第46話 文芸部のその後 Ⅱ 日向雅
まあ、さすがに小説を書いてるだけあって、須藤君の妄想という名の現状説明はうまい。
そして私のツボにはまった。
久方ぶりにケラケラと笑ってしまい、真っ赤になって俯いている有坂以外の他の2人から奇異な目で見られた。
そう、この変な笑いをしてしまうので、極力私は人前で笑わないように努めていたんだけど…。
結果的にはよく言えばクールビューティー、悪く言えば心まで氷の冷血女と前の学校で呼ばれることになってしまった。
ついさっきまでこの笑い方を知っているのは有坂だけだったのだけれども。
それでも須藤君の言ってることは正しいし、それに正解と告げた大塚部長も正しい。
有坂は新入生の白石君に、ほぼ一目惚れをしてしまった。
何がきっかけかはよくわからないが、「女泣かせのクズ野郎」という噂話が有坂の心に引っかかったのは事実だろう。
そして、あの部活動紹介での度々の絡み。
私の拍手に呼応するように拍手をする彼。
意識し始めた時の彼女の存在、か。
まあ、初心な有坂なら、ころりといっちゃったんだろうな。
そしてコウと思うと一直線の気性か。
でも、恋愛経験値の絶対的不足。
うん、これは面白い。
有坂がどう成長していくのか、楽しみね、うふ。
「わかんない振りして、よくわかってんじゃない、ブン君。」
「そんなことないですよ、部長。」
「そ、そうだよ、言いがかりだ、ブン。」
赤い顔のまま、そう文句を言う有坂だが、そこにはいつもの勢いはない。
図星もいいところだからな。
「最初からわかってたわけじゃないですよ。今日のいろいろな事からそうじゃないかと思ったら、そのことを裏付ける有坂先輩の行動を思い出しただけです。」
おや、まあ。
テンプレとか言って説明してたけど、完全に有坂の行動を追ったわけだね。
そういう事情に疎そうな須藤君ですらわかるんだから、本人もわかってるのかしら。
でも、今日の態度を見る限り、わかってない、というよりわかりたくない雰囲気だったな、あれ。
実際に宍倉さんとどういう仲か知らないけど、仲良しなのは間違いない。
しかも、かなり宍倉さんからアプローチしているのは確かなんだけど…。
白石君本人の心が今一つわかんないんだよな。
佐藤君は見るからにモテそうだけど、今のところ女子には一線引いてる感じ。
彼自身に何があったかは知らないけど、白石君を適当にいじって喜んでる節がある。
そこら辺は男同士の感覚なのか、あの二人が仲がいいのもちょっと不思議なんだよな。
須藤君と白石君は同じ色を持ってるっぽいから、仲がいいのも頷けるけど。
さて、ここで白石君がこの部に入るとちょっと面白い、なんて思う私は親友である有坂からすると「ワル」ってことになっちゃうかな?
応援はするけど、強制的に気持ちを押し付けるってのは、なしだよね。
うまくいくに越したことは無いけど、失恋した時は思いっきり慰めてあげようっと。
「まあ、ブン君のそのテンプレはそのまんま、今の裕美の心情をよく表現してるよ。しかも、その恋のお相手にはすでにパートナーがいるらしい、なんて本当にラブコメを地で行ってるよね!」
「ちょ、ちょっと、詩織!あんた何言ってんの。その、大体、光人のことなんて、わ、私は、何とも思ってないよ!あんな「女泣かせのクズ野郎」のことなんて!」
「そうだね、裕美。本当に光人君は「女泣かせのクズ野郎」だよね。こんなかわいい裕美を泣かせちゃってねえ。」
うん、揶揄いたい気持ちはよくわかりますよ、大塚部長。
でも、やり過ぎると、本当に有坂泣いちゃうからね。
ほら、自分で否定すればするほど、自分が情けなくなっちゃって、少し涙目。
泣くのが早いか、開き直るのが早いか。
「大塚部長も、その辺にしといてあげてください。有坂のことよく知ってるでしょう?この子、恋愛経験ないから、妄想で恋愛小説書いちゃうんですよ?」
「そうなのよね。だから電脳部からダメ出し喰らっちゃうんだよ。基本的に小説のネタは面白そうなのに、過度に恋愛要素ぶち込むからさ。さらにはBLに走っちゃうと、そりゃあ健全な男子高校生、ドン引き!」
「し、詩織…、その話、ここでしなくて、よくない?ブン、いるんだよ?」
少し涙目のまま、自分の白石君の恋慕の気持ちから話がずれて、少し落ち着いたと思ったら、変な性癖を言われ、あまつさえここにその健全な男子高校生の須藤君がいることを思い出して、部長に弱く抗議してきた。
結構恋愛小説好きで、BLも好きだと知ってる私たちはそれほどのこともないけど、男子にはちょっと抵抗あるよね、この話。
「ああ、別に読みはしませんけど、BLネタは大丈夫っす。ギャル先輩、ガンバ、ってとこです。」
「ギャル先輩、言うな!」
か弱い抗議を口にする有坂。
こういうとこ、可愛いんだよな。