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第43話 戦場のファミレス

「私は卒業式の後、嫌がらせを受けました。光人君には話したけど、夏休みの痴漢事件の後にからかわれた男の子に……。本当に、いやな思いでしかないですね。伊之助や友人がいてくれてよかったけど…。」


「ふーん、あんまり話したくないんだね、宍倉さん。そうだよね、変に告白されるのも嫌だけど、嫌がらせする奴もいるよね。あれ、何の話だっけ?」


 変な方向に話が行ってしまってることに柊先輩も気付いたようだ。


 卒業式の嫌な思い出大会をしていたわけじゃない。


「ああ、須藤の話だったね。何だっけ?…、そうそう、卒業式の日に学校の校門の前で待っている女の子の話。」


「景樹はそんな経験あるのか?」


「そこでなんで、俺の話になるんだよ!あくまでも須藤の小説のネタだろう?」


 自分で振っておいて何言ってやがる、という感じの睨みを、振り返った景樹の瞳が語っている。

 文芸部での話を正直に言えないのは、景樹でなく俺の方だから、突っ込みすぎるのはよくないことだ。


 柊先輩は相変わらず、俺たちの会話を楽しそうに聞いている。

 この姿を見ていると、なにも隠し事は無いように感じてしまうんだが…。


 もう直ぐ終着の北習橋駅に着く。


 俺たちの会話、というより柊先輩の声に聞きほれている人たちも、急に前を見て降りる準備に入っていた。


「そろそろだね。でも、光人君大丈夫?」


 当然、あやねるの荷物を持って、伊乃莉のとこまで行かなければならない。

 さらにそこかっら駅までか…。

 いや、俺は大丈夫!大丈夫なはず…。


「ああ、大丈夫だよ。」


 その言葉と同時に、車体が減速、ゆっくりとバス停に留まった。


「じゃあ、俺は先に帰るな。柊先輩もお気をつけて。」


 そう言って元気に駅に向かった。


「宍倉さんの帰る電車って、なに使ってるの?」


 柊先輩が聞いてきた。


 俺は自分を励ましながらあやねるの荷物を担いでいる。

 背中には当然自分の荷物がある。


「私は友人の鈴木伊乃莉と地下鉄使ってます。門前仲町が最寄です。」


「それじゃあ、途中まで一緒だね。宍倉さん、その友人さんのとこに一緒に行っていいかしら?」


 さて、この美人な先輩は何を考えているのでしょうか?


 あやねるはしばし考える風な態度を取った。


「ええ、大丈夫だと思います。友人のいのすけはいろんな人と会えるのを楽しみにしているところがありますから!」


 あやねるが元気にそう答えた。


 さて、この可愛い女子は何を考えているのでしょう?


