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第42話 卒業式の話

 バスが来た。


 さあ、もうひと頑張りだ。


 あやねるのバッグを持ち上げ、バスに乗り込む。


「ごめんね、白石君。」


「だ、大丈夫だよ、これくらい。」


 いかん、本当にしんどい。これからはきちんと身体鍛えよう。

 まずは筋トレから。


 何とか座席を確保。

 二人席を2つ。

 あれ?なんで俺の隣にあやねるがいるんだ?


「気遣いのできる男、佐藤景樹。そこんとこよろしくね、宍倉さん。」


「ありがとう、佐藤君。」


「いや、なんで、景樹、先輩と座ってんの?」


 普通に前と後ろで会話してるあやねると景樹に聞いてしまった。


「だって、光人さ。宍倉さんの荷物持ってんだからこうなるのは普通じゃね?」


 確かに、言われてみれば。

 そうなんだけど…。


「私と一緒って、いや?」


 少し拗ねた感じのあやねる。

 上目遣いのその表情は、一般高1男子には凶器です。


(ほう、ここで童貞を強調しないとは…。お父さんの知らないうちに大人の階段を上っていたか)


(すいません、見栄を張りました)


(おお、わが息子は素直でよろしい)


(このくそ親父!)


(う、反抗期か)


「いやなわけじゃないよ、あやねる。ただ柊先輩、景樹のこと知らないようだったし、この場合はあやねるが先輩と座るかと思ったんだよ。」


「そうか…。でも、打たれ強いから、佐藤君大丈夫そうだよ。」


 ああ、柊先輩のことは別に心配してないんだね、あやねる。

 普通、あの美貌の女子に、見知らぬ男子をぶつけないと思うんですけど…。


(そこはそれ、彩ちゃんだから。柊さんと光人をくっつけたくはないんだろう?光人も嫌だろう、こういうとこでも柊さんと二人になるのは?)


(それはそうだけど、さ)


「ああ、光人。変な事考えなくても俺は大丈夫だよ。」


 これは、さっきの先輩に覚えらえてなくてショックを受けたことを何とかなかったことにしようとしてるな、うん


「私も初めての新入生とお話しできるのは、嬉しいから、変に心配しなくて、大丈夫だからね、白石君。」


 先輩がそう言って後ろに座っている俺に微笑んできた。


 この言葉に、景樹が地味に心を削られたのか、

 いつものオーラが霞んでる。これはこれで面白い。


(光人も微妙に嫌な奴になってるな)


(自覚はしてる。こういう負の感情が酷いと、いじめになるんだろうな。でも、景樹は強い子だから大丈夫)


(そのエビデンス、示してほしいね)


(なに、そのどこかの七福神っぽい単語)


(それは恵比須様。エビデンスは科学的根拠ってやつ)


(ほう、親父様のおかげでまた一つ頭良くなりました。ちなみにそのエビデンス?それは景樹だから)


(それはひどい)


「ま、まあ、俺も先輩、み、みたいな、綺麗な人と、一緒の機会ないから、嬉しい、からさ…。」


 それはおかしいね、景樹君。

 綺麗な伊乃莉をモデルに誘うような君が、美人に対してそう言う感想は言わないと思うけど。

 それはお世辞か、負け惜しみか。


「そうか。景樹が楽しいなら、それもいいよね。」


 景樹が、この言葉に少し険しい目を俺に向けてきた。


 俺は目を逸らす。


「駅前のファミレスでいのすけが待ってるからは、そこまで付き合ってね。」


 あやねるが可愛い笑顔を俺に向け、さらなる修行を突きつけてきた。

 これで最低、駅への直行の道が立たれた。

 自分でやったことだが、しかし、この教材たちの重さは異常だ。


「ああ、いいよ。佐藤はどうする?」


「鈴木さんね。もう話すことは無いから、あとは連絡待ちかな。ここで変にプッシュするとへそ曲げそうだし。」


「そういうもんか?」


「人によるけどな。」


 景樹自身が熱心に誘っているわけではなさそうだ。


「須藤君の小説って進んだの?」


「そういえばそんな話してたね。校門の前で待ってる女の子、だったかしら?」


 あやねるの問いかけに、柊先輩が昇降口での口から出まかせの話が出てきた。


「そういえばそんな話だったね、光人君。」


「うん、どうもその女の子の行動についてなんだけどね。なあ、景樹。」


「う、うん。そう、そう。俺もそんな経験、あんまないから、さ。聞かれてもな?」


 軌道修正してきましたね、景樹君。

 さっき思いついて言ったはいいけど、突っ込まれたくないんですか?


「私は経験ないかな。先輩が卒業するときに人気の男子に女子が集まることはよくあったけど…。あっ、やなこと思い出した。」


 さっきは荷物運びに懸命で気付かなかったが、同乗してる人たちが、どうも柊先輩のこと、気にしてんな。

 男女問わず、どころか同じ高校だけじゃなく、普通に大人の人まで…。


 さすがは柊先輩だな。


「何かあったんですか?」


 あやねるは周りの視線を全く気にせず、そう先輩に聞いていた。


(これって、自分に視線が来てないことにかなりリラックスしてるってことかな?)


(光人の言う通り、かもな)


「う~ん。卒業式、終わった後にね、なんでか卒業生からやたら声かけられてね…。ああ、思い出しただけでも憂鬱になるな。」


「なんとなくわかります。」


「この前の時はちょっといろいろあって、欠席したから何もなかったんだけど…。」


 そう言って俺の方にちらっと視線を向けた。


 ああ、親父の事故でってことか。


 ちょうどその頃が酷く慌ただしかった。

 かろうじて、お袋に付き添われて卒業証書だけ受け取りに行ったっけ。


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