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第48話 文芸部のその後 Ⅳ 大塚詩織

 意地っ張りで一直線の裕美が、ほぼ初めての恋を認めた。


 単純に「女泣かせのクズ野郎」と呼ばれていた男子が、実は優しいなんてギャップが裕美の初恋に火をつけてしまったようだ。

 が、すでに相手がいた。

 いや、いたらよかったのだが、二人の距離は微妙だった。

 付き合ってはいないらしい。

 だが女子の方は、かなり光人君にべったりだ。

 どうも事情がありそうだが、この女子、私から見ても可愛いと思う。


 裕美も十分に可愛い範疇だが、いかんせん、アクティブすぎる。


 同じように活発な男の子なら相性もいいのだろうけど、この光人君、どちらかというとおとなしい部類。


 違うな、この表現。


 大人っぽい落ち着き、と言い換えあた方がしっくりする。


 やっていることは高校生なんだけど、醸し出している雰囲気が、少しどころか、かなりの落ち着きが感じられる。


 何をどうすれば、こういう雰囲気を15歳くらいの男子に出せるのかってくらいに。


 父親を亡くして、急激に成長しなければならい環境ではあったらしいが、そう言ったことではないと思う。


 それこそ酸いも甘いも噛みしめてきたような経験があって、初めて出せる空気、っていう感じだ。


 なんて、えらそうに思ったけど、私だって16年しか生きてないし、恋愛経験関しては裕美と50歩100歩ていう感じ。

 唯一裕美に勝てることといえば、中学時代に密かに他校の先輩と付き合ってファーストキスはクリアしたってことくらい。

 でも、あんまり胸を張って言えることではない。

 他校の先輩といっても、ただの幼馴染で、恋愛ってものがよくわからず、試しに付き合って、興味本位でキスをチュッて感じで軽くした。

 その時のことが恥ずかしくて、お互い顔を合わせてもそっぽを向く感じで自然消滅。


 まあ、恥ずかしいから絶対他人には言えないけどね。


 実際問題として、ブン君が入部してくれたのはいいんだけど、せめて後二人、新入部員が欲しいところ。

 去年みたいなことが起こらないようにするには、確実に毎年3人くらいは入部する新入生を確保したいと思ってる。


 自分たちが特進クラスだから、この文芸部みたいに緩いところは都合がいい。

 7時間から多い時には8時間目まである時間割だと、運動部に所属するのは正直しんどいし、吹奏楽や演劇も同様に練習時間を取れない。

 その分、この文芸部は最低読書好きで、1年に1度の文化祭に推しの小説を紹介してくれればいいという、白石君に説明したとおりの条件をクリアしてくれればいいのだ。

 本気でやる運動部ほど、内申点は稼げないけど、ないよりはましと思ってくれる新入生がいればいいんだけど。


 でも本格的に活動してるイラストレーター雅楽こと日向雅さんが本当に入ってくれると、文化祭も、部報もかなり彩が出る。

 出来れば光人君も入ってくれれば、男子も増えて、来年の新入部員の勧誘もかなり敷居が低くなるんじゃないかな、なんて考えも出てくるんだけど…。


 逆に白石光人の存在が、この文芸部の内輪もめを起こす要因にもなるかな。


 裕美が片思いなのはいいけど、基本アクティブな裕美はいろんなところでぶつかりやすい。

 今のところ、クリエイティブな分野でのことだからその衝突はいい結果を出してる。

 ただ、これが嫉妬みたいなネガティブなことになると、ちょっと心配になっちゃうな。


「そのテンプレって単語はやめろ、ブン。」


 裕美に対して、顔合わせでは委縮していたようなブン君も、今で測る愚痴を叩けるほど打ち解けた印象だ。

 いい傾向だと思う。


 小説を読むのも書くのも好きなこの少年には、実は少し期待している。


 ツグミほどの人気が「作家になるべき」で結果を出せるかはわからないけど、楽しく書くことを知ってるなら、来年の文化祭くらいは大丈夫と思えてしまう。


 去年の騒動があったためか、部長という責任を持ってしまって、まず健全な部の存続ということを考えてしまい、ここのところは緊張してしまってる。

 学力テスト明け、または親睦旅行明けにいつもなら決まっていなかった部活動入部が活発化してくる。

 今年はもう少し興味を持ってくれる人がいるといいんだけど。


 ブン君に対して、いつもの迫力を出せない裕美が日向さんに突っ込まれてるこの景色を眺めながら、私は、きっと大丈夫!と自分に言い聞かせていた。


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