 俺には女子の考えていることがさっぱりわからない。


 当然、柊先輩も景樹と一緒に駅に向かうのかと思った。

 仮に、あやねると沿線が一緒でも、わざわざほかの友人がいるとこに行くとは思わなかった。

 そして、この柊先輩の申し出に、あやねるが応じるとも思わなかった。

 おそらく何らかの意図があるんだろうけど…。


 伊乃莉はバス停近くのビルの2階にあるファミレスで、4人用のテーブル席に座って紅茶を飲んでいた。


 俺たちを見つけて手を振ったが、その中の一人を見つけ、明らかに訝しんだ表情を浮かべた。


「いのすけ、お待たせ!」


 あやねるはまだ一人で電車に乗ることができない。

 そのため伊乃莉は駅の近くで待つ必要があった。

 昨日の件でもわかっていることだが、伊乃莉も十分美しい女子高生だ。

 この駅が自分たちの高校の最寄り駅でもあるから同じニッチ校の生徒もそこそこいるけれども、一人でお茶してる可愛い女子がいれば声を掛けてくる輩もいると思うんだが。

 昨日のような化粧をしていなくても危機感は持っていてもよさそうなんだけど、そういうとこが見られない。

 謎だ。


「うん、待ったぞ、あやねる。まあ、さっきまで同じクラスの女子と一緒にお茶してたから、変な男どもが寄ってくることは無かったけど。」


 そう言って、俺の後ろの美貌の女子に目を移し、軽く頭を下げる。


「柊先輩、ですよね。初めまして。」


「初めまして、いのすけさん。」


 そう答えた柊先輩の挨拶に、こちらもびっくりするような、驚きの表情を伊乃莉が見せた。

 そして、素知らぬ顔でそっぽを向いたあやねるに超高速で首を振る。


「あやねる!あんた、先輩に何を教えてるの!」


 うん、ちょっと声が大きいよ、伊乃莉さん。

 ほら、周りの人がこっちを見て、さらに美少女が集まってることに男性のお客さんの鼻の下がちょっと伸びてる。

 かと思ったら冷たい視線が俺に刺さった。

 なるほど。

 この美少女と一緒にいるこの陰キャが目障りだと。


「ああ、まあ、落ち着いて。別にいのすけの呼び方をわざわざ先輩に教えたわけじゃないよ。私がそう呼んだから、親愛の情のつもりだと思うんだよ。」


「あら、いのすけッてニックネームではないの?」


 確か、そう呼ばれるのを許しているのは、あやねるだけだったよな。


「まあ、立っていても迷惑かかるから、みんな座ろう。」


 俺は持っている荷物に耐えられなくなってきたので、他の美少女たちに座るように促した。


「そうね、ちょっとお邪魔するね。」

 そう言って、先輩がすぐに伊乃莉の体面の席に座ってしまう。

 あやねるが、先輩の行動に何か言おうとしたが、仕方なさそうに伊乃莉の隣に座った。

 必然的に俺が柊先輩の横に座る。あやねるの視線が少し怖い。


「改めて自己紹介するね。柊夏帆、生徒会で書記を務める3年です。宍倉さんの先輩で白石君の友人です。よろしく、鈴木伊乃莉さん。」


 ドリンクバーを3人分頼み、俺はコーラを、あやねるはココア、先輩はアイスティーを持ってきて着席して、すぐ先輩が自己紹介をした。


「じゃあ、私のことをどこまで宍倉彩音から聞いてるか分かりませんけど、1-Fの鈴木伊乃莉です。どう呼んでいただいてもいいのですが、いのすけだけはやめてください。よろしくです。」


「やっぱり可愛い子の友人は思った通り。というかそれ以上に綺麗ね。多分、お化粧好きよね、伊乃莉さん?」


「あ、はい。綺麗なものは好きな方だと思いますが…。でも、大抵の女子は綺麗な物や可愛いものが好きなのではないですか?」


 うん、伊乃莉に同意。

 まあ、たまにマニアックな趣味の方はいらっしゃるるのは、男女とも一緒か。


「そうね、大抵。でもね、おなじ好きでも、その対象が違ったりするの。きっと、分かってるわね。」


「フー、先輩って、とぼけたふりして、結構人の心にずかずかと踏み込んできますね。」


 少しため息とも、リラックスするための方法ともとれる息を吐いて伊乃莉が先輩に向かって、結構攻撃的なことを言った。


 ここはどこかの戦場でしょうか?

 言葉という砲弾が行きかってるような気がするんですけど。


(なんで光人はこの場にいるんだ?)


(それは俺が聞きたい)


「つまり解ってるという事ね、伊乃莉さん。その対象が、自分か、それ以外か、という事が。」


「先輩も、そうみたいですね。あの写真部が見せてくれた写真は衝撃でしたよ。」


「そう言ってくれると、私も恥をかいた甲斐があるわね。きっと赤越さん、あの写真を撮ったプロのカメラマンなんだけど、紹介したら喜びそうだわ。」


「それはちょっと遠慮させてもらいます。」


 この言葉には柊先輩が意外な顔をした。


「あら、あなたならきっと撮ってもらいたいと思ったんだけど。」


「そのまま先輩の話に乗るのは、なんとなく癪に思えましたんで。」


 その言葉の柊先輩が笑った。

 その笑いは俺がこの先輩を知った時から始めてみる種の笑みだった。


 妖艶な笑み。

 悪魔的と言っていいかもしれない。


 いつもどちらかと言えば天使の微笑みのイメージがあっただけに、この笑みは背筋が凍るとともに、異常に惹きつけられる笑顔だった。


 そう、だからこそ、この人がもう一歩信じられないのだ。


「光人君、大丈夫?ちょっと顔が怖い。」


 あやねるが心配そうに俺に囁いてきた。


 やっぱり心情が顔に出てしまうたちのようだ。


「ああ、別に大丈夫だよ。この二人が本気のメイクでランウェイを歩いたときのことを考えたら、ちょっと怖くなっただけ。」


「えっ、そんなこと妄想してたの!」


 あやねるに妄想と言われてしまった。


「あら、光人君も面白いことを夢想してるのね。あんまり、そういったファッション関係の事、関心なさそうだったけど。」


「本当。光人がそんな事言うとは思わなかった。景樹の影響?」


 伊乃莉が急に景樹の話題を振ってきた。


 そうだった。

 ついさっき、景樹にモデルを誘われてたんだっけ。


「景樹君?彼、そういう事得意なの?」


 柊先輩が不思議そうに聞いてきた。


 あの爽やかイケメンぶりを見ても、全く関心を寄せてなかったからな。

 でも、奴の実家のことは言わないほうがいいよな。

 こういうことは本人の許可がいるもんな。


「得意な方だと思いますよ。綺麗なお姉さんがいるって話ですし。機会があったら聞いてみると面白いんじゃないんですか。きっと先輩と話し合いますよ。」


 芸能事務所の息子で、姉は現役のモデル。

 下手すりゃ、お姉さんと先輩も面識があるかもしれない。


 なんとも和気あいあいという感じではなかったが、盛り上がったのは間違いない。


 ドリンクを2,3杯飲んで帰ることになった。


 俺はとりあえずあやねるの荷物を持って駅までたどり着いた。

 伊乃莉にはなぜ自分のは持ってくれないのか、などと小言を聞き流しながら…。


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