第47話 文芸部のその後 Ⅲ 有坂裕美
「白石は「女泣かせのクズ野郎」なのに、本当にモテモテですね。」
ブンのバカが調子に乗ってそんなことをほざく。
うっせいわ!
大声でどなろうとしたが、声が出なかった。
「裕美も大概意固地だからな。今朝、光人君を連れてくるようにブン君に頼んでおいて、その態度はないだろう?」
詩織の言ってることはもっともだ。
私が光人に会いたいという気持ちを汲んでくれている。
そして雅もその気持ちゆえに、わざわざここで自分のイラストを見せることにした。
すべては新入生の白石光人をこの文芸部の部室に連れてくるために。
しかも、いつもくっついている宍倉という女子生徒を引き離したうえで…。
まさか、あんなイケメンの友人がいることは知らなかったが、その点は問題ない。
さらに、光人をこの文芸部に入部させようとまでしてくれた。
あの様子では本当に入部するかどうかはわからない。
だけど、一つの選択肢として頭に入れることはできたのではないかとは思う。
雅と詩織にこの気持ちがばれていることは仕方がない。
そうしないと、ゼンゼン先には進めない気がしたから。
だが、こいつ!
鈍くて陰キャ代表のようなこいつ!
須藤文行に、薄ら笑いを浮かべて見下されるのは、本当に腹立たしい。
しかも、こいつは光人の友人だ。
今のところ、かなり露骨な攻めにも、光人の奴はあたしの想いを知らない。
知らないはずだ…。
いや、絶対知られてはいけない。
ブンの話では、あの宍倉って女子は生徒会に入ったらしい。
とすれば、この部に光人が入ってくれれば、この想いを先に進めるチャンスもあるかもしれない、と思ってしまう。
結局のところ、雅も光人とお近づきにはなってくれたらしいが、ブンの力は必要ではある。
そういう意味では、しっかりと話すべきなのだろうが…。
本当にこいつのにやにやした顔はむかつく。
「有坂は本当のところどうしたいんだ。お前に気を利かせて、今回白石君を連れてきた。だが、今回のように彼単体でここまで連れてくるのは、かなりハードルが高い。」
「有坂先輩。白石に見惚れていたいだけなら、どうとでもできますが、その先を考えているとしたら、本人に真剣身がないとどうしようもないんですよ。」
雅とブンからあたしの本気度を試されているようだ。
そりゃあ、あたしだって花の高校2年生女子として、好きな人と二人っきりでデートなんかしたりしたい。
付き合いたい。
キスだって、その先だって…。
「ああ、有坂が妄想モードに突入したな。」
「そうね。この顔は恋愛の果てのエッチな妄想まで行ってる気がする。妙に頬が赤いし、目のあたりがとろけて、鼻の穴が広がってる。」
雅と詩織の言葉に我に返った。
ブンが硬直してる。
「ちょっと、変なこと言わないでよ!ブンも今すぐ耳を潰して、意識を絶って!」
「そ、それ、何ですか!僕に死ねと?」
「とっとと、その存在自体消し去って!」
いや、自分でも酷いと思うよ、この言葉。
でもさ、乙女の秘部を覗き見るようなことする男はこの世から消え去れって、本気で思う。
「まあまあ、裕美ちゃん。それはさすがにどうかな?このブン君、光人君との最後の頼みの綱なんだよ?いなくなっちゃってもいいのかな?」
「うぐぐぐ。」
人の一番痛いところ突いてきて。
「いなくならなくても、裕美ちゃんに苦手意識持っちゃうと、気軽に話すことも、頼むことも出来なくなるよ?」
「く~。あたしの弱いとこじゃんかよ。」
「さらに白石君情報が、全く裕美には入らなくなるよ。」
「そ、それは……、困る。」
本当に震えて少し身を固くしているブンが、あたしを魔王か何かのような眼で見ている気がしてきた。
「だとしたら、裕美は今、何をすべきなのかな?」
「ごめんなさい。酷いことを言ってしまいました。」
あたしは素直に震えて小さくなっているブンに、謝罪の言葉をはいた。
「私が変な妄想をしたことで、周りにご迷惑を掛けました、くらいのことは言いなさいよ。」
「あたしが変な妄想…、って何言わせんだよ、詩織!」
「ちっ、気付きやがった。」
危うく変な事を言わせられるとこだった。
ン、今、雅の手元が動いたようだが…。
「おい、雅!録音なんかすんじゃねえよ!」
「あ、ばれたか。もう少ししゃべってくれると面白いものが録れたんだがな。」
本当に危ういとこだった。
雅には本当に気が抜けない。
「あの…、もう、僕帰ってもいいでしょうか?」
居場所がなさそうにしているブンが、そう口に出した。
確かに女子3人の会話に引きずり込んだようで、申し訳ないとは思っている。
思っているが…。
「まだだめだ。」
「えっ、そんなあ~。」
あたしの言葉に、さすがに可哀想だろうと、詩織と雅の視線が物語っている。
「とりあえず、ブンは今、この場で聞いたことを誰にも言わないこと!」
あたしのその物言いに、雅と詩織が納得したような顔になった。
そう、まずこいつにしっかりと口止めをしておかないと。
「えっ、ええ、それは、重々わかっています。副部長が白石を好きで、宍倉さんとの仲をどうにか壊したい、などということは絶対他人には喋りません。」
「ちょっと待て!お前はあたしを何だと思ってるんだ!」
「えっと、恋に盲目になり邪魔するものは全て葬り去る狂戦士?」
とんでもないことを追いやがるな、こいつ。
さっきまであたしに震えていたんじゃないのか?
その言葉に、何故ほかの二人は頷いている?
「まあ、そんなとこだから、ブン君は他言無用だよ。」
「白石君には絶対悟られないように!」
さらにそんなことを言わんでいい!
「お前らはあたしを何だと思ってるんだ。とりあえず、私が好きだなんてことを言うなってこと。それと、極力あたしが光人と会えるように協力することだ。わかったな、ブン。」
「やっぱり、テンプレのツンデレってことですね!了解です。」
ブンの言葉に、雅と詩織が大声で笑った。