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第58話 帰り道 柊夏帆 Ⅰ

 唐突に、ちょっと私に警戒心を抱いているとしか思えなかった伊乃莉ちゃんが聞いてきたこと。


 モデルになったきっかけ。

 別に隠す気はないんだけど、さて、どう話したもんか…。


 単純にはスカウト、かな?

 瑠衣と香音と3人でいた時に雑誌の記者に声を掛けられた。


 間違ってはいない。

 でも、あの時のカメラマンの赤越さんが私のカラコンに気付かなければ、このバイトはしていなかったんだけど…。

 正直に言えるわけがない。

 それと母と編集の椎名さんが知り合いだったことが大きい。

 大人を信用するということは、私たち高校生にとってはかなりリスキーなのだから。


「よくある話だけど、スカウトされたんだよ。ファッション誌JAの編集をしている人に。」


「でも、スカウトって、怖くないですか?いろいろな人がいるから。私にしてもあやねるにしても、中学の時原宿でそこそこ声掛けられましたけど…。」


 この子たちなら確かにあり得るね。

 でも、怪しげなスカウトを名乗る人はいっぱいいるよね、本当に。


「うん、そう思う。その時は私と、この前の部活紹介で悪目立ちしてた狩野瑠衣と、あと親友の大島香音って子と遊びに渋谷に行った時だったかな。」


 その3人の名前を上げると、なるほど、ってな感じで伊乃莉ちゃんは納得していた。


 でも彩ちゃんはちょっとわからないみたい。

 香音は文化祭実行委員で副委員長をやっていて、一応入学式の後で挨拶はしてたんだけど、きっと彩ちゃんは光人君のことが心配で気が気じゃなかったんだろうな。


「瑠衣は最初から乗り気ではあったね。特にあの時はまだ中3だったけど、身長は既に170を超えていて目立ってたし。大島香音っていうのはね、一応は入学式の後の生徒会主催の委員会紹介で文化祭副委員長としてみんなの前には立ってたんだけど、覚えてる?」


 伊乃莉ちゃんはしっかりと頷いていたけど、やっぱり彩ちゃんは首をかしげていた。


「ああ、あやねるは光人のこと気にしてて、上の空だったんだね、あの時…。黒髪が綺麗でセミロングにしていた和風の美人なんだけど。」


 そうだった、伊乃莉ちゃんはきれいな女子、好きだったね。

 私とおんなじだ。


「なんとなく、あの人のことかなって感じはあるけど。」


「まあ、じき、生徒会にいたらいやでも会うことになるからね。その3人が声を掛けられて、街角のスナップみたいな感じで、写真撮られたの。ああ、そのカメラマン、赤越さんの作品は二人とも見てると思うよ。」


「あれ、それって、あの…。」


 伊乃莉ちゃんが気づいたみたい。


「写真部の、あのカホ先輩の写真、ですか?」


「うん、正解。あの何処の人間だよ!って突っ込み入れたくなるような写真。さすがにあの写真、自分だとは今も信じられない感じなんだよね。」


「いやいや、それ、おかしいですから!あの写真、カホ先輩以外の誰なんですか!先輩伸びが極限まで表現されてるじゃないですか。そりゃあ、プロのカメラマンが撮影してるんですから、他の写真部の人と比べちゃいけないとは思いますけど。それでも、先輩がいればこその写真でしょう、あれ。純粋に感動しましたよ。」


 ファミレスでの攻撃的な姿勢が嘘のように、伊乃莉ちゃんの絶賛の嵐。

 確かに撮られた本人である私も綺麗で素晴らしい写真だとは思ってます。

 でもね、本人がそんな恥ずかしいこと言えるわけないでしょう!

 何といっても、謙遜が美徳とされるのが、私が生まれ育った日本という国。


 でも伊乃莉ちゃんの賛辞は、聞きようによっては結構なディスりに聞こえてくるな。


「そうですよ先輩。あの写真って、部活動紹介で出していい作品じゃないですよ。」


「ありがとう、彩ちゃん。まあ、変に芸術的になったせいで、雑誌に載る写真としては不適合になったっていう、いわくつきの写真ではあるけどね。」


「でもよく写真部があんな写真、手に入れましたよね。」


「ああ、それね。実はね、あとで話そうと思ってたんだけど、うちってバイト、原則禁止でしょう。」


 私はあの写真が写真部の手に渡った経緯を思い出して、つい眉間にしわを作ってしまった。

 椎名さんから、出来るだけ顔の表情禁を動かすようには言われてるけど、逆にゆがんだ表情は出さないように言われてたっけ。


「そうですよね。光人君や須藤君のように、家庭の事情を学校が認めない限り、許可されないし、バレると結構なハンデを負わせられるって聞いてます。」


「そうそう。それ、聞きたかったんですよ、カホ先輩。カホ先輩にしても瑠衣先輩にしてもバイト活動、かなり派手ですよね?」


 彩ちゃんも伊乃莉ちゃんも、バイト関連の話ってかなり興味あるみたいね。

 須藤君って子のことはよくわからないけど、光人君絡みは喰いつきいいわ。


「当然、私にしても瑠衣にしても家庭の事情ってやつは関係ないよ。なくはないか。私の母が編集の椎名さんとはもともと知り合いだったし…。まあ、でも、光人君のような母子家庭とかじゃないからね。」


「なんか気になる話が入っていた気もしますが、続けてください、先輩。」


「伊乃莉ちゃん、モデルに興味あるんだもんね。その話はあとでするけど。でね、モデルって言っても本職ではなく、読者モデルってやつなんだけど…。」


 少し間を開けて二人の興味を引き付ける。


「アッと、もう私の降りる駅に着いちゃうなあ。ねえ、二人とも。ちょっと寄り道しない?」


 私の言う意味に彩ちゃんも伊乃莉ちゃんも気付いたみたい。

 でも、彩ちゃんの顔が悩ましげに揺れた。


 あ、鞄、重いんだっけ。どうするかな。


 と、思ったら二人とも頷いて立ち上がった。

 遅れて私も立ち上がり、電車を降りた。


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