第40話 男除けの二人
「露骨に態度替え過ぎじゃないのかな、景樹君。」
景樹呼びになったのね、あやねる。
というか、柊先輩への対抗ととったほうがいいのかな。
あやねる、確か景樹を、って言うか一般の男子には距離を取っていたはずだったような気がするんだが…。
(正解)
「宍倉さんとは、もう結構喋ってるし、班も一緒だろう?柊先輩とは、そりゃあ対応は変わるよ。」
正確には景樹はへこまされた後の神対応に負けたということだけど、な!
「そりゃあそうだけど…。柊先輩の魅力がやばすぎることもわかってるけど…。そこまで露骨に対応変わるとねえ。」
「ふふふ。彩ちゃんもそんな風に思うんだね。彩ちゃん自身、充分美少女だと思ってたけど。」
「自分が美少女とかはともかく、柊先輩と比べられて太刀打ちできるの、バスケ部の狩野瑠衣先輩ぐらいじゃないですか。」
おっ、自分の美少女は否定しないんですね、あやねる。
結構最初の印象と変わってきてるんですけど。
(敵が多いからな、彩ちゃん。余裕なくなってきてんじゃないかな)
(余裕って、なに?)
(唐変木は黙ってな!)
唐変木!
久しぶりに聞いた気がする。
「まあ、瑠衣は本当に変わったからね。もともとかわいい子だったんっだけど、バスケに打ち込んでて、おしゃれもそれほどじゃなかったんだよ。でもモデルのバイトはじめて、どんどん綺麗になったんだよね。加えてあの身長でしょう。私くらいだと国内の雑誌レベルだけど、瑠衣は世界で活躍できる下地が出来つつあるからね。」
「世界、ですか?」
「そう、パリコレなんか、ね」
柊先輩と同じ読モと言っても意識に差があるんだ。
「えっと、先輩も卒業後はモデルとして活躍するんですか?」
反射的に聞いてしまった。
いや、ミーハー根性が出てしまった。
「あ、私のこと気にしてくれるの?嬉しいよ、白石君!」
結構な喜びようだった。それと比例するかのように、あやねるの顔の表情がなくなってきた。
「そ、そういう訳ではないんですけど…。」
「う~ん、白石君にそう言われると、そっちもいいかな、なんて思うけど…。一応特進なんで、国立大学進学を考えてます。」
だとは思った。
頭が良くて、美人、スタイルもいいと来た。でも…。
俺がそんなことを思っても、到底手が届かない高嶺の花なんだろうけど…。
俺には、無理、だな、この人。
うちの親父に感謝をしていることは解る。
本人が気づいてるかどうか知らないが、岡林先輩から、事故現場にいて、それを親御さんに隠匿され良心の呵責に苛まれていることもわかった。
それでも…。
まだ何かを隠しているこの先輩は、信用できない。
そんな考えが表情に出たようで、柊先輩の明るかった顔に少し曇ったような印象が重なった。
「やっぱり、特進の人は目標が高いですね、な、景樹。」
俺はそんな先輩の表情に気付かないふりで、景樹に話を振った。
「そうですね。自分なんかはこの高校に受かっただけで満足しちゃいましたから。」
落ち込んでた気持ちを無事に切り替えられたようで、喜ばしい。
人のことを笑いの種にするから、天罰が当たったんだぜ、景樹君。
「そういえば、伊乃莉とはどこかで待ち合わせ?」
あやねるに視線を向けてそう聞いた。
憮然とした態度だったあやねるの顔が少しほころんだ。
「うん、いのすけは駅前のファミレスで待ってるはずだよ。そこまで一緒に帰ろうよ、光人君、佐藤君。」
結局、また佐藤君呼びに戻りましたね、あやねる。
「景樹もあとは帰るだけだろう?」
「まあ、そうだな。うん、一緒に帰ろう。お邪魔じゃないかな、宍倉さん?」
この前は二人きりで帰るのを須藤が妨害した、ということでえらくあたりが酷かったようだが…。
もし景樹は大丈夫ってことになると、俺もあやねるに対する見方が変わって来るかな。
ついこの前までは景樹に対しても一歩引いていたような感じだったはずなんだが…。
「大丈夫!変な気を使わなくても大丈夫だよ、佐藤君。」
おお、やっぱりイケメン強しってことか!
「柊先輩が一緒に帰ろうって誘ってくれたんだ。同じ書記ってことで。でも光人君と佐藤君が一緒だと変な人に声を掛けられることもないから、安心。そうですよね、先輩。」
さっきの不機嫌な表情はどこへやら。
かなり明るい声でそう言った。
「そうなんだよね。まあ、もう慣れてきてはいるんだけど…。街中を一人で帰ってたりすると、他アマに変な男の人に声をかけられて…。大抵は冷たく接すれば引き下がるんだけど、その行動自体が面倒臭いの。ちょうど彩ちゃんと一緒に帰れそうだから、生徒会のこととか、この学校のこととか話しながら帰るのも楽しいかなって思ったけど、彩ちゃんも凄くかわいいでしょう。だと、怖い思いさせちゃうかなって思ってた。」
そうか、柊先輩も一緒なのか。
ちょっと面倒くさいな、それ。
「君たちが一緒にいてくれたら、そういう変な輩も寄って来ないでしょうし…。」
「自分らは男除けってことですね!了解です、柊先輩。」
爽やかイケメン佐藤景樹君、完全復活!やっと関心なしと思われたところから戻ってきてくれて、俺は嬉しいよ。
「あやねる、結構景樹を避けてたようだったけど、平気なのか?」
暗に男性恐怖症について触れてみたが、「うん、大丈夫!心配かけてごめん」と言ってきたので、ひとまず安心した。
「じゃあ、ちょっと教室に荷物取りに行ってきます。」
景樹がそう言ったので、俺もあわてて、景樹を追った。




