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第5話 18禁

「で、放課後の文芸部の部室に来てほしいんだってさ。大丈夫か、白石?」


「放課後か。今日はまだ4時間目までだよな。というと、1時くらい?」


「そう、どうかな?ああ、一応念のため宍倉さんは連れてこないようにってこと、よろしく。」


 どんだけ俺とあやねるはワンパックだと思ってんだ、こいつら。


「一つ聞いていいか、須藤?なんであやねるはダメなんだ?」


「白石が絡んだ時の宍倉さんが単純に怖いから。お前にはわからないと思うけど。」


「まあ、多少はそんな感じだってことは理解してるよ。でもそれって、条件がありそうじゃん。俺と二人っきりを邪魔されるか、他に女性がいるとき?」


「わかってんじゃ、あ!」


 須藤が日向さんに腕をつねられていた。

 今のところは日向さんにそんなに悪い当たりはしてなかったと思うんだけどな、あやねるは。


(お前も文芸部ってところで気づけよ、光人!)


(何故に?)


(文芸部に彩ちゃんが来ると都合の悪いと思ってる人がいるってことだよ)


 親父がおかしなことを言ってきたな。

 何故だろう。


「それでね、白石君。私の今までの中で気に入ったものを持ってきたんだけど、それ以外で、須藤君の作品で閃いたものを作ってきたんだ。それも見て印象を聞きたいんだけど、いいかな?」


「うん、それは別に構わないんだけど、それって須藤の小説を読んどいたほうがいいのかな。それともまっさらな状態で見て、感想を言った方がいいのかな。」


 その質問は日向さんの想定外だったようだ。


 原作ありの映画なんかの場合、アニメでも実写でも原作を読んでると、自分が思い描いたイメージとのギャップに不満をぶちまける人たちがいる。

 確かに原作を蔑ろにする人たちもいるんだけど、原作をリスペクトするうえで、時間や予算と言ったものが影響することも否めない。

 原作を読んでいなければ楽しめる映画と言ったものも確かに存在するし、逆に違う視点で見るのも楽しかったりする。


 須藤の小説に感化されて何かしらの作品を創造したのなら、俺は原作を知らない状態の方がいいのかもしれないと思ったんだけど…。


「そうね。私はどっちでもいいんだけど、今から読むっていうのも酷な気がするんで、まっさらな立場で見て、印象を教えてくれると嬉しいかな。」


 そう言った日向さんが俺に戸惑うような笑みを向ける。


 あれ、なんか可愛い。


 長身でショートカット、細身の体は、どちらかというと芯の強いかっこいい女性に見えていたんだけど、こんな表情もできるんだ。

 ああ、そうか。自分の好きなものには一生懸命で、でもその好きなことに対する他人の感想は聞きたいような聞きたくないような感じかな。


「じゃあ、須藤と一緒に放課後、文芸部に行くよ。あれ、でも、テスト前ってことで部活は禁止じゃないのかな?」


 俺が疑問に思ったことを須藤に振った。


「運動部は全面禁止らしいけど、文科系は部室で勉強する分にはいいらしい。土曜に大島先輩たちいたしね。」


「なんかゆるいな、それ。」


「それが文科系のいいところだよ。もっとも電脳部は完全に部室に立ち入りが禁止されてるってさ。」


 そりゃ、そうだろう。

 ゲームをする部なんだからな。


 予鈴が鳴った。


「じゃあ、そういうことでお願いね。」


 日向さんがそう言い、俺と須藤の入ろうとするドアとは別の方に歩いて行った。


 完全に対あやねるフォーメーションって感じ。


「入ったばかりだろうけど、他に新入生って文芸部に入ってんの?」


「まだテスト前だからね。たぶん正式には俺だけかな?俺たち1年は受けるだけって感じらしいけど、2年以上はその成績で日照大の推薦がかかっているから、かなり真剣らしい。と言っても特進クラスの人たちは別の難関大学が目標だから、切羽詰まった感じはないみたいだけどね。」


「そういえば2年生って、特進クラスだったもんな。」


 そんなことを言いながら自分たちの席に着く。


「ねえ、何の話をしていたの?」


 あやねるが少し拗ねたように問いかけてきた。

 う~ん、どう言って誤魔化そうか?


「ああ、男同士の話。あんまり女子には聞かれたくな…いんです、ごめんなさい。」


 元気よくしゃべり始めたかと思ったら、急に尻すぼみ。

 ちらっとあやねるを見ると、笑っているようでいて凄みのある表情。

 例えがあってるかわからないけど、悪い遊びに誘おうとした子の親に見つかった感じかな、こりゃあ。


「大した話ではないんだが、須藤が小説を書いてるのは知ってるだろう。」


「うん、日向さんに貸してたよね、金曜日ごろ。」


「そう。で、須藤が18禁の小説を書き始めたって言って来てさ。」


 あやねるの瞳から光が消え、冷たい視線に移行。

 ああ、懐かしい、この感じ。

 つい数か月前までの静海が俺を見る目と一緒だ。


「須藤君ってそんな人なんだ、最低。」


 ある意味、ヲタクの方々をバッサリと切る言葉の刃。

 須藤、頑張ってくれ。


 その刃で切られ瀕死の状態のはずの須藤君が、俺を睨みつけてきた。


「まさか、光人君も、そ、そういうの、好きなの?」


 好きって正直に言った方がいいんかな、猫被った方がいいのかな。


 なんて思ってると、チャイムが鳴り、岡崎先生が登場した。


「ほら、ショートホームルーム始めっからな、席付け‼」


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