第44話 柊先輩と伊乃莉についての考察
駅で美女3人と別れ、さらにあやねるの荷物から解放され、電車の席で座ってぐったりしていた。
3人は同じ地下鉄で一緒に帰るらしい。
大丈夫だろうか?
別れるときにあやねるが置いて行かれる子犬のような表情になっていたけど…。
(さすがにまたあやねるを送り届けるのは、正直しんどいからな)
(修業中の身で何を言ってるんだ、光人?)
(いやさすがにあの美女軍団の中にいるだけでも充分つらいよ)
(それは、確かに。お前さんがイケメン佐藤君ぐらいの経験でもないとな)
(ついこの間まで、ほぼ引きこもり状態だったんだぜ、俺。あやねると歩いてるときでさえ、きつい視線を浴びてたんだ。そこに伊乃莉と柊先輩がいるってさあ)
ため息が出る。
彼女らと同じくらいの自信を身につけないと、精神的にしんどい。
さらにあの状態で変な男に関わるとなると…。
(それを言ったら男のいない今の状態の方がもっと危険なのではないか、光人)
(そうも思ったけど…。でもさ、あのメンバーの出す威圧感は半端ないよ。普通の男は声なんかかけられないよ。でも、俺のような陰キャフツメンがいて見ろよ。あいつが大丈夫なら俺でもってやつ、絶対出てくるから。それに女子だけなら柊先輩も伊乃莉も十分対応できそうな気がする)
(言いたいことは解るんだが…。伊乃莉ちゃんなんかは、昨日絡まれてた時には結構怖がっていなかったか?)
(日曜のにぎやかな場所だからな。でも電車内でのその手の騒動、ないとは言えないけど、確率はかなり低くなると思うよ)
(最近思うんだが、光人はいつもそんなことを思っていたのか?高校生が考えるにしてはやけに冷静な分析に思えるんだが)
(いや、どうだろう?詩瑠区との一件以来、人とのコミュニケーションは極力控えてどうでもいいことばかり考えてた意識はあるけど)
しばし、沈黙。親父が何考えてるかわからない。
俺の思考は完全駄々洩れなのに、なんで親父の考えは読めないんだ?
(やっぱり私の影響かな、そんなに冷静なこと、考えられるのは)
(そう、なのか?)
(おそらくな。こういう風に脳内で会話すること自体、脳の活性化を促している側面は考えあられるからな。まあ、確かに通学の電車ではそうそうなにかは起きないということは、賛成だな。どちらかと言えば、昨日のようなことが珍しいだろう。声かけられても、声を掛けた方が芽がなければすぐに引くもんだし。特にあれだけの美少女たちに声を掛けるってのは、なかなかハードルが高い)
(それは納得)
先程の疲れが少し取れてきたところで、ちょうど乗り換え。
さらに空いた車内。
この時間は帰宅のピークにはまだ早い。
(それにしても、柊さんと伊乃莉ちゃん、やけに喧嘩腰に近い対応だったな、光人)
珍しいことを親父が言ってきた。
確かに、伊乃莉がやけに好戦的に見えた。
もっとも、担任の岡崎先生との所見の態度もひどかったから、慣れるまではあんな感じなのかもしれない。
(そう、好戦的って言葉が一番しっくりするな。通常、自分の高校の女子の先輩に同性であんな態度はとらないと思うな。私の経験上)
(ン、親父はそんなに女性経験、あるのか?)
(なんだ、その言い方。明らかに悪意を感じるぞ、童貞光人君)
(うるさいわ!普通にお付き合いした女性がそんなにいたのかって話だろう?)
(ほぼない!舞子さん以外は数名だ!)
(それで女性心理を語るとは、肩腹が痛い)
(そう言われると何も反論できないんだが…。とにかく伊乃莉ちゃんの態度が、やけにきつかったのは事実だろう?)
(そりゃあ、そうだけど…。でも、あんなもんじゃないの?初めてあった人には)
(普通の人ならな。だが、今回来た人はあの柊さんだ。ファッション誌でも活躍する読モの柊夏帆、KAHOだぞ。普通の女子高生なら、あんな態度はとらん。ミーハーな子ならキャーキャー黄色い声の大合唱。普通の女子でも憧れの目で見るはずだよ)
(言われてみれば)
(普通なら憧れの美貌の先輩。敵対するにはあまりにも尊く遠い存在。そのはずだが、伊乃莉ちゃんにとっては、敵に近い存在で、守らなければいけない存在、もしくは物がある。そういう心持じゃないかと、私は思ってる)
(その護るべき存在って?あやねるのこと?)
(それもあるとは思うけど…。後は光人自身が考える問題かな。親としてはここまでしか言えない)
(なんだよ、それ。親としてって…)
(自分の問題は自分で考えろってことだよ。それが思春期ってもんだ)
(えっ、さっきのあの二人の笑顔の下で行われた言葉の応酬に、俺が関係してるのか?)
(おお、もう伊薙駅か。早く降りる支度をしよう)
(露骨に話を変えやがって)
電車が伊薙駅のホームに着いた。