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第57話 帰り道 鈴木伊乃莉

 何故、この3人?


 あやねるとの帰り道、何故か高校一と噂される美女、2年の柊夏帆先輩と一緒だ。


 この柊先輩は生徒会の書記という肩書を持っている。

 だからあやねると面識はあるし、今日も生徒会に入ったあやねるを待っていたのは私だ。


 まあ、明らかにあやねるから逃げるような態度取っていた光人だが、帰りに一緒に待ち合わせのファミレスに現れたのは解る。

 そこになぜこの美女がついてきているのか?


 といっても、私が初めての人に警戒心を持ってるってだけなのはある程度意識している。

 単純に笑顔で近づいてくる知らない人物には幼少のころから警戒感は高めにしてきていた。


 知らない人にはついて行ってはいけない。


 柊先輩が知らない人というわけではないが、自分の立場だと、笑顔で近づいてくる人は大抵下心があるものだ。


 自分が美しい部類にいることは自覚はしている。

 それも自分がそうなることを望んだ結果であるから、そこには満足している。

 その美しさに惹かれてくる害虫たちがいることも十分理解していた。

 ただ、私にはそこにスーパー大安の社長令嬢という価値がついてくると、さらに害虫が毒虫に変わってきたりする。


 うちの両親は私も姉にも、政略結婚など望んではいないが、私の父親と縁戚関係を持ちたがる輩は実際いるらしい。

 それが美しければ尚いい、などとは何処のラノベのファンタジーだろうか?


 これが女性だからといって例外ではない。

 私のバックにいる父の財力目当てのものは結構いることは、この短い15年間生きてきてわかっていた。

 媚びを売り、思い通りにいかないと口汚く罵る。

 だからこそ、クラスでも学校でも情報網を駆使して、そういった輩を排除した。

 中学の時にあやねるに告白したあの自称イケメンにもそのコネクションを使ったに過ぎない。


 だが、この柊先輩は何を考えているか、今ひとつわからない。

 あやねるとは、前に感じていたほどの大きな距離を感じない。

 というか親しさが増した感があった。


 当然生徒会とか、集団行動を好まなかった陰キャの美少女あやねるに、生徒会自体が不安の塊だったろう。

 そこで顔見知りの先輩に多少優しくされれば、コロッといっても不思議ではない。

 そう、ちょっと、女性相手にはちょろいところがある。


 あやねるは光人が絡むと途端に威嚇をする傾向がある。

 そして、それは私も例外ではない、らしい。

 まあ、昨日のことがあるからそうなったわけだし、私も、今の光人に対する感情が整理できていない。


 精一杯の行動が、なかったことにされたこの惨めな気持ちは初めてだ。


 そう思えば、もう光人に対しては適切に友人の距離に戻すことがベストだ。

 あやねるに対する不誠実なこの気持ちも解消される。


 そうすべきことは充分わかっている。

 わかっているのだが…。


 そんなことを考えながらも、あやねると光人、柊先輩の出現は、私の心を揺さぶった。


 警戒心も相まって、かなり攻撃的な口調になってしまった。


 帰るときには柊先輩が同じ路線ということで女子3人になった。


 重そうではあっても、あやねるの荷物は持つくせに。

 私の荷物はまったく無視するその態度に少し腹が立ったので、嫌味たっぷりに私の荷物は待ってくれないかと言ってやった。

 泣きそうな顔をする光人の顔は面白かった。

 と同時に、その顔に昨日の私を守ってくれた時の凛々しい顔を思い出してしまった。


 北習橋駅に着くと光人は解放感を全く隠そうとせず、逃げるように津田川方面のホームに去っていった。

 子犬のように寂しげな表情をしたあやねるを残して。


 もしかしたら私も似たような顔をしていたのかもしれない。


 それでも光人はこの場からいなくなった。


 あやねるが一つため息をついて、自分のバッグを持ち上げる。

 見るからに重そうだ。

 これはかなり今日配られた教材を詰め込んだのだろう。

 私は半分以上を割り当てられたロッカーに入れてきたので、あやねるほどに重さを感じてはいない。

 まあ、地下鉄はいいとして、降りてからはどうするのだろう?

 少し心配になった。


「鈴木さんのお父さんって、あのスーパー大安の社長さんなんだ。」


 柊先輩が少し驚いたように私に言ってきた。


「ごめん、いのすけ。私の家のことを聞かれて、カホ先輩がお金持ちなんて言うから、いのすけが凄いって思わず言っちゃった。」


「そういう個人情報を軽々しく言わないの、あやねる。光人や佐藤君にもそういう感じで言ってたでしょう。」


 大きくため息をついた。

 このことが柊先輩にばれたとしても、たぶん、何も起こらないとは思うけど、あやねるはどうもこの件に関して自慢げに話す傾向がある。


「鈴木さん、私は他で軽々しく言わないから安心して。」


「いえ、先輩のことを疑っているわけではないんですよ。ただ、このうちのことを、なんでかあやねるは自慢げに他の人に話すようなとこがあるんで。あ、それと、出来れば名字呼びではなく、伊乃莉と呼んでください。けっして「いのすけ」とは呼ばないでください。よろしくです。」


 ホームでそんなことを頼んだ。

 鈴木さんってのは、やっぱり好きではない。


「いのすけは彩ちゃんオンリーってことだね。OK!伊乃莉さん。私のことも柊という名字でなくてカホと呼んでくれると嬉しいな。」


「了解です、カホ先輩。」


 そう言うと本当に天使の微笑で返された。

 この表情で見られたら、大抵の男は簡単に堕とせそう。


 地下鉄がホームに入ってきて、扉が開いた。


 ちょうど3人が座れるように座席が空いていた。

 カホ先輩、あやねる、私の順で座った。


「モデルに興味ないか?」


 不意に佐藤景樹の声が蘇った。

 全く考えたことがなかったのだが…。


「カホ先輩、モデルをやることになったきっかけって、何ですか?」


 気付いたら聞いていた。


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