得するのは大変だったんだけどね。


「で、私と瑠衣のモデル活動を認める代わりに、日照大付属千歳高校と中学のパンフレットの撮影代を無償でカメラマンの赤越さんが撮ることになったの。実際に撮影に来た時に熱心な写真部とコンタクトしたみたいで…。その結果が写真部に私の写真のデーターが渡されて、部活動紹介で私が晒されたってわけ。」


 私の説明に、伊乃莉ちゃんが大きく頷いてる。

 伊乃莉ちゃん、何かすごく納得してるけど、モデルに興味あるのかな?

 あるなら、椎名さんに橋渡ししてもいいけど?


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