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第56話 辺見章介 Ⅰ

 カホ先輩も扇も、俺が凛梨子にべた惚れって後輩に言っちゃいますか。

 いや間違っちゃいないんですけど。

 自分が言う分には全く抵抗はないんだけどさ、他人から言われちゃうとね。

 まあ、他人がそう思ってくれないと俺が言ってる意味ないんだけど…。


 俺は外山凛梨子が好きだ。


 それはそう、全くの事実だ。


 あんな可愛くて頭のいい子はいない。

 一緒にいるだけで楽しいが、話しているといつも新鮮な驚きをくれる。


 たまに、凛梨子の悪口、特に体形に関していう奴、大抵は女子だが、いるけどそのふくよかささえ、愛おしくてたまらない。


 生徒会に誘ったのは俺だが、それも凛梨子にふさわしい姿だと思ったからだ。


 生徒会に入るような人は、基本的には人のためを思ってるやつらが多い。

 そんな中なら十分凛梨子の才能を生かせると踏んだからだが、すでに会計業務のあらかたの効率を上げていた。


 永倉君は内部進学でしかも生徒会での会計を経験している。

 説明もそれほどいらなかったようだ。


 それと対照的なのが、笹木さんだ。


 さすがは首席と言った感じだが、中学時代はまったく生徒会には興味がなかったのではないかと思われる。


 生徒会の広報などという役職は本来なくてもいいものだ。

 実際問題、学内の対応においては従来の会長・書記・会計があれば事足りる。

 これは生徒会役員にとって最大の仕事が予算関連だからだ。

 予算を決定し、実際の使用状況の監督と、その報告会でもある生徒総会のみに関与している。

 であれば、さほどの人数はいらない。

 予算を配られた部活動・委員会がその職務を全うすればいいのだ。

 現在、各委員会、特に文化祭や体育祭などのイベントや、オープンキャンパスなどの学校側の管轄のものなど、生徒会役員が関わっているものが多くなってきたせいで、人数を必要とすることになった。


 そして、私立ゆえの厳しい校則で生徒の自主性や自由を縛っていると生徒側が考えた時に、その代表としての機能も有しているのである。


 学校側としては、言う事を聞く生徒だけの方が運営は楽だ。

 だが、それが公平に行われるほど教師や、理事といった大人たちは聖人君子ではない。

 だから、生徒総会の緊急動議に多くの生徒が賛成したのだ。


 その教師はただの痴漢の犯罪者だった。


 日照大の理事長の親戚筋の男性教師で、部活の指導と称して、数人の特定の女生徒にわいせつな行為を繰り返していた。

 他の教師に訴えても、大学理事長という後ろ盾に誰も女生徒たちを庇うものはいなかった。


 だが、前高校でも同様な行為を繰り返し、庇い切れなかったためのこの高校への転勤だったと後から聞いた。

 といっても、この伝説とも言われる、生徒総会の緊急動議が行われたのは俺たちがこの学校に入る前のことだった。


 この生徒会に入った時に、日照大付属千歳高校生徒会史なる綴りがあり、そこで初めてその事実を知ったぐらいだ。


 結果的にその生徒総会で緊急動議を発議した生徒の証拠はほぼ全生徒の支持を得た。

 もともとそんな犯罪者なのだが、そのわいせつ行為を、強制わいせつではなく、自由恋愛にすり替えようとしていた節はあった。

 が、生徒たちには人気がなく、さらに言えば嫌われていたため、いくらそんなこと言っても相手にはされなかった。


 といっても生徒総会に教師に対しての生殺与奪の力などあるわけがない。

 会長がいみじくも入学式で言ったように、この生徒総会の上に職員会議があり、生徒の相違であろうと潰すことはできるはずだった。

 だが、その教師は仲間の教師からも軽蔑の対象であった。

 さらに前の職場での不正行為もわかっていた。


 職員会議でも生徒総会で提示された証拠がそのまま使用され、辞職勧告の運びとなった。

 過去にも同様に糾弾されたその男性教師を大学理事長は庇い切れなかったようで、依願退職となったようだ。

 これが大人の汚さだとはわかっていた。

 本来なら刑事告訴の対象になるべき犯罪だと、俺は思っている。

 それが懲戒免職でなく依願退職となった。


 こういったことは今のところ後にも先にもこの1例だけだ。

 だが、こういうことが起こった時、生徒会が幅広く活動していることを生徒たちが知っていてくれれば、それは一つの力になりえる事例でもあったわけだ。


 今までの生徒会はこの教訓から、様々なイベントに関わっていく指針を打ち出し、その結果、多くの役職が必要になった。


 笹木さんは生徒会長になるつもりだと宣言した。


 来期は俺自身が立候補を予定してはいる。

 その時には今の会計か副会長として凛梨子を迎え、その実力をこの校内に広げるつもりだ。

 さらにこの日照大系列校でも名を広めていく。

 凛梨子が通常の力を出せば東大程度は簡単に入れるだろう。

 そうなると、その道に追いつくためには、俺もかなりの努力を要するとはわかっている。

 だがそれもまた、俺の楽しみでもある。


 まあ、俺自身のことは自分がよくわかってるからいいのだが、さて、笹木さんという高1女子だ。


 この子の頭の回転の良さは、少し喋っただけだが、よくわかった。

 凛梨子ほどではないものの、かなりの能力があり、彼女本人も十分理解している。

 であれば、わざわざ生徒会長などという大変な役職を目指す必要はないと思う。

 が、たぶん、彼女の環境に起因しているのだろうな。


 凛梨子が心配そうに位の可愛い大きな瞳を俺に向けてきた。


 変な思索に耽ってしまったようだ。

 と、思ったら指を誰もいないはずの教室を指していた。


 誰もいないはずの教室に二つの人影があった。

 先程まで一緒にいた二人。


 柊夏帆と宍倉彩音。


 凛梨子は興味を示し、その教室の中を盗み見るようにしていた。


 確かに深刻そうな話声が聞こえてきた。


 主に宍倉さんが話している。

 自分の身に起こったことと、生徒会室で言っていた男性を苦手としていること、そして白石光人との関係性。


 宍倉さんが白石君を好きということは充分わかっていることだが、柊夏帆先輩が白石君に固執していることは生徒会の役員のなかで共通認識となっている。

 その理由もわかっているが、その二人の話は少し意外であった。


 そして、それは大変興味深いものだったらしく、凛梨子の大きな瞳がそれを物語っていた。


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