第52話 生徒会役員カップル
「思ったより仕事は広範囲なんですね。」
「そうだね、言われてみると。とりあえずは月1回ある評議会がデビューってとこかな。」
御園先輩がそう言った。
塩入君と一緒かあ。
ちょっと憂鬱。
「第1回目ではあなたも評議員として参加してもらうけど、そこで議長、副議長の決定の後、書記として紹介されるからね。で、私たちの仕事をよく見ておくといいよ。私もそうやって覚えてきたんだよ。」
御園先輩が説明してくれて、よかったと思う。
無理して塩入君の横に座らなくていいわけだ。
少し頬が緩むのが自分でもわかった。
「あれ、今の説明でなんで嬉しそうな顔になるの?ちょっと不思議。」
やっぱり顔に出ちゃったか。
と言っても具体的なことは言えないな。
「私、本当は男の子ってちょっと苦手なんですよ。」
この発言に、解りやすく柊先輩が驚いた顔を私に向けた。
ええ、言いたいことは解ります、言いたいことは…。
「あんなに白石君と一緒にいて?」
そう思いますよね、絶対。
「光人君は特別なんですよ!他の男子も少しは慣れてきてますが、ちょっとうちの委員長は、ダメなんです。」
「えっ、宍倉さんって男子ダメなの?」
辺見先輩が、私たちの話を聞いていたらしい。
爽やかな笑顔を振りまいて近づいてきた。
その後ろから外山先輩がトコトコって感じで付いてくる。
「ああ、他の二人はもう先に返したよ。広報なんて多種多様な仕事だからね、ざっと説明して終わり。会計の永倉君に至っては中学でやってたから、説明することがそんなになかった。結構会計の仕事は中学と被ることが多いから、そこのところは彼もよく理解していたよ。」
ここにわざわざ来た辺見先輩にやっぱり変な顔をしてしまったんだろうな。
手早く自分たちの仕事が終わったことを、簡潔に説明した。
後ろの外山先輩が辺見先輩の袖をつかんでる。
これはどういう状況なんだろう?
「ああ、そういうことね、辺見君。璃梨ちゃんを安心させるために来たってわけだ。」
「それだけってわけじゃないですよ、カホ先輩。なんか宍倉さんが俺に対して、警戒心バリバリって感じでしたから。まあ、不良男子生徒に泣かされてれば、男性不信ってことも納得ですけどね。」
あちゃ~、やっぱり噂が変な形になってる。
いや、光人君が「女泣かせのクズ野郎」と言われることもダメだけど、さらに不良扱いとなると…。
「白石君は、不良ではないわよ?」
「あれ、やっぱりあの白石君か。知らないうちに不良がうちの美少女を脅して泣かしたって話を聞いたから、別のことかと思って。で、先の話を聞いてもしかしたらと思ったんだけど。例の話の別バージョンか。やっぱ、噂って怖いですね、先輩。」
微妙に含みを持った話方が気になるけど…。
それより後ろの外山先輩の頬がぷく~って感じで膨れてる。
いや、可愛いんですけど!
「ほら、辺見君。後ろの璃梨ちゃんが起こってるよ!不用意に可愛いとか他の女子に使うと。」
「あれ、いけね。」
そう言うと後ろを振り向いた。
みるみるそのふくれっ面というにはあまりにも可愛い起こり顔が笑顔に変わる。
あれ、辺見先輩、何もしゃべってないよね。
でも、急速に怒りが消えるって、いったいどんな魔法?
「まあ、凛梨子の機嫌のためにここに凛梨子を連れてきたのに、怒らせちゃだめですよね。という訳で僕の自慢の彼女ここに連れてきました。多分、モテモテの宍倉さんと僕がどうにかなっちゃうなんて、あり得ない妄想しちゃう可愛い彼女、外山凛々子が僕の愛する女の子です。というわけで、宍倉さん!僕に惚れるのはもちろんお互いのためではないので、よろしく。それと逆に僕にはこんなに可愛い恋人がいますので、変に警戒しなくても大丈夫だから。」
さて、この辺見先輩の思考回路ってどうなってるんだろう。
恋人の今後の不安の解消と私の警戒心を解きたいということは理解できた。
けれど、そこでこの言葉って、言ってて全くの恥じらいがない。
どころか自信満々!
聞いてるこっちが恥ずかしい。
「こういう子なのよ、辺見君は。外山凛々子っていう彼女にべた惚れで、それを全く隠さない。どころか油断すると、こういう風に周りに胸やけを起こすほどの誉め言葉をぶちまけてるの。ここまで言う必要はないと思うんだけどね。」
「だから逆に章介の人気は高くなっちゃってるんだよね。不思議。」
御園先輩が柊先輩の言葉を受けて、そうぼやく。
「そんな辺見君をいいと思ったんでしょう?」
小声で柊先輩が揶揄った。
慌てた御園先輩が、人差し指を立てて口の前に持っていて、「言うんじゃねえよ!」のアピール。
外山先輩には気づかれなかったみたい。
まあ、辺見先輩に必要以上の警戒はしなくていい半面、必要以上に接触しないようにしよう。
「了解しました、辺見先輩、外山先輩。ご結婚の際にはお知らせくださいね!祝電ってやつ、うちますので。」
「祝電!いいね。LIGNEでの祝福より味があるな、うん。」
辺見先輩は祝電が好きらしい。
「じゃあ、まあ、そういうことで。わかんないことあったら遠慮しないで聞いてね。これでも次期会長候補だからさ。」
そういう辺見先輩の脇を外山先輩が小突いた。
「ごめんね、宍倉さん。章介がこんな感じだから、私、心配で。いくら私だけって言われても、人気者の章介の隙をつく女性が出るんじゃないかと不安でしょうがないの。いやな思いをさせたらごめんなさい。先に謝っておくわ。」
少しふくよかな外山先輩は、自分の心情をしっかり把握していて、素直に好感が持てた。
そしてぱっと見、モテそうな彼氏を持つと、大変だと心底同情もした。




